ブルーモスクの次は、その隣のアヤソフィア博物館に行ってみることにした。イスタンブールに長いこといたわりにはまだ行ったことがないというので、ごり君と2人なのである。
ブルーモスクもすごいが、このアヤソフィアはもっとすごい。
今や博物館となっているこの建物は、もともと6世紀前半、かつてこの都がビザンチン帝国の首都コンスタンチノープルだったころ、ギリシャ正教の本山として建設された大聖堂だった。それが900年後、この都がイスラム教徒の手に落ちてイスタンブールと改称されると、この大聖堂もモスクとして改装されたのだ。
内部を覆っていた見事なモザイク画は漆喰で塗り固められ、その存在は忘れられた。それが20世紀前半に「発見」されると、近代トルコ建国の父アタチュルクはここを博物館として公開することにしたのだ。
そのおかげで入場料1500円、さらに2階の回廊は別途1500円というちょっと高めの料金を払うと、ビザンチン様式とイスラム様式がミックスされた、イスタンブールを象徴するような内部を見ることができるのだ。
国際学生証を見せると料金はそれぞれ500円にまで落ちた。今日だけで一気に2000円も得してしまったのである。これはかなり嬉しいぞ。
ローマ帝国が分裂した片割れ、ビザンチン帝国が威信をかけて建築した大聖堂だけあって、中に入るとその大きさに圧倒される。ブルーモスクもでかいけど、歴史だけでなく規模からいってもアヤソフィアに軍配はあがるだろう。
中央のドームは修復中で、鉄骨で組まれた足場の高さに驚いた。それだけで20階建てのビルくらいあるのである。しかしここが建てられたのは6世紀。そのころは木で足場を組んだのかと思うと、さらに驚いた。
大天井には「発見」された聖母マリアや天使ガブリエルのモザイク画があり、一階にはカトリックの聖堂に見られるような、神父が説教するための演壇がある。しかしその一方、イスラムの聖地メッカの方角を示す祭壇や、アラビア語で宗教的なメッセージの書かれた巨大な円形の看板が壁にかかっていたりして、まさに東西の宗教文化のチャンポンなのである。
別料金となっている上階の回廊にはさらに多くのモザイク画が残っており、さすがに痛んではいるものの、キリストや聖母マリアの姿が拝める。これらのモザイク画を破壊せずに漆喰で塗り固めたことは、キリストを神の使いとして認めるイスラム教徒の尊敬の現れかもしれない。破壊するには忍びないので、まるで隠すように上から覆ったのではないか?
今日知ったことだけど、聖母マリアに受胎を知らせた天使ガブリエルは、イスラム教ではその後、モハメッドに経典を授けたと伝えられているのだ。知れば知るほどキリスト教とイスラム教って密接なんだなあ。
アヤソフィアの入場料は高かったけど、十分そのもとは取ったと思う。
そのあとはごり君と買物をして宿に帰り、今日はコンヤペンションの常連だというタケシさんの誕生日だったので、みんなで祝った。
コンヤペンションでの生活もなかなか楽しく、最近は「ガラスの仮面ごっこ」が流行っている(というより、僕とごり君で勝手に流行らせている)。コンヤペンションには日本の本と漫画が各種そろっているが、中でも一番のウリは「ガラスの仮面」だ。芝居好きの少女、北島マヤが演劇界の幻の名作「紅天女」のヒロインを目指すという少女漫画の大作で、コンヤペンションでは40巻くらいまで揃っている。
チリの日本人宿「汐見荘」で「沈黙の艦隊」を全巻読み、料理をしているときも「艦長!スパゲティが茹であがりました!」「よし!アップトリム15度、魚雷装填、お湯を切れ!」などとやっていた僕たちだから、今では「オホホ!あなた、塩コショウを忘れたのね。おばかさん!」とか「ごはんを炊くときは心の耳でお米のささやきを聞くのよ!」とか、やっているのである。
同室のテル君は元オカマバー勤務だし、新しい客が来たら、この宿はなんなんだろうと思うかもしれない。
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