旅の日記

トルコ編その3(2002年5月7〜9日)

2002年5月7日(火) コンヤペンション(Reaching Istanbul)

 カバラとイスタンブールの緯度はほぼ同じであり、従って今日の行程は地図上でみるとほぼ完全な水平移動。ひたすら一直線に東に向かうのだ。
 国境までの道路上には、なぜか陸ガメが多くいた。田舎道を走っていると、突然ノソノソと道路を横断している姿が目に入るのだ。けっこう大きくて、体長20センチはある。カメを踏まないように気をつけていたら、僕は小さなトカゲを踏みつけてしまった。

 昼には国境に着き、ギリシャ側の出国手続きをあっという間に済ませる。
 両国間にある免税店でギリシャ産のブランデー、メタクサのボトルを買い、トルコ側へ。久しぶりにカルネを持ち出して通関手続きをするが、トルコの役人はカルネを見なれていた。ギリシャ人、トルコ人らが並んでいた列から偉そうな役人が僕たちだけを呼びつけ、先にスタンプを押してくれた。おかげで昼休みで国境が閉まる前に越境することができた。

 国境から目指すイスタンブールは約240キロ。トルコに入国したところで昼食をとり、ちょうど中間にあるテキルダーという町で休憩をとり、イスタンブールにさしかかったのは午後5時ごろだった。
 イスタンブールに首都機能はないが、それでも1200万人が住むトルコ最大の都市である。日本人に人気の安宿「コンヤペンション」を目指すが、旧市街のど真ん中にあって観光には便利なのだが、はじめてバイクで来る旅行者には見つけにくい場所にある。周辺には一方通行や車両通行禁止が多いのだ。
 僕はイスタンブールに詳しいごり君に先導してもらったおかげで、午後6時にはペンションに着いた。僕一人だったら8時になっても9時になってもウロウロしていたかもしれない。

 コンヤペンションでは看板娘のエリフが、「ようこそ、いらっしゃいました」と噂通りの上手な日本語で迎えてくれた。外国人の日本語を活字で表現する場合、カタカナになってしまうことが多いが、彼女の日本語はひらがなで表現しても何の違和感もないのだ。「ここがキッチンです」「ここが本棚です」と、ていねいにペンションのことを教えてくれた。
 ごり君がさりげなく「エリフは今日も可愛いネエ」などと言っているのが、妙にオヤジっぽくて面白かった。

 その夜は宿にいた旅行者たちが作った夕食のお相伴に預かり、トルコ産のビールを飲んで早めに寝た。イスタンブールは見るに尽きない街だが、日記も疲れも溜まっているので、観光は少しずつはじめることにしよう。


本日の走行距離        452.1キロ(計69027.7キロ)

出費                    11E   ガソリン
     5.1E メタクサ
     4.5ML 飲食費
     3ML 高速道路
     1.5ML インターネット
計     16.1E
(約1880円)
     9ML(1ドル=約1.37ミリオンリラ、約900円)
宿泊         Konya Pension
インターネット    Konya Pension


2002年5月8日(水) 女って誰だ?(A ghost story)

 僕とごり君がチェックインした部屋は、コンヤペンションでも一番奥にある3人用のドミトリーだった。8日、空いていたもう一つのベッドにテル君という、イキのいい学生旅行者が入ってきた。名古屋のオカマバーで働いていたという経験を持ち(本人はオカマではない)、話が相当おもしろい。以後、我らの部屋は夜な夜な下世話な話題で盛り上がるのだった。

 コンヤペンションのある旧市街の一画では毎週水曜日に食料品の市場がたち、僕たち3人はで当面必要そうな野菜や米を買い込んだ。
 その午後、僕とごり君は新市街と旧市外を結ぶガラタ橋まで散歩し、そのたもとで名物のサバサンドイッチを食べた。椎名誠の本で読んだとおり、ガラタ橋の上は日がな一日、釣糸を垂れるおじさんたちで一杯だった。彼らの戦利品を見たが、今の季節はどうも小さな魚しか釣れないようだ。

 宿に戻ってしばらく日記を打ったあと、買い込んだ野菜で野菜炒めの夕食を作ったが、今夜着く予定の小梅さんと得政さんが来ない。夕食を食べ終えてビールを飲んでいる午後10時過ぎ、「今日は来ないな」とあきらめかけたころ、2人は疲れ果てて到着した。トルコに入国したあたりで泊ろうと思ったが、適当な宿もキャンプ場も見つからず、がんばってイスタンブールまで来たものの、一方通行や車両通行止めに阻まれてなかなかペンションまでたどり着けなかったらしい。バイク旅行者にとって大都会は厳しいのだ。

 さて、二人も昨夜、あのカバラの町のキャンプ場に泊ったというが、そこのオヤジが「昨日も日本人のオートバイ乗りが来たよ。バイク2台に男が2人、女が一人だった」と言ったというのだ。女って誰だ?
 小梅さんと得政さんはてっきり僕たちがナンパに成功し、オイシイ思いをしていると思ったらしい。しかし僕とごり君は2人だけだったし、あのガラガラのキャンプ場に見間違えるような女性もいなかった。なにしろ、あのオヤジは僕たちのテントまでやって来たし、けっこう長いあいだ会話もしたのだ。どうしたら僕たちのほかに女性がいたと間違えるのだろう?

