旅の日記

タイ・アユタヤ編(2002年1月26〜29日)

2002年1月26日(土) アユタヤに移動(Moving to Ayutthaya)

 村上さんのおすすめ、アユタヤに移動する。バンコクから北へ80キロ、14から18世紀にかけてアユタヤ朝の都だった古都は、バンコクの喧騒を忘れてゆっくりするのによい所だという。日帰りも可能なのだが数日間はゆっくり過ごしたいので、我々はカオサン・ロードの宿を引き払ってタクシーでファランポーン駅に向かった。
 タイ鉄道網の要、ファランポーン駅にも嘘つきはたくさんいる。政府公認の案内係を自称し、「その便は運休になった」などと嘘をついて自分とコネのある悪徳旅行代理店に連れこむのだ。そんなのに引っ掛かる奴なんているのか?と思うが、彼らの商売が成り立っている以上、やはりいるのだろう。

 2時間もかからない旅なので木の椅子の3等車両にする。クーラーはないが窓は開け放たれているので、窓際は目を開けるのがつらいほど風があたる。荷物が心配なので移動中は眠りたくないのだが、早起きしたぶん1時間以上も眠ってしまった。しかし3等車両は乗客が多く、家族連れの比率も高いので荷物が盗まれるような雰囲気はしない。
 むしろタイでは悪徳旅行代理店の運行する観光客専用の長距離バスの方が危険らしい。サービスとして配る飲料に睡眠薬を入れ、眠っている間に貴重品を狙うのだという。特に南部のリゾートとバンコクを結ぶルートで被害が頻発しているらしい。

 水田の間を列車は進み、午後1時にアユタヤ駅に着いた。
 ホテルやトゥクトゥクの客引きを振り切り、渡し船でアユタヤ島に渡ってから流しのトゥクトゥクを捕まえる。アユタヤの中心はチャオプラヤー川とその支流の挟まれた島にあるのだ。
 村上さんの定宿「P.S Guest House」にはバンコクから予約を入れておいた。今の時期、タイでは人気のゲストハウスに泊まるのに予約が必要らしい。実際、この宿も出入りが激しいものの、毎晩きっちり満室になる。元英語教師のおばちゃんが営む一軒家で、夜12時にもなればみんな眠るような静かな宿だ。明け方までトランス・ミュージックが聞こえてくるようなカオサンの宿とは違う。
 蚊が多いのが難点だが・・・これはどこに行っても仕方のないことだろう。

 我々は贅沢にもエアコンつきの部屋にした。それでも一人500円にも満たない。
 広い空、刺すような陽射し、虫の音、木造の一軒家、香取線香の匂い、うるさい旧式のエアコン・・幼いころの夏休みを思い出す。我々は到着したその日から、目的である「ゆっくりする」ことを実行した。パソコンも開けず、エアコンの効いた部屋で本を読んだり昼寝をして過ごしたのだ。


出費                  27.5B   タクシー
     15B トゥクトゥク
     15B 列車
     150B 宿代
     202.5B 飲食費
計     410B
(約1240円)
宿泊         P.S Guest House


2002年1月27日(日) ボートツアーに参加する(Boat tour around the island)

 朝から観光をしようと思っていたのに、目が覚めたのは昼頃だった。慣れないエアコンのせいだろうか、体が少しだるい。
 煮た鶏をのせたご飯とアイス・コーヒーの昼食を食べるともう午後1時で、今日の観光をあきらめかけたとき、宿のおばちゃんが部屋をノックした。2時から島を一周するボートツアーを行うので、あんたらも来なさいという。所要3時間で料金は150バーツ。これからのプランとしてはもってこいだ。

 参加者は我々を含めて大人7人、子供1人。これに宿のおばちゃんと白人の旦那さん、そして番頭のような人も一緒に来たから宿をあげてのイベントとなった。この人数で無理やり一台のトゥクトゥクに乗り、船着場から細長い木製のボートに乗った。バンコクでもよく見るタイプの船で、スクリューのシャフトがとても長く、エンジンも強力でかなりスピードが出る。たまにかかる飛沫を別にすれば、顔にあたる風が気持ち良い。

 ボートはしばらく島の回りを走り、川とともにある人々の生活が伺えた。
 ほとりに建つ家から釣り糸を垂れている人、水浴びをしている人、投げ網で漁をしている人、いかだ遊びをしている子供たち、巨大なバージを三隻も四隻も引くタグボートの船長、洗濯物がはためくボート・ハウスの大家族。みんな人懐っこく、我々を見ると向こうから手を振ってくる。

