朝7時過ぎ、ツアーのダッジ・バンが宿に迎えに来た。あたりはまだ薄暗いが、天気はまずまずだ。バンは街をめぐって他の客を拾い、アルゼンチンとの国境を目指した。朝焼けの中、ダートを走るバンに乗っているのはドライバーを含めて10人。ちょっと窮屈だ。
日帰りでもパスポートの手続きはしなくてはならず、チリの出国スタンプとアルゼンチンの入国スタンプをパスポートにもらう。そしてバンはまた延々と走りつづける。なにしろプエルト・ナタレスから氷河までは片道で300キロは優にある。そして、そのほとんどがダートなのだ。今日のツアーの16時間の行程のうち、実に13時間ほどを車の中で過ごすことになる。
アルゼンチン側に入ってカラファテの街に近づいたときだった。坂の向こうから、突然2台のオートバイが現れた。一台はホンダXRバハ、もう一台も同じくホンダのSL230!そしてあの見覚えのあるジャッケットは・・・まぎれもない、クスコで会ったtakataka夫妻ではないか!!
トレッキングや山登りが好きな彼らは、先日南米の最高峰アコンカグア(6960m)に登頂(!) し、パタゴニアに南下してきていると私にメールをくれた。そろそろどこかで会えるかと思っていたが、こんなところですれ違うことになるとは!私は車に乗っているので、彼らは気付く由も無い。ほんの一瞬の再会だった・・・。
一応チラの宿の住所はメールしておいたのだが、彼らのことだから、きっとこのままパイネ国立公園に入ってキャンプしながらトレッキングを楽しむのだろう。再会はむずかしいかもしれない。そういえば、ゴリラのマサとも会えなかったし・・・。
正午前、バンはカラファテの街のガソリンスタンドに入った。氷河の方にはまともに食べられるところが無いというので、スタンドでハンバーガーを食べる。
すると、店内に一人のライダーが入ってきた。身長190センチあまり、顔は昔のアニメ「クラッシャージョウ」に出てきた「タロス」(知ってる?)のように、もっと分かりやすく言えば、フランケンシュタインのように、ゴツい。・・・って、ありゃエクアドルで会ったリカルドじゃん!なーにやってのよ、こんなとこで・・・。
というわけで再会を喜び、抱き合う。彼は私とバーニョス会ったあとキトに戻り、そしてまた南を目指して下ってきたそうな。ペルー、ボリビアの山中を通ってきたというが、なるほど、ピカピカだった彼の黄色いホンダ・ドミネーターは(実際、あまりにも黄色が鮮やかだったので、彼の彼女は「ピカチュウバイク」と呼んでいた)、キズだらけのボロボロになっていた。厚い唇で「大したことないさ」とニヤリと笑うが、たいへんな苦労がうかがい知れる・・・。
ツアーのバンが出るというのであまりゆっくりと話すことが出来なかったが、お互いの旅の無事を祈り、またメールを送ることを約束した。・・・まあ、彼なら殺しても死ななそうだが。(彼はコロンビアのゲリラに誘拐された経験もアリ)
さて、そこから目指す氷河はさらに2時間かかる。山中のダートを揺られ、「ロス・グラシアレス国立公園」の入園ゲートで一人5ペソを払い、さらに進むと、ぬおお!アルヘンティーノ湖に落ちこむ巨大な氷の塊が見えてきた。あれが幅4キロ、長さ14キロ、水面からの高さ約50m、そして世界でも極めて活発に「流れている」氷河、ペリト・モレノ氷河だ!
駐車場に止まったバンを降り、興奮のあまり急ぎ足で展望台まで行くと、そこからの眺めはこ〜んな感じだった。
ひゃ〜!まさに氷の河、すんごい迫力で展望台の間近まで迫っております。氷河といえば、もう一年以上も前にカナダで「アサバスカ氷河」を見たけれど、こっちの方が断然に「生きている」という感じがする。というのも、アサバスカ氷河は表面まで行って歩いたけれど、「動いている」というのは実感できない。それに比べて、このペリト・モレノ氷河は一番激しいところで1日に2mも移動し、展望台から見ていると頻繁に「ピシッ」とか「パキッ」とかいう、氷が動いている音が聞こえてくるのだ。
そしてときおり氷河の先端部が崩れ、轟音を立てて湖に落ちて行くのが見える。幸運でなければ見られないと思っていたが、私がいた2時間のうちに何度も崩落はあり、一番大きなものでは直径20メートルほどの氷の塊が水飛沫をあげて湖に落ちて行った。(上の写真の左端、湖面に広がっている白い波紋がその氷が落ちた跡)
いや〜、その光景と音に大感動!そして、氷の美しいこと。太陽が出ると本当に氷が真っ青に見えるのだ。氷河の氷はすごい圧力で固められた極めて透明度の高いものだから、青以外の光を吸収してしまうためらしい。
氷河はたいへん美しいが、その分、空気もたいへん冷たい。まるでスキー場にいるような寒さ、耳がキーンと痛くなる。自分のバイクで来れなくて良かったかも・・・。
見学時間の2時間はあっというまに過ぎ、再びバンは来た道を引き返した。帰りにカラファテの街中に30分ほど寄ったが、プエルト・ナタレスよりもずっとセンスの良いみやげ物屋をゆっくり見て回るには短すぎた。
夜9時、国境で実に6個目となるチリの入国スタンプをもらう。一応、これが最後の予定だが・・・。
チラの宿に帰ったのは10時半頃。疲れたが、氷河は実に素晴らしかった。南米で感動した場所の5本指には確実に入るな・・・。
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