旅の日記

チリ・パイネ国立公園編(2001年2月14〜17日)

2001年2月14日(水) ペンギンと戯れる(The Penguins of Patagonia)

 朝、これからフェリーでフェゴ島へ渡り、ウシュアイアを目指すというアドリアンと別れてプンタ・アレーナスを出発する。目指すはチリ側パタゴニアの観光の目玉・パイネ国立公園だが、その前に寄るところがあった。おととい行こうと思って行けなかった、ペンギンのコロニーだ。 実はおととい、迷って引き返し、アドリアンと出会って一緒にプンタ・アレーナスに向かう途中、それらしき看板を見つけていたのだ。

 というわけで、今朝はその看板に従って進む。よく整備されたダートで、おとといの道とは比べものにならない。やっぱりこっちがメインのルートだ。
 国道から30キロほど走って、ペンギンのコロニーの入口に着く。入場料2000ペソを支払い、オトウエイ湾に面した海岸沿いのコロニーに入ると、いるわいるわ、マゼランペンギンの大群だ!

 浜にいたマゼランペンギンは、「ブー」とか「ボー」とか鳴いていた。求愛の鳴き声だろうか、大空に口をあけて一生懸命に鳴いている。それにしても、ちょっと音の感じがペンギンのイメージと違うなあ。そういえば、昔オーストラリアの海でイルカに触ったときも、イルカは「キュルキュル」鳴くものかと期待していたら、頭の上にある気孔(つまり鼻の穴)から、「ゲフッ」とオヤジのゲップみたいな音を出していたっけ・・・。
 そして陸の方にいたペンギンたちは、集合時間かなにかなのだろうか、みんな一斉に浜に向けて行進していた。そのヨチヨチ歩きが、かわいいのなんの。人間はロープで区切られた遊歩道から出られないのだが、ペンギンたちは恐れる事を知らず、けっこう近くに来たり遊歩道を横切ったりする。水族館だって、こんなに間近に見られないぞ。しかも、こっちは天然モノだ。

 ペンギンを堪能した後は約300キロ北のパイネ国立公園を目指した。例によって風が強く、寒い。パイネ観光の基地となるプエルト・ナタレスの街に到着するが、昼食を食べただけでさらに北を目指す。公園内にバイクで入れるキャンプ場があると、アドリアンから聞いていたのだ。

 日が傾きかけたころ、パイネ国立公園(正確にはトーレス・デル・パイネ国立公園)のゲートに到着した。パタゴニアでも屈指の名所なので、てっきり公園に向かう道や公園内の道は舗装かと思っていたら、全部ダートだった。別に構わないけど。
 雪山や湖、氷河、滝など公園内には見所がたくさんあるが、なかでも有名なのは公園の名前にもなっている「トーレス・デル・パイネ」(パイネの塔)という、3本の塔状の岩山。まずはここを見ようと、そのふもとにあるキャンプ場を目指す。しかし、その途中の景色も十分に素晴らしい。

 そのキャンプ場は「ラス・トーレス」というホテルと、同名の山小屋(レフヒオという)と隣接で、本道から7キロほど入る。本道から分かれると、道はまずパイネ川という川を渡らねばならない。当然橋があるのだが、この木の橋が湿って滑りやすくなっており、私は豪快にコケてしまった。
 すぐ後ろにホテルの白いトラックがいて、バイクを起こすのを手伝ってくれた。あー、やってしまった、と思った。しかし、コケるぐらいならまだまだ可愛いのだ!この橋とパイネ川が後にどんな事になるか、このときの私は想像もしなかった。そして、この白いトラックも後でまた登場するのだ・・・。

 そんなこんなでキャンプ場に到着。遠くに雪を被った3本の「トーレス・デル・パイネ」をのぞむ、絶景のキャンプ場だ。おまけにシャワーはガス湯沸し機つきで、熱いお湯がバンバン出る。こりゃ最高、といい気分で寝袋に入った。それが、後でこのキャンプ場をあんなに出たくなるとは・・・。


本日の走行距離        478キロ(計37627.8キロ

出費                  6500P   プンタ・アレーナスの宿2泊分
   5650P  ガソリン
   2000P  ペンギン・コロニー入場料
   1200P  朝食(サンドイッチ)
   7900P  ガソリン
   3400P  昼食(サーモン)
   6500P  パイネ国立公園入場料
   3000P  キャンプ場
計        36150P(約7100
宿泊         Camping Las Torres


2001年2月15日(木) パイネの3本の塔(The towers of Paine)

 朝、まだ日が登りきらないうちにカメラ、三脚、水、少々の食料を持って、キャンプ場を出発する。目指すは「トーレス・デル・パイネ」のふもとの展望台、片道約4時間のトレッキングだ。

