村上さんのおすすめ、アユタヤに移動する。バンコクから北へ80キロ、14から18世紀にかけてアユタヤ朝の都だった古都は、バンコクの喧騒を忘れてゆっくりするのによい所だという。日帰りも可能なのだが数日間はゆっくり過ごしたいので、我々はカオサン・ロードの宿を引き払ってタクシーでファランポーン駅に向かった。
タイ鉄道網の要、ファランポーン駅にも嘘つきはたくさんいる。政府公認の案内係を自称し、「その便は運休になった」などと嘘をついて自分とコネのある悪徳旅行代理店に連れこむのだ。そんなのに引っ掛かる奴なんているのか?と思うが、彼らの商売が成り立っている以上、やはりいるのだろう。
2時間もかからない旅なので木の椅子の3等車両にする。クーラーはないが窓は開け放たれているので、窓際は目を開けるのがつらいほど風があたる。荷物が心配なので移動中は眠りたくないのだが、早起きしたぶん1時間以上も眠ってしまった。しかし3等車両は乗客が多く、家族連れの比率も高いので荷物が盗まれるような雰囲気はしない。
むしろタイでは悪徳旅行代理店の運行する観光客専用の長距離バスの方が危険らしい。サービスとして配る飲料に睡眠薬を入れ、眠っている間に貴重品を狙うのだという。特に南部のリゾートとバンコクを結ぶルートで被害が頻発しているらしい。
水田の間を列車は進み、午後1時にアユタヤ駅に着いた。
ホテルやトゥクトゥクの客引きを振り切り、渡し船でアユタヤ島に渡ってから流しのトゥクトゥクを捕まえる。アユタヤの中心はチャオプラヤー川とその支流の挟まれた島にあるのだ。
村上さんの定宿「P.S Guest House」にはバンコクから予約を入れておいた。今の時期、タイでは人気のゲストハウスに泊まるのに予約が必要らしい。実際、この宿も出入りが激しいものの、毎晩きっちり満室になる。元英語教師のおばちゃんが営む一軒家で、夜12時にもなればみんな眠るような静かな宿だ。明け方までトランス・ミュージックが聞こえてくるようなカオサンの宿とは違う。
蚊が多いのが難点だが・・・これはどこに行っても仕方のないことだろう。
我々は贅沢にもエアコンつきの部屋にした。それでも一人500円にも満たない。
広い空、刺すような陽射し、虫の音、木造の一軒家、香取線香の匂い、うるさい旧式のエアコン・・幼いころの夏休みを思い出す。我々は到着したその日から、目的である「ゆっくりする」ことを実行した。パソコンも開けず、エアコンの効いた部屋で本を読んだり昼寝をして過ごしたのだ。
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