旅の日記

エストニア編その2(2002年7月1〜6日)

2002年7月1日(月) 天国にチェックイン(A little heaven)

 130キロほど北上し、昼過ぎに海に面した首都タリンに到着した。かつてドイツ人が築いた「ドイツよりドイツらしい街」。僕は昨年、ここも通過してしまったのである。
 対岸のフィンランドまで高速艇で1時間半。シーズン中の今は観光客も多く、雰囲気も物価も完全に西欧のノリだ。郊外にキャンプ場もあるそうだが、ロシアビザの発給を待つあいだ、僕は1週間ほどここに滞在していろいろと準備をしたい。雨も降るだろうしパソコンも使いたいから、まずは屋根のある宿泊施設をあたった。

 旧市街にユースホステルが2軒あったが、料金はドミトリーで15ドル前後、しかも駐車場がないから夜間営業のパーキング代が別になる。
 「地球の歩き方」にプライベートルームを紹介してくれるオフィスが載っていたので行ってみると、やはり物件は駐車場のない旧市街のアパートメントが中心。ユースとあまりかわらない料金で個室になるが、バイクが止められないのでは仕方がない。

 すると、オフィスのおばさんは郊外に住んでいるある家族の別宅を紹介してくれた。それなら目の前にバイクを停められるし、簡単なキッチンとシャワー、トイレがついているという。旧市街から遠くなるが、バイクなら10分の距離だ。
 料金は通常のプライベートルームよりやや高い300クルーン。しかしとりあえず4泊分前払いするというと、260(約2000円)になった。これならユースよりちょっと高い程度。

 そして宿泊クーポンを受け取り、教えてもらった住所に行くと・・・僕を待っていたのは天国だった。
 英語をよく話す親切な家族が持っているその別宅は、木造の平屋建てで広さ約50平米。中はピカピカ、テレビや応接セット、冷蔵庫もあって、そして何と!サウナと暖炉があるではないか!
 サウナは薪でたく「ロシア式」だった。薪はたくさん用意されていて、おじさんは自由に使っていいという。

 まるで山の中の別荘だ。こんなところで一週間を過ごすなんて夢のようである。
 チェックインして旧市街に戻ると、ヴィルニュスのユースで一緒だったアメリカ人青年と再会した。タリンはユースが高く、誰かと部屋をシェアしたいと言っていたが、僕は「ごめん、俺の部屋は一人用なんだ」と思いきり嘘をついてしまった。
 そんなに彼と親しいわけじゃないし、せっかく手に入れた俺の城、一人で静かに過ごしたいのだ。ごめんね・・・。

 そしてさっそくロシアのダブルエントリービザを申請した。申し込んだのは「ネイリス」という代理店。4日待ちで3220クルーン、小梅さんたちが申し込んだのもおそらくここだろう。だとすれば問題なく取得できるはずだ。実際、窓口の女性も慣れた対応で、ダブルといっても何の構えも見せなかった。
 金曜日の午後にはパスポートにビザがついて戻ってくるという。それまでロシア入りの準備をゆっくりとしよう。


本日の走行距離        約150キロ(計73406キロ)

出費                 1040eek  宿泊費(4泊分)
     3220eek ロシアビザ
     345eek モンゴルのロンリープラネット
     161eek 食材、昼食
     25eek インターネット
計     4791eek
(約37090円)
宿泊         天国のような小さな家
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2002年7月2〜4日(火〜木) ロシア入りの準備(Preparing for Russia)

 火曜日は部屋でたまった日記を打ったり、遠藤周作の「海と毒薬」を読んで過ごした。
 午後にちょっと買物に出たが、いきなりバイクのエンジンが止まったので冷や汗が出た。路肩にあげていろいろ試すが、イグニションがオンにならない。電気系統のトラブル。はぁー参った、面倒くさそうだ・・・と思ったら、単にヒューズの接触不良だった。一度外して元に戻したら簡単にエンジンは目を覚ました。
 あー、びっくりした。

