朝、マサのいるというキャンプ場を探すが、町の人に聞いてもよくわからない。あまり時間も無いので、エクアドルに次ぐ2回目の再会をあきらめてアリカの町を後にする。なに、マサも年末のパタゴニアを目指しているので、またどこかで会えるだろう。
チリ〜ペルー国境の通過は思ったより簡単だった。チリ側でパスポートに出国のスタンプをもらい、ペルミソをキャンセル。ペルー側で入国スタンプをもらい、そしてペルーのペルミソを発行してもらう。車体に貼るシールまで用意されたが、手数料などは一切無し。荷物検査も無かったので楽だった。
これでエクアドル、コロンビア、ベネズエラ、ブラジル、パラグアイ、アルゼンチン、チリに次ぐ「牛次郎」の旅8ヶ国目、そして最後の国ペルーに無事入国。ペルー側で時計を見ると、チリに比べて2時間も遅れていた。チリとペルーは東西にあまりずれていないが、それでも標準時間が1時間違い、またチリがサマータイムを採用しているのでさらに1時間ずれたのだ。何か得したような気分。
目的地リマまで約1350キロ。チリ北部とあまり変わらない、砂漠の中の一本道をひたすら走る。ところどころにパトカーがいて簡単なチェックがあるが、あまりしつこくはない。たまにタバコやジュースを要求されるが、ないッスよ、と笑顔で言うと通してくれる。
ウメさんが運転している間、私は大抵後ろで寝ているが、最近は猪飼君が残していった「相対性理論を楽しむ本」(佐藤勝彦監修、PHP文庫刊)という本を読んでいる。カタそうなタイトルなので敬遠していたのだが、一度読み始めたら目からウロコが落ちた。「光の速度で進むと時間が止まる」という、かのアインシュタインが発見した理論の事は知っていたが、何でそうなるのかは知らなかった。この本はごく簡単に、完全に文系の私でも理解できるように書かれており、理論の真髄を知ると世界が違って見えるようになった。
詳しいことは省くが、相対性理論は世の中で「絶対」なのは光の速度のみであり、そこから紐解くと、実は我々が誰に対しても平等に流れると思っていた時間も「絶対」では無いということを証明した。観察者の速度、見方により時間は微妙にずれ、つまりは誰から見ても同じ「現在」は無く、過去も未来も無い。時間さえも「相対的」なものだったのだ。これは私にとって、とてもショッキングだった。ウメさんとKさんにとってはそうではなかったようだが・・・。
本はさらにE=mc2(cの2乗)という、有名な方程式について説明する。Eは物質の持つエネルギー、mはその物質の質量、c2は光速の2乗。相対性理論をつきつめていくと、エネルギーと質量には密接な関係があり、1円玉6枚(6グラム)を全てエネルギーに換えると東京ドーム一杯分の水を沸騰させるエネルギーを生む、ということが説明されるのだ。これは「質量保存の法則」「エネルギー保存の法則」という、それまでの物理学の二大法則と完全に矛盾する。
実際は質量をエネルギーに換えられる物質というのはなかなか無いが、1938年、ウランという物質が可能であることが発見された。それが核兵器につながったことまで、本は説明している。
あ、詳しい事は省くと書いたのにまた長々と書いてしまった・・・。とにかく目からウロコが落ちまくり、牛次郎の中はスーパーの鮮魚売場の厨房くらいウロコだらけなのである。
深夜1時まで走り(チリ時間では午前3時!)、リマまで700キロ弱残した地点まで来た。国道の料金所があり、そこら中に仮眠をとっているトラックがいたので、ペルーでもここなら安心だろうと寝に入った。
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