旅の日記

エクアドル・キト編その10(2000年11月7〜10日)

2000年11月7日(火) ゴールイン!!(The end of a trip)

 いよいよ牛次郎の旅、最後の日となった。
 今日の目的地は旅の出発地点であるキトだが、暗くなってから入るのは嫌なので、朝早くバーニョスの町を出る。町の出口からは、噴煙を上げるトゥングラウア火山がはっきりと見えた。

 キトまでは約200キロほど。しかし、最終日だというのにブレーキの調子が悪い。最後で事故は起こしたくないので慎重に走る。
 アンバトの町で右に折れ、キトと南エクアドルを結ぶ幹線に出る。この幹線道路は「アンデスの廊下」と呼ばれるそうで、その名の通り、アンデスの峰々をぬって走っている。天気が良かったので、東に標高6000メートル弱のコトパクシ火山が見えた。

 慎重に走ったものの、幹線道路はそれまでのエクアドルの道よりはるかに走りやすく、午後にはキトに着いた。見覚えのある通り、建物・・・確かに帰ってきたのだ。我々はキトを北に出て、ちゃんと南から戻って来られたのだ。ちょっとコロンブスの気分。
 そして、旅の出発地点である旧市街のホテル「スクレ」の前に牛次郎を停めたところで、「牛次郎の旅」は終了した。146日間、約3500リットルのガソリンを消費し、約22000キロを走った旅だった(うち、私は一時帰国したので91日間、約17200キロに参加)。
 コロンビアのゲリラ地帯で突然のエンスト、ブラジルのパンタナール湿原の真っ只中でのクラッチ故障・・・「今度こそダメかも」という故障、トラブルが何度もあった。しかし、牛次郎はその度に復活の雄叫びをあげてくれた。「まだ走れる」、まるでそう言っている様だった。
 最後の方は風前の灯のような状態だった。アクセルを開けてないと止まってしまいそうなアイドリング、エンジンを固定するボルトは欠落し、エンジンはカタカタ震え、ブレーキは効かず、始動の度に押しがけが必要だった。しかし、無事にゴールインできたのだ。まずは牛次郎に感謝、感謝。

 「スクレ」の前でシャンパンを開け、記念写真を撮ってもらうが、関係ないオヤジが割りこんできて感動が薄れた。
 5ヵ月ぶりに「スクレ」にチェックインし、バイクを預けた従業員カルロスと再会した。アヤシイ日本語を連発する彼だが、最近覚えたのは「オクサンニユウゾ」だった。
 「スクレ」はなぜか日本人旅行者で溢れており、屋上の良い部屋は取れなかった。代わりに2階の、窓もコンセントも無い「商売部屋」に入るしかなかった(スクレはもともと売春宿である)。とりあえず荷物を全部部屋に運び、パソコンだけを持って牛次郎を停められる駐車場を探す(以前はカルロスの家に停めていたが、今の状態で前の坂は登れまい)。

 まずは旧市街の駐車場をあたるが、「デカすぎる」と断られてしまう。仕方無しに新市街に向かう。
 途中、ショッピングセンターで待望のピザ・ハットのピザを食べ、カフェでインターネットに接続する。しかし、以前愛用していたカフェは新たにプロキシサーバーを導入し、接続が出来なくなっていた。仕様が無く、料金の高いショッピングセンターの中のカフェに行く。

 新市街での駐車場探しは意外と難航した。24時間空いている駐車場がなかなか無いのである。そこで何の施設か分からないが、迎賓館のような立派な建物と駐車場のある所の入り口に警備員が立っていたので、ダメもとで中に一晩停めさせてくれないか、と頼む。すると意外にも朝6時までなら良いという。朝6時になったら前の道路に動かしておくから、というので、カギとチップを渡して旧市街に戻る。

 やれやれ、これで最終日も終わった。明日から牛次郎の売却計画始動である。


出費                     6$    宿代(2泊分)
     1$ 朝食(卵、パン)
     11.2$ カルロスへの土産のウイスキー
     2.3$  夕食(ピザ)
     0.95$  インターネット
     0.25$  タクシー
計        21.7US$(約2300円)
宿泊         Hostal Sucre インターネット    Net Place


2000年11月8日(水) 牛次郎売却計画(Selling the van)

 朝は久しぶりに「野口カフェ」へ行って朝食を食べる。以前スクレにいた野口さんがよく行くカフェだったので、勝手に名づけたカフェだが、ここのホットサンドが美味いのだ。
 朝食後は新市街へ牛次郎を取りに行く。しかし、警備員は約束どおり前の通りに路上駐車してくれていたものの、前後にピッタリと他の車がつき、出るのに一苦労だった。