 「そういえば」と、得政さんが言った。彼女は霊感というほどではないが、宿やキャンプ場などで「この場所は嫌だな」と本能的に思うことがあるらしい。そしてあのキャンプ場でその「嫌な雰囲気」を感じ、さらにその夜、誰かに首を絞められ、頭を水に押しつけられる悪夢を見たというのだ。ひええ!なんか怖い話になってきた!
 「そういえば」と、僕はいった。最近、DRの燃費が落ちているような気がするのである。まるで、誰かが後ろに乗っているように・・・。
 「うわー、青山さん、女の幽霊と2人乗りしているんだ」「オヤジにはそれが見えたんだ。ライドタンデム復活だ!」と、みんなはにわかに盛り上がったが、そこでごり君が極めて冷静に、ある事実に気付いた。
 「でもあのオヤジ、料金を請求するとき2人分しか取らなかったよ」・・・うん、そういえばそうだ。やっぱり何かの間違いだったのだろうか?


本日の走行距離            0キロ(計69027.7キロ)

出費                   1.5ML  パンツ
     6.8ML 飲食費
計     8.3ML
(約830円)

宿泊         Konya Pension


2002年5月9日(木) ブルーモスク(The Blue Mosque)

 コンヤペンションは旧市街の真ん中にあり、イスタンブールを代表する観光スポットは目と鼻の先にある。ちょっと買物にいくのでも、ブルーモスクやアヤソフィア博物館の前を通ることになるのだ。
 たまった日記を打ち終えてから観光をはじめようと思っていたが、夕食の買いもののついでにブルーモスクを見学することにした。(観光のついでに買物ではなく、ミートソース・スパゲティのためのひく肉を買うついでにブルーモスクなのである。高いツアーで来た人には怒られそうだ)

 ブルーモスクは正式にはスルタン・アフメット・ジャミィといい、17世紀のスルタン(王)、アフメット一世が建造した大モスクである。このモスクには珍しくミナレット(尖塔)が6本もあるが、これはスルタンが黄金(アルトゥン)の塔を所望したのを、6本(アルトゥ)と聞き違えた結果だという。
 それでも6本の塔を持つモスクは青を基調とした美しい内外装を誇り、イスタンブールを代表するランドマークとなった。そして今では非ムスリムも入れるばかりでなく、良心的にも入場は無料なのである。

 靴を脱ぎ、絨毯の敷き詰められた広い構内に入ると、ひんやりと涼しい空気が僕を包んだ。ダマスカスでもそうだったけど、モスク内部はとても快適で、そのまま昼寝をしたい気分になるのだ。(実際、ダマスカスのモスクでは寝ている人が多かった)
 ドーム型の天井は見上げたはるか上にあり、正面の壁にはステンドグラスのはまった無数の窓がある。内部がうす暗いぶん、窓から刺し込んで来る色とりどりの明かりが幻想的だ。僕はイスラム教を含めた特定の宗教を信じないことにしているけど、こういう雰囲気を見せられるとさすがに厳かな気持ちになってしまう。

 ブルーモスク見学のあとにエジプシャン・バザールの近くのスーパーマーケットにいったが、コンヤペンションからはけっこう離れている。夕食の買物のために片道20分は路面電車沿いの石畳の道を歩かなくてはならないが、おかげで旧市街の位置関係はなんとなくつかめてきた。

 僕ははじめてアテネに行ったとき、そのヨーロッパらしくない猥雑さから、今や各国からの出稼ぎ労働者で溢れるアテネこそがアジアとヨーロッパの中間地点ではないか、と思ったけど、やっぱりそれはイスタンブールのための代名詞だった。
 アテネで猥雑さは感じたけど、アジアの雰囲気は感じなかった。しかしイスタンブールでは、ヨーロッパ側から来た僕は大いにアジアを意識したのだ。反対に、アジア側から来た旅行者はここでヨーロッパを感じるという。そのギャップこそが「アジアとヨーロッパの掛け橋」といわれる所以なのだろう。

 イスタンブールは旅行者の一大交差点だけど、単に交通の要ではなく、観光してよし、沈没してもよしの、世界でも有数のバックパッカー天国だと思う。みんなにアンケートをとったら好きな都市の5本指に入るのではないか?バンコクなどとともに・・・。 


本日の走行距離            0キロ(計69027.7キロ)

出費                   1.5ML  インターネット
     3.7ML 飲食費
計     5.2ML
(約520円)

宿泊         Konya Pension
インターネット    Konya Pension