 夜、いよいよロシア式サウナを試してみた。サウナを暖める暖炉には乾いた薪がすでにセットされていて、その下には新聞紙まで敷いてあった。あとはマッチで火をつけるだけ。ちょっと待つと薪は「パチパチ」と音を立てて燃え始めた。
 薪のサウナなんて火の調整や薪の追加が面倒くさいのではないかと思っていたが、ストーブの中にあった数本の薪だけでサウナ内は80度を超え、しかもその温度は3時間以上も持続した。もちろんそんなに長く入っていられないので、あとは中で洗濯物を乾かし、ドアを開けっぱなしにして家全体を温めた。
 サウナの広さは約3畳、一人には十分すぎる大きさだ。なぜか部屋の引き出しにあった2年前の「週刊新潮」を読みながら汗をかき、シャワーを浴びてからビールの缶を開ける。
 うーん、極楽極楽・・・。(ちなみに「週刊新潮」のトップ記事は沖縄サミットに関するものだった)

 水曜日は、ここのところほったらかしにしていたバイクを構ってあげることにした。
 タリンに着いたときに目をつけていたヤマハの大きな代理店にDRを持ち込み、リアタイヤとオイル、オイルフィルターを交換した。
 今までの経験から外人メカニックには注意した方がいいと学んだので、タイヤ交換の作業を横から見ていたのだが、この店のメカニックは作業が非常にていねいだった。
 シャフトのベアリングを交換した方がいいか相談したのだが、彼はチェックして「このままで全く問題ない」と言った後、何も言わないのにベアリングを清掃し、新しいグリスを塗り込んでくれた。

 ロシアの長旅を前に、新しいチェーンオイルも買う事にした。本当はバランサーチェーンの調整もした方がいいのだけど、この作業は非常に面倒くさい。クランクケースを開けなくてはならないし、同時にタペット調整もやらなくてはならない。特にエンジンから異音は聞こえないし、今ヘタにやって何かしでかすと嫌だからこのままにしておこう。
 日本まで長くても13000キロ。大丈夫だろう。

 新しいタイヤ、新しいオイルで気持ち良くバイク屋を後にするが、ふたたびエンジンが急停止。しかし今回の原因はよくわかっている。ガス欠だ。入れなければと思いながらも、ついつい先延ばしにしていたのだ。
 停まったのは旧市街のど真ん中。近くにスタンドがないので、片道1キロを歩いてガソリンを買ってこなければならなかった。
 面倒くさいけど、こんなトラブルなら精神的にはなんのダメージもない。日も出ていたのでよい散歩になった。

 木曜日は天気も良かったので、旧市街を観光したり、郊外のショッピングセンターで買物をした。
 タリンは人口でこそバルト3国の首都の中で一番小さいが、最も物が豊富な気がする(正確にいうと僕はリガをあまり知らないので、ヴィルニュスに比べて、ということだが)。西欧顔負けのデパートもあるし、郊外には大型のショピングセンターが続々と誕生している。
 僕はフィンランドからの買物客で賑わうという「カダカ市場」というのに行きたかったのだが、現在、市場は立派な建物に改装中とかで閉まっていた。エストニアの経済はどうも右肩あがりらしい。

 僕は大きなスーパーで薄手の長袖シャツや靴下、タオル、CD-Rディスクなどを買った。サンクトペテルブルグやモスクワでも買えることは重々承知なのだが、やはり準備万端でロシアに入りたいという気持ちがあるのだ。

 そしてインターネットカフェに行き、ロシアの情報をいろいろと調べた。今年は賀曽利さんのツアーもあるし、かなりの数の日本人ライダーがロシアを横断する。僕の把握しているだけで30人以上はいるのだ。
 さて、そのうち何人と会えるだろうか?ちなみに小梅さんと得政さんのペアは6月の末にすでにロシア入りを果たしている。最近メールがないが、都会嫌いな2人のことだからサンクトもモスクワもサッサと抜けてガンガン進んでいるだろう。追いつくのはちょっと難しそうだ。
 木曜の夜もサウナに入った。お風呂に入る感覚で専用のサウナを使えるなんて、初めてで、そしておそらく最後だろう。

 3日とも食事は自炊した。わが小さき家には電熱コンロが一つの簡単なキッチンと冷蔵庫がついていて、料理をするのも楽しみの一つなのだ。
 火曜日の夜はブダペストで買ったインスタントのペーストが残っていたのでグヤーシュ(ハンガリーのシチュー)を作り、水曜はひき肉を買ってきて肉じゃが。木曜の夜はひき肉の残り半分を使ってハンバーグ。
 タリンの外食は高いので、自炊は大きな節約になるのだ。


3日間の走行距離        約50キロ(計73456キロ)