 さて、牛次郎の売却計画始動である。実は宿の従業員カルロスが前から興味を示していたので、彼になら安く売っても良いかと考えていたのだが、手持ちの現金が無いらしい。あてが外れてしまったのだ。
 牛次郎を買ったときと同様、週末に開かれる車の自由市で売れば、1500ドルになる事は間違い無い。しかし、個人売買だと時間がかかる。ウメさんたちは早くヨーロッパに飛びたいし、私も早くバイクをエクアドルから出したいので、あまり時間がかけられないのだ。
 まずはいくらの金額がつくのか、新市街の中古車屋を回る。
 1軒目の店主は興味を持ち、一時は1200ドルで交渉がまとまりかけたが、牛次郎のエンジンが止まり、押しがけしているところを目撃されてアウト。
 仕方なく他の中古車屋を数軒回るが、いずれも金額の交渉まで行かず、「古すぎるのでうちでは扱えない」という。店舗面積の決まっている中古車屋では利幅の大きい、年式の新しい車しか扱わないのだそうだ。これは意外と難航しそうだぞ。やはり時間をかけて自由市に行くしかないのか・・・。

 我々は最後の望みをかけ、カルロスの友人のメカニックの所に向かった。彼は出発前に牛次郎の整備をしてくれた人だ。彼なら牛次郎を元の調子に戻す事は簡単だろう。一度整備しているから、外見はボロくなった牛次郎でも、手をかければ金になることをきっと理解してくれるだろう。
  キトの外れの方にある彼の工場に行くと、彼はちゃんと覚えていてくれたらしく、笑顔で迎えてくれた。そして話も持ちかけると、何と二つ返事でOK!!金額は1200ドル、ただし現金を用意するのに1週間待ってくれという。本当に1週間で集まるのか少々不安だが、信頼おける人なので待つことにしよう。何、あなたなら少々不足しても大目に見てあげましょう。

 こうして、牛次郎売却計画は開始からわずか4時間ほどでカタがついた。牛次郎はそのままメカニックの所に置いていく事にした。淋しがるな、1週間後、現金の受け取りと名義の変更の時にまた会いに来るから。しかし、その時が本当のお別れだ・・・。


出費                   0.7$    朝食(野口カフェのホットサンド)
     1.7$ 昼食(焼肉)
     0.6$ トロリーバス
計        3US$(約320円)
宿泊         Hostal Sucre


2000年11月9日(木) ギュウちゃんと再会する(Meeting again with a friend)

 牛次郎売却のメドがついたら、今度はバイクの整備の番だ。
 バイクを預けたホテル「スクレ」の従業員カルロスは、今夜が泊まりの番で明日の朝に家に帰るから、その時に一緒に行こうと言ってくれた。というわけで明日に備え、整備に必要なオイルを買いに新市街に行く。

 まずはショッピングセンターの中のインターエットカフェに寄ってネット接続したあと、同じビル内のホームセンターに行く。高級グレードのエンジンオイルを探すが、「モービル1」は粘土の低い(低温用)のものしか置いていなかった。仕方なく他をあたることにするが、「スターターアルコール」が売っていたので、買ってみることにする。これはスプレー式のアルコールだが、エンジンのかかりの悪いときにエアクリーナーに向かって吹くと、ガソリンより発火しやすいアルコールがエンジンに回り、始動しやすくなるというシロモノだ。使ったことはないので効果のほどは?だが、5ヵ月ほったらかしたバイクのエンジンがたやすくかかるとは思えないので、試しに買うことにしたのだ。
 ショッピングセンターの後はオイルを探して新市街中をうろつく。キトにはいいバイク屋が見当たらないので、車用品屋でオイルを探すのだが、あまりいい品質のものは置いていない。仕方なく、バスに乗って空港の近くの車用品街まで行き、ようやく「モービル1」の15−50Wを見つけた。

 オイルを買って宿に帰ると、やはり買物から帰ってきたウメさんたちがスーパーで偶然、ギュウちゃんに会ったという。読者諸君、ギュウちゃんを覚えているだろうか?彼女は某政府系外殻団体のサンパウロ駐在員の奥様で、時間をみつけては各地を旅行して歩いている「駐在員妻バックパッカー」。私がサンパウロにいたとき、彼女の家に遊びに行ったことがあるのだ。
 ギュウちゃんは今回、ガラパゴス島をメインにエクアドルに観光にやってきた。メールのやりとりはしていたので、11日ごろにキトで待ち合わせをしていたのだが、会ってしまったのでは話は早い。今夜、彼女の宿に遊びに行く事になったそうだ。
 夕食はスーパーで安く売っていたマグロをヅケにして食べることにしたので、「スクレ」でタレに漬け込んでから、ウメさんたちと3人でギュウちゃんの宿に行く。

 ギュウちゃんの宿は新市街の、我々が「グリンゴ(白人)街」と呼んでいるツーリストエリアにあった。個室で1泊7ドルは「スクレ」の約9倍だが、綺麗な一軒家の宿で、電子レンジ付きのキッチンもとても広い。値段の分の価値は十分にある、良さそうな宿だった。
 宿にはギュウちゃんの他に、ギュウちゃんの友達で海外青年協力隊でエクアドルに来ているマドカさんと、さらにマドカさんの友達で、日本から旅行にやってきている女性二人がいた。マドカさんの友達の二人は眼科に勤めているそうなので、私もかつて眼病と闘った経験を生かし、白内障や緑内障など「眼病ネタ」で盛りあがった。何てコアな話題なんだろう・・・。

