旅の日記

アメリカ・モアブ編(1999年9月28日〜10月2日)

1999年9月28日(火) 油圧ジャッキを入手、モアブに到着(Town of Moab)

 今日は移動日。目的地はアーチーズ、キャニオンランズの両国立公園のゲートシティとなるモアブ。400キロ弱の道のりだ。
 空は雲一つない快晴だが、冷たい気流の影響で気温は相変わらず低い。南に下っていくうちに暖かくなることを期待するしかない。
 盆地のソルトレイクシティを後にし、再びロッキーを越えると、岩や土が赤っぽくなってきた。今までの森や動物、湖などが売りの国立公園から、奇岩が売りの国立公園が近くなってきたことを感じさせる。
 昼食の休憩でプライスという町に立ち寄ると、巨大なKマートを発見した。中へ入ってブラブラしていると、カー用品売り場で小型の油圧ジャッキを発見。2トンまで上げられて、大きさは500ミリリットルのビール缶くらい、重さは1.5キロほど。パンク修理をするとき200キロ以上あるDRをどう浮かせるか、兼ねがね心配していた。オフ車でよく利用される一本足はDRの重さに耐えられないし、横倒しにするのも何だしなあ。小型のジャッキでもあれば、と思っていたらビンゴです。でもちょっと大きいな。2トンといわず、500キロでいいからもう少し小さいが欲しいんだが。と、20分ほど迷ったあげく、購入。10ドルだし、荷物になれば、最悪捨ててもいいや。
 昼食後も順調に距離をかせぎ、4時半ごろモアブに到着。インフォメーションセンターでモーテルのリストをもらって何軒かあたるが、どこも相場が高い。観光地で、しかもオンシーズンとのこと。どこも50ドル以上する。ユースもあるのだが、今日こそはネット接続しなければならないので、ログハウス風のこじゃれたモーテルにチェックイン。
 早速ネット接続、と思ったが、モーテルの電話からもうまくいかない。ソルトレイクシティでもそうだったが、パソコンのトーン信号を回線が認識してくれない。ダイヤラーでダイヤルできないのだ。仕方ないので音響カプラーを用意し、手動ダイヤルで何回か挑戦。やっとのことでイエローストーン以来のネット接続となった。
 夕食は近くの日本食のファストフードへ。久美子はすきやき丼、私はてりやき丼。久美子はまあまあと言っていたが、私のてりやき丼は完全に失敗。タレが甘いのなんのって。しかも鶏肉にブロッコリー、人参、きゅうりの組み合わせとはいったい。素直にカレーにしておけば良かった。
 明日はユースの予約を入れてあるので、アーチーズを見てそちらに移動する予定。また山口氏と出会える予感。


本日の走行距離  382.3キロ(計4619キロ)

出費           3.37$ ココア、手袋
              5.53$ 昼食(バーガーキング)
             10.61$ 油圧ジャッキ(カード)
              3.71$ ガス(カード)
             61.69$ モーテル(カード)
              9.33$ 夕食(すきやき丼、てりやき丼)
               6.1$ パソコンを入れるためのタッパー(カード)
計          100.34$

宿泊       Redstone Inn

「久美子の言わせて!」
 
私達二人は基本的にバイクに乗っている時は口を聞かない。それはよく聞こえないから。なのでお互い景色を見たり、好きなことを考えたり、歌をうたったりしている。結構大声で歌ってもNO問題。すっきりする。そんなかんじで今日も走っていると、前で奴は妙な動きをしていた。なんていうか…ちょっと古いがフラワーロック(踊る花のおもちゃ)のように小刻みにリズムをとっていた。可笑しかったのと「おいおいあぶないだろー」と思ったがまた言うとうるさいのでほっとくことにした。本当に妙な動きをする奴なのだ。



1999年9月29日(水) 妖岩、奇岩、アーチーズ(Arches National Park)