出費                   29eek  タオル
     947eek タイヤ交換、オイル、チェーンオイル
     55eek 長袖シャツ
     145eek ガソリン
     60eek インターネット
     28eek CD-Rディスク
     67eek 靴下
     57.25eek 飲食費
計     1388.25eek
(約10750円)
宿泊         天国のような小さな家
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2002年7月5〜6日(金〜土) ロシアビザゲーット!!(Russian visa is ready)

 金曜日、約束の時間より若干早かったが、「ネイリス」に行って見ると無事にビジネス用3ヵ月、ダブルエントリーのロシアビザは発給されていた。ミスがあると嫌なので、ロシアの「地球の歩き方」の巻末に載っている見本と見比べて記載内容を確認する。
 問題はなし。これでビザの有効期限がはじまる7月7日からロシアに入国することができる。

 7日は日曜日だが、問題はなさそうなので早速その日に越境することにした。
 ロシアに入って最初に訪れるのはサンクト・ペテルブルグである。帝政時代に首都だったところで、ロシアで最も美しい町として名高い。同国を代表する観光地なのでホテルには事欠かないが、バイクの置ける安い宿となると話は違う。入国したその日に大都会をさまよいたくないので、僕はユースホステルに予約を入れることにした。
 サンクトにはユースホステルが2軒あり、メールで問い合わせてみると、そのうちの一軒からバイクが置けるという返事が来た。予約にはクレジットカードの番号が必要だそうだが、怖くてとてもメールする気にはならない。ヴィルニュスで会ったサンクト在住の小林さんによると、ロシアはカード詐欺がとても多いらしいのだ。

 そこで僕はタリンにあるユースホステル協会の事務所を訪れ、そこから予約を入れてもらった。3泊分663クルーンを支払い、宿泊券を受け取る。ドミトリーで一泊あたり1650円。ロシアはサンクトやモスクワなどの大都会と田舎の経済格差が激しく、前者では決して物価は安くない。宿泊施設となると外国人料金が設定されているのでなおさらだ。

 ロシアはこれから本格的な観光シーズンに入るが、それはバルト3国も同じで、タリンも日に日に観光客が増えている気がする。多くはフィンランドやドイツからの老夫婦で、列をなして石畳の上をよろよろと歩いているのだ。
 旧市街の中心にある広場では中世風の市がたち、昔ながらの衣装を着た人たちが民芸品を売ったり、ステージの上で歌や音楽を披露していた。まるでドラクエの世界に迷い込んだみたいである。

    

 宿に戻ると、わが小さな家にちょっとした異変が起きていた。今までタダだと思って2回使ったサウナだが、実は有料で一回80クルーンだと家主のおじさんが言い出したのだ。えー、そんなー、と思ったが、よく考えてみると最初に案内してくれた娘さんがそんな事を言っていた気もする。その後で部屋に来たおじさんが、いかにも「自由に薪は使っていいぞ」みたいなそぶりを見せたので、ついついタダだと思ってしまったのだ。
 不満気な態度をちょっと見せたら、おじさんと奥さんは相談し、「じゃあタダでいいよ」と言ってくれたが、何か後味が悪い。薪をガンガン燃やしたのは事実なんだから、結局払うことにした。サウナは気持ち良かったし、こんなんでケチッっても仕方ない。

 考えてみれば小さいながらも一軒家で、キッチンとサウナがついていて普通のプライベートルームと同じ金額なんて、やっぱり出来すぎている。
 サウナ代をきちんと払ったことが好印象だったらしく、その後、家主はとれたての野菜や果物、果ては食事まで運んでくるようになった。

 土曜日はエストニア最後の日だった。最近までの写真をCDに焼いて郵便局から実家に送り、最後のインターネットをして、そしてATMから大量に引き出したクルーンを再両替して米ドルキャッシュを作った。ロシアにもATMはあるが、小林さんの話だと機械もあんまり信用しない方がいいらしい。やっぱり頼るべきはドルキャッシュのようだ。
 今まで大量にキャッシュを持ち歩くことがなかったから、何だかとても落ち着かない。ロシアの税関でちゃんと外貨申告して、その後は分散して隠しておかないと。


2日間の走行距離        約30キロ(計73486キロ)

出費                  663eek  サンクトのユース3泊分前払い
     180eek サウナ2回分
     520eek 宿泊費(2泊分)
     111eek 郵便代
     45eek インターネット
     2eek コピー代
     105eek 飲食費
計     1626eek
(約12590円)
宿泊         天国のような小さな家
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