 みんなでマグロのヅケを食べながら夜11時頃まで盛りあがった。ギュウちゃんたちがキトにいる間にもう1回会う約束をし、旧市街へタクシーで帰った。


出費                  0.65$    朝食(野口カフェのホットサンド)
     0.15$ トロリーバス
     0.24$ 市バス
     21.74$ オイル
     0.50$ タクシー
     1.25$ インターネット
     2.70$ スターターアルコール
計        27.23US$(約2890円)
宿泊         Hostal Sucre インターネット    Net Place


2000年11月10日(金) DR復活作戦(The bike wakes up)

 今日はいよいよ5ヵ月間もの間、離れ離れだった愛車DR800Sと再会する日だ。まるで不倫の関係を精算して、正妻に戻るような気分。朝、仕事の終えたカルロスと一緒に彼に家にバスで行く。すると何故か、カルロスのお兄さんとその友達もくっついてきた。はて・・・?

 カルロスの家に着き、庭の小屋に入ると、おお、愛しのDRが!!今まで浮気していてゴメン・・・とよく見ると、ホコリまみれで可哀想。小屋の中だったのでカバーをかけなかったのが失敗だったみたいだ。まずは小屋から出し、エンジンをかけてみることにする。

 バッテリーの電極を繋ぎ、ガソリンコックをオンにする。5ヵ月ほったらかしだったのでバッテリーは完全にあがっていると思われたが、意外にも自力でセルモーターは回った。しかし、やはりエンジンはかからない。カルロスから車のバッテリーを借り、ブースターケーブルで繋いでみるが、さっきより勢いよくセルは回るものの、やはりかからない。
 そこで、昨日買ったスターターアルコールを試して見る。説明を見ると、「車、トラック、スノーモービル、芝刈り機、モーターボートに・・・」と、バイクが無いのが気になるが、ええい面倒だ、使ってしまえ。エアクリーナーに向けて約1秒ほど噴射し、セルを回す。すると、何と一発で「ボボボ・・・」とエンジンが目を覚ました!
 ちゃんとアイドリングが安定するまでに大分時間はかかったが、思いのほか簡単にエンジンはかかった。すごいなあ、スターターアルコール。カナダでバイクを受け取ったときにも、これがあれば良かった。でも、使いすぎるとエンジンに良くないんだろうなあ・・・。

 エンジンが無事かかった後は、本格的な整備に入る。まずは簡単に洗車してホコリを流してから、前後スプロケットとチェーンを交換する。この作業で午前中いっぱいかかった。
 午後は一番面倒なバランサーチェーンの調整に取りかかる。この作業にはエンジン左側のクランクケースを開けなくてはならないが、作業を終えて戻すとき、オイルが漏れないようガスケットを交換しなければならない。前回、日本でガスケットを交換したとき、古いガスケットがなかなかはがれなくて大変苦労したのだ。
 しかし、今回問題だったのは新しいガスケットの方だった。古いガスケットは簡単にはがれたのだが、交換用に持っていた新しいガスケットが荷物の中で痛み、キズがついたり、切れていたりした。7月に日本に帰ったときに新しくガスケットを2枚買っていたのだが、なるべくなら前から持っていたのから使いたい。なんとか組み付けてみるが、やはりオイルが漏れてきた・・・。これは何とかしなければ。

 オイル漏れの対処はまた考えるとして、先にバルブのクリアランスなどを調整していると、いつの間にか暗くなってきた。すると、カルロスのお兄さんが電球とコードを庭まで引っ張ってきて明るくしてくれた。そういえば、お兄さんとその友達はずっと私の作業を見ている。まるで、何かを待っているような・・・。
 その後も作業をしていると、カルロスのお兄さんは痺れを切らしたらしく、小屋に置いてあった私のヘルメットを被って「バモス!(レッツゴーの意)」と言い出した。やはりバイクに乗りたいのね・・・。
 お兄さんたちには色々と手伝ってもらったので邪険にできず、オイル漏れ対策は明日にして、試運転を行う。お兄さんとその友達を交代で乗せ、カルロスの家のまわりを2周したが、久しぶりのDRはパワーはあるし、凸凹もまったく気にならないサスペンションをしているし、感動した。やっぱ牛次郎とは違うわ。久々に運転するのにいきなり二人乗りというのは緊張したが、まあ「ライドテンデム」だからいいか。

 結局、カルロスの家を後にしたのは夜8時ごろだった。朝10時に始めたから、約10時間、昼食も食べずに作業していたことになる。さすがに疲れたが、それでもまだ終わってないんだよなあ・・・。明日も来なければ。


本日の走行距離      1.2キロ(計24079キロ)*復活!

出費                  0.65$    朝食(野口カフェのホットサンド)    
     2$ タクシー
計       2.65US$(約280円)

宿泊         Hostal Sucre