 今日は一日、アーチーズ国立公園観光の日だ。アーチーズはその名の通り、水や化学反応の影響で岩が侵食されてできた自然のアーチが数多く見られる公園だ。モアブの町から公園に向かう途中、山口氏とすれ違う。もはや驚きもしない。運命だもの。
 アーチーズでは、入り口でもらった地図を見ながらていねいに見てまわる。最大のアーチ(下の写真)は全長90メートルもあり、今にも崩れそうなほど細い。実際いつ崩落してもおかしくないので、このアーチの真下までいくトレイルは立ち入り禁止となった。この最大のアーチがある一帯を「悪魔の庭」と呼ぶそうで、そういえばデスバレーには「悪魔のゴルフ場」があるそうだし、オーストラリアには「悪魔のおはじき」という、やはり奇岩が売りの場所があった。いいなあ、悪魔。土地持ちだ。

 一番有名なデリケートアーチというアーチは夕暮れ時に見るのが最高とのことなので、近くまで歩いて見るのは明日に回し、今日は遠くから見て我慢。
 夜はユースのキャビンに泊まり、久美子が鶏肉を焼いてくれた。自炊するためにスーパーに買い物に行くのが楽しい。安くあがるし。アメリカは肉もそうだが、パンが驚異的に安い。そういえば、ドロンズもパンばっか食べてたっけ。
 
本日の走行距離  146.6キロ(計4765.6キロ)

出費           8.88$ 昼食(ウェンディーズ、カード)
              4.33$ ガス(カード)
             31.68$ ユース
              1.07$ ビーチサンダル
             12.51$ 夕・朝食(カード)
計           58.47$

宿泊        The Lazy Lizard Hostel



1999年9月30日(木) キャニオンランズで崖下り(Canyonlands National Park)

 今日は隣のキャニオンランズ国立公園へ。ここはグランドキャニオンばりの、断崖絶壁谷底系の公園だ。
 公園の入り口の手前に「デッドホースポイント」という展望台があり、そこからの眺めは左のとおり絶景。はるか下にこの谷を作ったコロラド川が蛇のように曲がりくねっているのが見える。まわりに人もほとんどいないために、とても静かだ。川の音も、鳥のさえずりも聞こえない静寂の世界。SF映画のように、どこか知らない惑星に取り残されたみたいだ。このとき、まさかこの谷底で四苦八苦するはめになるとは、考えもしなかった。
 キャニオンランズ公園のゲートをくぐり、いくつかの展望台を見てまわる。ここの公園の眺めは、グランドキャニオンとタメを張るそうだ。しかし、個人的にはデッドホースポイントから見た風景の方が感動した。
 公園自体は、あまり見て回るのに時間がかからない。そろそろモアブの町へ帰り、夕暮れのデリケートアーチを見に帰りますか、と地図を見ると、ビジターセンターのすぐ先から断崖絶壁を下り、モアブの町へいく四輪駆動車専用のダートがある。全長30キロほどだ。ビジターセンターで道の様子を聞くと、普通の車で通る人もいるし問題ないでしょう、とのこと。じゃあ、挑戦してみますか。
 はじめの2、3キロはフラットなダート。まったく問題無し。しばらくすると、すこし石がごろごろ転がっているようになり、そして崖にさしかかったところでビックリ。断崖絶壁を、幅4、5メートルの幅のガレ場状の道が、20〜25度くらいの傾斜でイロハ坂よろしくジグザグに下っている。しかもガードレールは無し。道を外れれば一巻のおしまいだ。
 自分だけ走っているのなら大丈夫なのだが、問題は車とすれ違う時。結構四駆の車が多く、道が細いために気を使う。一回、白い四輪駆動車とハチ合わせになった。むこうが道幅の広いところで止っていたので、待ってくれているのかと急斜面を下り始めたら、何を思ったか、むこうも道の真中を登ってきた。道幅は車一台分、路面は石がゴロゴロのガレ場。やっとのことで止ったが、道の真中でお見合い状態。むこうはバックする気配も無し。仕方ないので、崖側のさらに大きな石、というより岩が転がっている路肩を通って車のむこうへ行くしかない。いちにのさん、で覚悟を決め、急斜面を下り始めた。いやあ、ケツが流れる流れる。コケかと思ったが、何とかクリア。
 無事崖を下ったあとも、難所は続く。干上がった川の底は砂が溜まっているし、そうかと思えばギザギザのガレ場が続くし。怖かったのはポンプを宿に置いてきたので、パンク修理ができないこと。タイヤをかばってゆっくり進む。二人乗りで来るところでは無い。でも、南米ではこんな道も通るんだろうなあ。
 しばらくすると、コロラド川のすぐ上まで来た。さっきデッドホースポイントからはるか下に見えたところだ。4、500メートルは下っただろうか。
 少しづつ進み、何とか舗装路にでた。時間にして約2時間。おいおい、やっぱり普通の車じゃ無理だろう。おかげで、夕暮れのデリケートアーチに間に合わなくなった。モアブの町に明日も泊まろう。

