コス島へ渡るフェリーは朝9時にボドルムを出る。コス島というのはボドルムの沖合にある島で、地図を見ると、なんでこの島がトルコ領じゃないのだろう、と思うほどトルコ本土に近い。したがって、コス島へ渡るフェリーは1時間もかからないで着いてしまう。港の入国管理事務所で審査を済ませ、無事ギリシャに入国したのは午前10時半ごろだった。
コス島からアテネに向かう長距離フェリーは、今の季節はやはり週3便しかないらしいのだが、運良く今夜9時半に出る便があるという。おかげで島で一泊することなしに、あのホステル「アナベル」に帰ることができる。
本当はサントリーニという島に寄りたかったのだが、島と島を直接結ぶフェリーの便は悪く、むしろいったんアテネに戻った方が便数ははるかに多いのだ。
夜まで時間を潰さなければならないので、港にバックパックを預け、島の中心となるコス・タウンを歩いてみた。
エーゲ海の島々はリゾートをウリにしているところ、遺跡・史跡をウリにしているところ、町並みの美しさをウリにしているところ、とキャラクターが分かれているが、コス島は思いっきりリゾートの島である。コス・タウンというのは単なる島の玄関口で、ヨーロッパからのリゾート客はここでレンタカーを借り、あるいは出迎えの車に乗って、島の各地にある高級ホテルに消えて行くのだ。
だから、金のないバックパッカーにはあまり用のないところなのである。天気は良いけど、海に入れるほど暖かくはないし・・・。
あてもなく歩き回ると、すぐに町を一周してしまった。
ヨット・ハーバーとかシーフード・レストランの並ぶ通りを歩いていると、対岸のボドルムと何ら変わらない印象を受けるが、唯一、違うものを発見した。クリーム色の壁に水色の屋根がのった、ギリシャ正教の教会である。青空がバックの教会というのは絵葉書の定番なので、これを見てギリシャに戻ってきたこと実感した。
やがて通りという通りを歩きつくし、僕はすぐに退屈してしまった。公園のベンチに座って1時間つぶし、ローマ遺跡の倒れた柱の上で昼寝をして1時間つぶし、カフェに入って1時間つぶし、夕食で1時間つぶし、村上龍の「イビサ」を読み終え、ようやく夜9時になって港に戻る時間になった。
ギリシャのフェリーは意外と安く、コス島とアテネを結ぶ13時間の航路でも23.95ユーロ(約2800円)だった。もちろん個室ではなく、椅子が並んだだけのデッキの料金だが、それでもオフ・シーズンなので横になって眠れるほどに空いていた。
船はほとんど揺れず、おおむね快適だったのだが、低速になるとエンジンの振動が大きくなり、デッキの天井にはめられた金属のパネルが共鳴してまるで大地震のようにガタガタと騒ぎ出す。フェリーは何度か途中の島に寄港するのだが、そのたびに大地震は起こり、子供たちは泣き、大人たちは「なんだなんだ」とうろたえる。
ギリシャは中東諸国に比べればはるかに近代的なんだけど、こんなところでツメが甘いのを見ると、やはりギリシャなんだなあ、と妙に納得してしまうのだった。
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