次の目的地パムッカレまでは、距離にして500キロはある。その手前、デニズリの着いたのが午前5半時で、そこからバスを乗り換えてパムッカレについたのは午前7時だった。待ち時間を除けば全部で10時間バスに揺られていたことになるが、腰が痛くて2時間ぐらいしか眠ることができなかった。
パムッカレではバス会社が提携しているホテルの前で降ろされた。本当はシングルの部屋に5ドルくらいで泊まれる安いところを探そうと思っていたのだが、ここでも冷たい雨が降っていた。そのホテルの部屋を見せてもらうと清潔なバスルームがついたツインで、7ドルにしてくれるというので、結局そこに泊まることにした。
そしたら部屋で落ち着いたとたん、雨が止んだ。なんだよそれ。
少し眠ってから動き出そうと思っていたが、なぜか神経が高まってあまり眠くない。そのままパムッカレの石灰棚を見に行くことにした。
パムッカレはトルコ随一の温泉地である。石灰棚とは、源泉に含まれる石灰分が丘の斜面を真っ白に覆って段々畑のようになったものである。「棚」には水色の温泉が溜まり、まわりの白さとのコントラストが美しいばかりでなく、夕暮れ時にはまたまったく別な、幻想的な色調を見せるらしい。
しかしそんな謳い文句とは裏腹に、パムッカレを訪れるとガッカリするという噂がバックパッカーの間では語り継がれている。世界遺産ではあるが(最近これも増えすぎてどうかと思うが)、言うほど綺麗じゃないし、すぐに見終わってしまうので、パムッカレを訪れても泊まる必要はないというのである。現に同じバスで着いた旅行者の多くは、今日のうちにパムッカレを後にするらしい。
しかし僕はといえば、それでも一応は有名だし、バスでは眠れなかったし、温泉に浸かってゆっくりしたいと思ったので、ここで一泊することにしたのだ。
しかし観光をはじめると、僕は本当にガッカリしてしまった・・・。
開発を急いだために温泉は枯れつつある、というのは「地球の歩き方」にも書いてあったが、その通り、湯量が圧倒的に足りない。「棚」はカラッポで、水のないプールのようにみすぼらしい。靴を脱げば石灰の上を歩くことができるのだが、ちょろちょろと流れる温泉に足をつけると、申し訳程度にぬるいだけで、僕は身も心も寒くなってしまった。
いったん町の方へ帰り、朝食を食べてから3時間ほど眠った。そしたら、嫌な夢を見た。
僕はまるでカッパドキアのような、岩がゴロゴロとした荒野にいる。目の前には黒っぽいウサギがいる。かわいいな、と思うと、他にもウサギがいることに気付く。右を向いたらそこにもいて、左にもいる。数えてみると十数匹いる。
あれ?これ、多すぎやしないか?すました顔をしているけど、もしかしたらこのウサギたちは僕を襲うつもりじゃないか、という不安がよぎる。ふり向くと、そこにも地平線までびっしりとウサギがいる。そして「こいつめ、気付きやがったか」みたいな感じで歯を剥き出し、目を血走らせて怒りを露にしている。
僕は怖くなって目の前のウサギを踏み潰す。するとその瞬間、大地を覆っていたウサギはみんなカエルになる。食用ガエルのような大きなカエルだ。僕はカエルを踏み潰し続ける。だけど、手に負えない。なにしろカエルは星の数ほどいるのだ。
すると遠くにトルコ人の親父が数人見える。僕は助けを求め、彼らも「こりゃ大変だ」と、すぐに走り寄ってきてくれる。そして僕たちはカエルを踏み潰し続けるのだ。次から次へと・・・。
・・・などという謎の夢をみて汗をかいたあと(どんな意味があるのだろう?)、僕は石灰棚の方にもう一度行き、今度は水着を着て温泉に入ることにしたのだ。
パムッカレにはかつてローマの町があり、円形劇場などローマ遺跡の「お約束」もあるのだが、温泉はそんな遺跡のど真ん中にある。プールというよりは神殿の跡に湯が溜まったような感じで、底には倒れた柱なんかが沈んでいるのだ。
湯温はそれほど高くなく、温水プール程度。藻が浮いていてきれいとは言えないが、ローマの柱の上に寝そべってくつろげるなんて、なんて贅沢な温泉なのだろう。よく金魚や熱帯魚の水槽の中に入れるためのおもちゃの柱や橋なんかがあるが、ここに沈んでいるのは本物なのだ。
もっと温度が高ければ楽しめたのだが、30分ほど浸かって体が冷えてきたので上がった。タオルで体を拭いて服を着るまでの間が非常に寒かった。まもなくアテネに戻るが、あそこの気温はどんなものだろう?
|