本日の走行距離  273.8キロ(計5039.4キロ)

出費           4.86$ ガス(カード)
                13$ 潤滑剤、タオル、トレーナー等(カード)
             23.98$ ユース(カード)
             20.44$ 夕食(デニーズ、カード)
              2.03$ パン、ジュース
計           64.58$

宿泊        The Lazy Lizard Hostel

「久美子の言わせて!」
こわいよー。谷へおちるぅ〜。崖だらけ。道もがたがた道で普段でさえまともに足が地面に着かなくてぐらぐらしているのに、さらに怖い。一度ほんとに倒れそうになった時があった。なんとか切り抜けカズはごまかしているのか「ひゃっほぅ」と叫んでいる。5年は寿命が縮まった。人の運転は他人任せだからこわい。かといって私には運転できないし、させないだろう。ともかくはじめてバイクに乗っていて恐怖心を抱くのであった。



1999年10月1日(金) 夕暮れのデリケートアーチ(Delicate Arch)

 昨日のオフロード走行でバイクも砂まみれなので、昼はバイクの洗浄にあてる。町のコイン洗車場にもっていき、ウオーターガンでキレイキレイに。クラッチ、アクセル両方のケーブルに注油し、チェーンもWD40(日本で言うクレの556みたいなもの)をかけて古い油をふき取る。特にフロントスプロケットのカバーの裏側には古いチェーンオイルがコールタールのようにへばりついていたので、念入りに取ってやる。
 夕方、デリケートアーチを見にアーチーズ国立公園へ。駐車場からきつい登りを歩くこと約40分、写真のとおりデリケートアーチはその勇姿を見せた。まわりは夕陽に染まるアーチをフィルムに収めようと、アマチュアカメラマンでいっぱい。観光客の中にはオリエンタルな音色の横笛で物悲しいメロディを吹いているおっさんもいて、否応無しに雰囲気は高まる。すると、何かエンジン音が聞こえると思ったら、エンジン付きのパラセーリングが2機、上空を旋回しているではないか。久美子が手を振ると高度を落とし、手を振りながら我々の上を通過していった。
 さあ、陽が落ちる時刻。アーチが赤く染まりますよ、と思ったら、今まで晴れていたのに夕陽が雲に隠れてしまった。待てど暮らせど、暗くなるだけで赤くはならない。仕方ない、と思った観光客の一団が帰り始めると、みんなワラワラと帰り始めた。その光景が面白かった。もっと笑えたのは、帰りにすれ違う、今からアーチに向かう人の表情。肩で息をしながら、「間に合わなかった!」という失望の表情がありありと浮かんでいた。
 下の駐車場に帰ると、レンジャーの人が来ていて、パラセーリングをしていた様子を人々に聞いていた。なんでも、人の上を飛んだことが問題らしい。
 モアブの町にハマった私たちは、明日も泊まる勢いだ。

本日の走行距離  76.5キロ(計5115.9キロ)

出費              2$ コイン洗車場
              8.24$ 昼食(ウェンディーズ、カード)
               1.5$ ネジ
              5.33$ チェーンルーブ
             23.98$ ユース(カード)
               6.5$ 夕食(カレー、牛丼)
              2.88$ 水、ジュース
計           50.43$

宿泊        The Lazy Lizard Hostel



1999年10月2日(土) ジープで疾走す(Renting a Jeep)