 ゆっくり歩こうと思うのだが、天気が良いうちに着きたいと思うと気があせり、早歩きになってしまう。実際、少しづつ雲が多くなってきている。
 歩き始めてすぐに登りが始まり、最初の峠を越すまでに約1時間。その後、沢づたいに伸びるルートは割りと平坦だったが、最後の1時間が辛かった。
 距離にすれば大したことは無いのだが、急斜面な上に、足場はモレーンと言われる氷河が岩を削り取ったあとの深い砂利。とても歩きにくいのだ。息はアガリ、ももはパンパン。こんな調子じゃ、パイネ国立公園を半周する「サーキット」と呼ばれる4泊5日のトレッキングルートを装備をかついで歩くのは、私にはかなりきついだろう・・・。(けっこう、このサーキットを回る人は多い)

 フラフラになりながら急斜面を登りきると、いきなり視界が開けた。眼下には緑色と灰色を混ぜたような不思議な色をした湖が広がり、そしてその対岸には3本の岩の塔がそびえている。やっとたどり着いた!
 しばらくその場にへたり込み、美しい景色に見とれる。若干雲が出ているが、岩山の頂上まで見られて、まずまずの天気というところか。時計を見ると、出発して3時間ちょっと経っていた。けっこう早いペースかも。
 時計の高度計を見ると標高1000m弱を表示していた。キャンプ場が約200mだから、800mほど登ったことになる。そしてあの3本の岩山は、一番高いので2850m。こことの標高差がすでに2000m近くもあるのだ。比較対象物が無いのでそんなに高く見えないのだが、ここからでもけっこう遠いので、まあ、そんなものだろう。

 それにしても美しさと厳しさがミックスした、すごい景色だった。まわりには植物がほとんど無く、岩と氷と風の世界だ。「極地」ということばが思い浮かんだ。人間を寄せつけない厳しさの中に、凛とした美しさがあった。久しぶりに、観光をして「ガツーン」と心に来るものがあった。
 冷たい風が吹き付けるなか、30分ほどその景色を見つづけていた。

 やがて雲が多くなり、雨がパラついて来たので来た道を戻る。帰りは帰りでまた辛く、ヒザが大爆笑状態。結局、帰りも3時間ほどかかった。
 キャンプ場に戻り、隣の山小屋のレストランでビールを飲む。かなり高いが、「トーレス・デル・パイネ」を拝んだお祝いだ。窓から山の方を見ると、雲がかかって頂きは見えない。朝早く行って本当に良かった。
 夕方からキャンプ場にも雨が降り出した。まあ、明日の朝にはあがるだろう、そしたらグレイ湖など他の名所を見てプエルト・ナタレスに戻ろう、と楽天的に考え、寝袋に滑りこんだ。しかし・・・。


本日の走行距離          0キロ(計37627.8キロ

出費                  1200P   ビール
   3000P  キャンプ場
計        4200P(約830
宿泊         Camping Las Torres


2001年2月16〜17日(金〜土) 閉じ込められる!(Trapped in the camping!)

  16日の朝。期待も空しく、相変らず雨がテントをたたいていた。空を見上げると一点の切れ目も無く、低い雲が立ち込めている。そして、そんな雲を吹き飛ばしてくれるようないつもの風は、まったく吹いていない。
  16日は出かけることもすることもなしに、ただテントの中で過ごした。3度作って食べる食事だけが、1日の中の変化だった。結局、雨はその日の深夜まで絶え間なくシトシトと降りつづけた。全部で30時間は降っていたと思う。

 17日の朝、青空が広がっていた。やった!これで動けるぞ、と思ってキャンプ場を後にするが・・・なんじゃこりゃ!キャンプ場から本道に戻る手前でパイネ川が大増水、400mほどに渡って道が水没しているではないか!
  川の中ほど、濁流の中にポツンと何かが見えている。あれはおととい、滑って転んだ橋ではないか。ちょっと様子を見に足を踏み入れるが、すぐに水は太ももほどの深さになった。こりゃ、一番深いとこは1mは確実にある。こんなの渡れるわけないじゃん!

 仕方なくキャンプ場に戻る。することもないので、またボーッとしたり、読み飽きたガイドブックを読んだり、まわりを散歩したりする。
 夕方になってまた様子を見に行くが、アハハハ・・・もう笑うしかない。水位、全然変わってないじゃん!ただ1台、車高の高いホテルのハイラックスが客を乗せて川を往復していた。それでもヘッドライトの高さまで水が来ていて、かなり辛そう。ハイラックスの荷台は小さく、私のバイクは載せられない。これは、本当に待つしかないか。
 もともと長居するつもりは無かったので、持ってきた食料も底をついてきた。仕方なく山小屋の高い夕食を食べる。しかし、久しぶりの「ちゃんとした」食事は美味かった。さて、明日は脱出できるだろうか・・・。


2日間の走行距離        29キロ(計37656.8キロ

出費                   500P   コーヒー
   6000P  キャンプ場2泊分
   6500P  夕食(山小屋のディナー)
計        13000P(約2550
宿泊         Camping Las Torres