世界には、宮崎駿が自分の作品のモデルにしたといわれる場所がいくつかある。
「風の谷のナウシカ」はパキスタンのフンザ、「魔女の宅急便」はクロアチアのドブロウニク、そして「天空の城ラピュタ」はシリアのクラック・デ・シェバリエ城である。(「ラピュタ」に関しては、カンボジアのタ・プロームからもヒントを得たという噂を聞いたことがある)
僕は、彼の作品の中でも特に「天空の城ラピュタ」が好きだ。あれを観たときに僕はまだ中学生だったが、映画の中の世界と現実を比べて、「なんてこの世はつまんないんだ」と思ってしまったほどだ。(その後、バイクに乗るようになって自分も冒険活劇の主人公になり得ることが分かったが)
そんな僕がクラック・デ・シェバリエ城に行かない訳がないのだ。というわけでレッツ・ゴー!
宿を7時半に出て、セルビスというマイクロバスに乗ってまずホムスに行く。ヨルダンでは都市間を結ぶ乗合タクシーをセルビスと言ったが、シリアでは都市内部や近郊を走るマイクロバスをセルビスというのだ。
どちらも、満員にならないと出発しないというのは一緒だ。ホムスから城に向かうセルビスはなかなか人が集まらないので、かなり待つ覚悟が必要らしい。
ホムスに着き、セルビスに乗りかえると、日本人女性が2人乗っていた。話してみると1人はダマスカス、もう1人はカイロに住んでいて、2人とも若く、アラビア語が話せる。ピーンときて、「海外青年協力隊でしょ!」と聞いたら、やはりそうだった。僕はルーマニアで何人か女性の隊員に会っているので、言葉では言い表せないような独特の雰囲気が分かるのだ。
彼女たちに炊き込みご飯のおにぎりをもらい、しばらく待つと、意外に早く人が集まってセルビスは出発した。
運転手は妙にハイな親父で、ダミ声で歌い上げ、手拍子を取りながら運転し(ハンドルから手を離すなっちゅーの!)、約30分後に城のふもとに着いた。
学生料金15ポンドを払い、さっそく見学を始める。
ここでちょっと脱線。シリアを訪れるときは、必ずどこかで国際学生証を作っておくように。ここもそうだけど、シリアの博物館や観光名所は大概入場料金が300ポンドだが、学生証を見せると一気に20分の1に下がるのだ!)
さて、青空のもと、小高い山の頂上にそびえるクラック・デ・シェバリエ。この城は十字軍によって造られた要害で、1271年に陥落するまでイスラムの手からこの地を守っていた。その後はイスラム教徒の要塞兼住居として使われ、ほんの50年前まで人が住んでいたらしいのだ。
城からは360度のパノラマが楽しめる。眼下に広がるのは緑に覆われた丘陵地帯。レバノンの方角を見ると雪を被った山岳まで見える。シリアというと砂漠のイメージがあるが、この辺は実に牧歌的だ。
城の一番高い所まで登り、「ラピュタ」の世界に想いを馳せようと思ったら、レバノンから日帰りでやってきた女性のグループに囲まれた。
「きゃー、どこからやってきたの?」
「何歳、何歳?名前は?」
「メールアドレス教えてあげる」
「お菓子あげる」
そして一緒に写真撮影が始まった。レバノンはアラブ諸国の中でもかなり開放的だと聞くが、なるほど、西洋人のような格好をした人が多い。
彼女たちの中には僕の写真を撮って、城の上からの眺めを撮らなかった人もいた。おい、いいのか!素晴らしい景色のかわりに俺なんか撮って!
こんなにモテたのは、ペルーのナスカの地上絵以来だ。あのときも、ペルー人のグループは地上絵よりも僕に夢中だった。
正確にいうとモテているのではなく、「珍獣」扱いに近いのだけど・・・。
さて、城の感想だけど、「なかなかいいではないか。パルミラよりずっといいぞ」って感じだ。特に最近、イスラムやローマの遺跡ばかり見てきたから、中世のお城というのが新鮮に見えたのかも。
ただし「ラピュタ」のモデルというのは、言われてみないとわからない。それはクロアチアのドブロウニクも一緒だった。宮崎駿は確かに来たのだろうが、それ以外にも見た城や風景なんかを組み合わせて、独自の舞台を作ったのだと思う。ここを舞台にしたというよりは、一つのヒントにした、という感じだろう。
あまり遅くなるとホムスに戻るセルビスがボッてくるというので、2時間ほど見たあと、午後1時ごろには城を後にした。帰りもあの日本人女性一緒で、今度はナッツをいっぱいもらった。レバノン娘からはチョコレートをもらったし、今日は女性運がいいのだ。
ハマに戻り、昨日打った日記をフロッピーに落としてインターネットカフェに行くが、プロキシサーバーの設定があってFTPソフトがつかえない。ホテルのフロントにも割高のインターネットがあるのだが、そこで試しても駄目だった。明日、トルコに入国する予定なので、そっちでアップロードをしよう。
ちなみに、僕はシリアでインターネットがあることにとても驚いた(シリアは独裁体勢で、マスコミも政府にコントロールされ、人々は言論の自由がない)。しかし何らかの規制は働いているようで、例えばホットメールも、普通にwww.hotmail.comにアクセスしようと思っても無理で、ある特定のホームページからリンクで飛ばないと駄目なのだ。どんな仕組みになっているんだろう?
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