昨夜は大分遅かったので、起きたのは昼近くだった。昼の間はまた安部さんとブラブラ過ごしていたが、夕方になって昨日の4人が部屋にやってきて、私のホームページをパソコンで見た。
そしてまた6人で夕食を食べに行く。みんながクスコ名物を食べたいというので、ここらへんのペルーの名物であるクイ(モルモットのような小哺乳類)を食べに行く。クイはエクアドルの名物でもあり、キトの安宿「スクレ」では生きているクイをペットとして飼っている人もいた。愛くるしい生きた姿を知っていると少々食べにくいが、いつかは食べようと思っていたのでちょうどいい。
クイは貴重なタンパク源としておそらくスペイン人の到来よりも昔から食べられていたのだろう。インディヘナ(先住民)の食文化に定着しているが、今となっては牛肉や豚肉より高い。通りの客引きと交渉し、1匹2人前で25ソル、ビールかピスコサワーつき、という一番良い条件を出したレストランに入る。
ロースト用の窯に入れられる前のクイを見せてもらったが、すでに毛をむしられて干された後だった。いわばミイラ状態、生きていたころよりだいぶ小さくなっているだろう。それでも「スクレ」で見せてもらった3匹よりもずっと大きかった。
クイが焼きあがるまでにはけっこう時間がかかった。20分ほど待ち、無料のビールが無くなって追加したころ、待望のクイのローストがテーブルに運ばれた。
あわれクイ君、全身からジュージューと脂汗をかき、口にはパプリカの実をくわえさせられている。ツンツンとつつくと、皮も身もけっこう固い。とりあえず突合せのじゃがいもなんぞを食べながら、どこから手を出そうか思案する。
そしておもむろにクイ君の左後ろ足をつかみ、引き剥がしにかかる。バキバキと小骨の折れる音がするが 、罪悪感より食欲が勝る。足の骨は簡単に折れたが、弾力のある表面の皮がなかなか切れず、足と胴体をつなぎとめようとする。
力にまかせ、フンガ!と足を引き千切る。しかし足が取れたのはいいが、勢い余った手はビールグラスを突き飛ばし、コナゴナに割ってしまった。他の動物の肉を食べるというのは、本来、弱肉強食の闘いである。そんなことを彷彿とさせる、激しい食卓となった。
格闘の末、胴体と孤立した左足にかじりつく。果たしてその味は・・・なんかボソボソとして、それでいて弾力もあるムッチリとした食感。クイ君の肌には生臭さと消そうと多量の香辛料がすりつけられていて、したがって味付けはスパイシーではあるが、消しきれなかった生臭さも口の中に広がる。どちらかといえば鶏肉に近いが、味ははるかに劣ると思われる・・・。
クイが運ばれるまで興奮状態にあったみんなも、味を知って急に大人しくなった。しかし、ある程度予測できた事だった。クイがあまりおいしくないものとは聞いていたし、それでも食べるというのは、味を楽しむというより「ネズミを食った」というイベント性を求めていたからだ。
「クイ食べるのって、富士山登山と一緒だね。一度でいいや」
「あら、あたし富士山はもう1回登ってもいいと思ってますよ」
などという会話を交わしながら、バリバリとクイ君を八つ裂きの刑に処してたいらげる。あまり肉はついていないから、腹は突合せのじゃがいもで膨れた感じだ。
皿には辛すぎて手が出せないパプリカの実を加えたままの首と、バラバラになった体の残骸が残った。あわれクイ君、安らかに眠れ。
食後、みんなは飲みに行ったが、私はシゲさんの家で麻雀の約束があったので別れた。
待望のシゲさんとの麻雀は、他のメンツが「ペンション花田」の管理人・梶谷さんと、今日リマから着いたばかりの医大生だった。そして今夜、なかなか見られないものを見てしまった。
ニ半荘目、私が切った七萬に、医大生は「ロン!」と叫び手牌を倒した。「出た!四暗刻単騎!!」・・・麻雀の分からない人に簡単に説明すると、麻雀の中では「役満」と呼ばれる、一番点数の高い勝ち方がある。この四暗刻単騎はダブル役満と呼ばれ、普通の役満の2倍の点数、一年打ってもなかなか見られない手だ。海外麻雀としてはレートの少々高いシゲさんちでは、この手だけで30ドルは軽く行くことになる。私はあまりのことに、頭の中が真っ白になった。
しかし、冷静だったのは梶谷さんだった。医大生の捨て牌を見ていた彼は、「ちょっとマズいことになっているぞ」と言った。麻雀では、自分の捨てた牌でアガることは「フリテン」と呼ばれる反則で、逆にみんなに罰金を払わねばならない。そして今回、医大生はそのフリテンを犯していたのである。
医大生にとって、今回が人生初めての役満だったそうである。そんな天国から一気に地獄に落ちてしまった彼は、その後復活することは無かった。終わって見ると、彼の一人負け。痛いげな学生から、3人のいい大人が搾取するという結果になってしまった。
しかし、勝負の世界は厳しいのだ。彼から勝ち金4ドルを受け取り、満足して帰る私であった。これにこりずに、またやりましょう!
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