 モアブにもう一日滞在し、何をしようかと考えたとき、選択肢は二つあった。一つは激流下りのラフティングツアーに参加すること、もう一つはジープをレンタルし、公園内のオフロードを走りまわることだった。ラフティングはここじゃなくても極端な話、日本でもできそうだが、
ジープで未舗装路を走り回れる国立公園は数少ないし、面白そうな道がたくさんあったので、ジープを借りることにした。
 いくつかのレンタカー屋のパンフレットを見るが、どこもジープのレンタルは高い。保険を入れると、24時間で100ドルは超える。でも、ここまで来て乗らなければ、気分はディズニーランドの門まで来て帰るようなもの。土曜日でジープの空きが少ない中、一台あるというレンタカー屋へ行き、白のジープラングラー4.0を借りる。4リッターですよ、4000cc。しかもオープントップ。スパルタンな走りが期待できます。
 まずは先日バイクで通った崖下りの道を目指してキャニオンランズへ。公園までわずか50キロくらいの道のりなのに、着いたころには満タンだった燃料計が4分の3に減っていた。ハイウェーで飛ばしたとはいえ、無くなるの早すぎはしないかい。
 とりあえずは崖を下る。四輪だと楽だなあ。写真を撮る余裕さえある。すれ違いで苦労した箇所へさしかかり、あらためて見ると、よくこんなガレ場をろくに足も着かないバイクの二人乗りで来たなあ、と自分を誉めてあげたくなった。
 崖を下りきると、分かれ道にぶつかる。一方は先日通った、モアブの町へ帰る道。もう一方はぐるーっとキャニオンランズ公園の北側半分をまわる全長100マイルほどの道。せっかくジープなんですから、ガンガン行きましょう、ってことで後者の方へ。
 道は相変わらず岩盤の上の硬い路面。久美子の胃が痛くなるほど揺れます。がんばって進むが、なかなか進まない。1時間半くらい進み、3分の1くらい来たかな、と思ったらまだ全体の6分の1だった。異常に減りの早いガソリンも心配だし、ガソリンがもっても、今日一日がこの道で終わりそうな雰囲気だったので、分岐まで戻って町に帰ることに。
 オートマだったので試しに久美子に運転させると、喜ぶ喜ぶ。いやあ、ジープはすごいですなあ。ペーパードライバーが乱暴に運転しても、ちゃんと岩だらけの急斜面を登って行きます。燃料も半分近くまでメーターが落ちたあと、ピタっと落ちなくなった。いい加減なメーターだ。
 町へ帰り、マクドナルドで栄養補給した後は、アーチーズ国立公園の道へ。ここは砂が深く、急で長い斜面があることから、基本的に下る方向への一方通行になっている。
 ここから大変な道ですよ、という地点へ差し掛かると、おんやまあ。キャニオンランズの道で感動した私がバカでした。ひざまで埋まるような深い砂の急斜面に、岩がゴロゴロ。ところどころ岩盤が顔を出しており、その上が道になっていたりする。前半は久美子の運転のまま挑戦。ローまでギヤを落としアクセルを踏むと、オー登る登る。すごいなあ、車は。バイクだったらこんな坂、途中で止ったら終わりだぞ。
 すこし登ると、今度は急な長い下りが。確かに逆方向からはキツそう。ものすごい凸凹だが、ジープは下を擦る様子も無し。ドンドン行けます。ロクに四輪でオフ走行の無い二人がすごい所へいったものです。四駆マニアが知ったら気が狂いそう。
 暗くなる寸前に舗装路に出た。町へ帰ると、今夜は古いアメ車の祭りがあるそうで、町中を50年代のハデな車が流している。まるで「アメリカングラフティ」の映画そのものだ。
 それにしても、ジープの中が砂まみれだ。ダッシュボードにも、シートにも、赤い砂が積もっている。これ、明日このまま返したら怒るかなあ。

本日の走行距離     0キロ(ジープで約230キロ)

出費           1.64$ おかし
              7.13$ 昼食(マクドナルド)
             23.98$ ユース(カード)
              8.48$ 夕食(スーパーで果物など)
計           41.23$

宿泊        The Lazy Lizard Hostel

「久美子の言わせて!」
ジープ最高!すっごく楽しかった。自分で運転したということにとても充実感。
いわいわ道をがしがしジープで駆け上りすなすな道をすべりながら降り、今日から私も荒くれ者の仲間入り。かっこよかったなぁ。と今でも興奮は冷めない。でもカズはよく私に運転されてくれたなあと思う。なんせここ2年位まともに車を運転していないのに…。
まっ、事故もなく無事帰ってこれたんだからよかったよかった。
土まみれそして日に焼けてくろくなったけどゆるそう。ほんと楽しかった。