夜のうちに雨が降った。雨粒がテントを叩く音を聞きながら、「ここ2日は見事に晴れていたのに俺はやっぱり雨男か、とほほ」と夢うつつに思ったが、朝になったら雨は上がっていた。朝食を食べるうちに残っていた雲も流され、ふたたび青空が広がった。まだツイているようだ。
しかし上機嫌でキャンプ場を後にすると、スピードメーターの針がユラユラと揺れているのに気がついた。いやな予感、そして的中。すぐに針は0に戻り、そして動かなくなった。ギリシャで切れたメーターケーブル。あれから4000キロしか走っていないのに、また駄目になった。あのときは面倒くさくて近所のバイク屋で直させたけど、やっぱり新しいものと交換しなければならないみたいだ。
バルト3国で直らなければ、このままロシアを走ることになる。速度はそんなに重要じゃないけど、距離が計れなくなるのが不便だ。まあ、ガソリンタンクを満タンにすれば400キロは走るし、地図をしっかり見ていれば間違いはない。いざとなったらサイクルメーターを付けるという手もあるし。(自転車用の電子メーターはバイクに付けても機能し、しかも機械式のバイクのメーターよりも正確らしい)
150キロほど走ってポーランドとの国境に着いた。スロバキアは確かに小さい国で、大きな見所はないかもしれないけれど、山や緑は美しい。自分の足があれば、ぜひとも走ってみるべきところだ。
レストランで昼食を食べてから越境する。今回も手続きは簡単だったが、ポーランドの自動車保険に加入する必要があった。僕の持っているグリーンカード(欧州共通の自動車保険)はポーランドの保険会社が発行したものだが、なぜか自国では通用しない。ポーランドだけの保険、一番短くて15日有効のものに12ズオッティ(約400円)払って加入する。
ちなみに僕のグリーンカードは去年、ポーランドとチェコの国境で買ったものだが、1年有効で40ドルを切り、しかも西欧・東欧問わずほとんどの国で有効という優れものだった。しかし、その情報を得て最近そこでグリーンカードを取得したけんじさんによれば、最長で4ヵ月有効のものしか売ってくれなかったという。係員によっても説明はまちまちなようで、外国人ライダーがグリーンカードで悩むのは宿命のようだ。
ポーランドに入国して道が単調になった。ポーランドには山がない。平原に広がる畑や牧草地、森の中を淡々と走るだけだ。生あくびを繰り返しながら、ポカポカとした陽気の中を走った。
夕方になって、ルブリンに着いた。なかなか風情のある町であるが、大きな町でもある。ロンリープラネットに載っていた安宿を当たろうとするが、土曜日でインフォメーションセンターは閉まっているし、町の地図はないし、宿が見つかったとしてもバイクが置けるという保証はない。
実はルブリンに着く前、宿が見つからなかったらガソリンスタンドの裏にテントを張らせてもらおうと、大きなスタンドに2、3、目星をつけておいたのだ。来た道を引き返してスタンドの店員と交渉すると、ちょっと奥に湖があり、そのほとりにキャンプ場があるのでそこに行けといわれた。
幹線道路から外れ、見とおしのきかない畑の中の道を走りまわるが、湖はなかなか見つからない。英語のまったく話せないポーランド人に何回か道を尋ね、ようやく鏡のように穏やかな湖面が見えてきたのは午後7時過ぎのことだった。
湖のほとりにレクリエーションセンターがあり、そこにキャンプ場もあるのだが、受け付けのお兄ちゃんが席を外していてテントを張れたのは結局午後8時過ぎだった。粗末なキャンプ場だが、8ズオッティ(約250円)と安かった。
ポーランドではキャンプ場はあまり流行らないらしく、テントは僕の以外に一張もなかった。そういえば去年もキャンプ場探しに苦労した記憶がある。あったとしても、ここのようにテントを張るより木製の簡素なコテージに泊まる方が主流のようだ。
キャンプやアウトドアは、やはり経済的に豊かな国でないと流行らない。テントを張る料金の方がコテージよりも安いのだが、テントや寝袋など道具そのものが高いのだ。年に一度や二度楽しむだけなら、その元をとるのに何年もかかってしまう。それならなんの準備もいらず、手軽に泊まれるコテージに泊まろうということになるのだろう。実際、ここのキャンプ場もコテージだけは満杯だった。
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