 やがてボートは速度を落とし、土の岸に接岸した。すぐ近くで少年が何か黒いものに乗って水浴びをしている。 その巨大な塊は大きく左右に動き、沈んだかと思うと、今度は水から顔をあげた。そう、少年を頭にのせたまま巨大な顔をあげたのだ。巨大な耳、長い鼻、歓声がボートからあがる。ツアーがはじめに訪れたのは象の牧場だった。
 昨日も街中で見たけど、アユタヤには観光用の象がいる。背中の鞍に観光客を乗せ、のっしのっしと闊歩するのだ。ここはそんな象を飼育するところらしい。

 岸に上がってしばらく歩くと、象が何頭も入った檻があった。檻といっても囲んでいるのは頼りない木の柵と鉄条網だけ。本気になれば逃げ出せるだろうが、ここの象は自分たちの居場所をよく知っているのだろう。
 宿のおばちゃんが配ったバナナを差し出すと、一頭の象は嬉しそうに鼻を伸ばして取って行った。そのうちにどんどん象が集まってきて「俺もくれ!俺にもくれ!」と鼻を伸ばす。みんな興奮して迫ってくるので鉄条網が顔や頭に食い込むが、皮膚が厚いために痛くはないらしい。
 僕はたいていの哺乳類が好きだが、象も例外ではない。かわいいなあ。素敵だなあ。だけどここであまり調子にのると、きっとムツゴロウさんのようにアバラ骨を折られるのだろう。だってデカイもん。

 象牧場のあとはワット(寺院)を何ヶ所か回った。
 古都アユタヤにはワットが多いが、18世紀にこの地を占領したビルマ軍によってほとんどが破壊されたらしい。崩れかけた塀や草が伸び放題の境内、ひびの入った仏像など荒れ果てた感があるが、オレンジ色の袈裟を着たお坊さんの姿もあり、地道に手入れをしたり修復していたりする。
 宿のおばさんは顔がきくらしく、お坊さんは普段は観光客を入れることのないような、ひっそりとしたお堂を開けてくれた。お堂そのものは痛んでいたが、中の仏像はきれいに磨かれて布が被せてあった。きっと毎日、手入れを欠かさないのだろう。
 タイ行きの飛行機で読んだ新聞に書いてあったが、タイの仏教は実践を重視するという。できるだけ仏像や寺の手入れをしたり、お経を読んだりすることで徳が身につくのであって、観念や考えだけではダメなのだという。(対して日本の仏教では行動よりも観念が重要視されるらしい)
 そんなわけで、働き者のタイのお坊さんは今日もがんばっているのであった。

 ワットを回って思ったのは、タイの子供の素直さだ。ワットの近くでよく子供が遊んでいるが、我々に気づくとみんなニコニコと手を振ってくる。集まってくる子達もいるが、決して「バクシーシをくれ」「モネーダをくれ」「ペンをくれ」「キャラメロくれ」「なんでもいいからくれ」などとは言わない。みんな好奇心いっぱいに我々の顔を除きこむだけで、それでニコニコしている。あ〜、素直な子供っていいなあ!

 尖塔が夕陽に照らされるころまでワットを見たあと、ボートは出発点まで戻った。親切な宿のおばさんはボートに乗っている間、ずっとスイカやバナナ、サンドイッチ、水なんかをみんなに配っていた。行き帰りのトゥクトゥクに食事までつけたら、儲けなんかほとんど出ないだろうに。まあ、こうすることによって宿は繁盛するのだろうが。

 いったん宿に戻ったあと、ナイト・マーケットに夕食を食べに出た。屋台の種類が豊富なアユタヤのナイト・マーケットはかつて宿から遠かったが、最近徒歩5分の場所に移動して便利になった。一通り見たあと、鶏肉のしゃぶしゃぶを食べた。カセットコンロなどないから、鍋を熱するのは炭だ。日本の感覚でいえば逆に贅沢な気がする。しゃぶしゃぶは美味しかったが、量が少ないのでもやし入りのオムレツを買って帰る。
 静かで快適なうえ、近くにこんな便利なマーケットがあるなんて、なんていい宿なんだろう。アユタヤから出られなくなるってのも、それはそれで困るのだけど・・・。


出費                   150B   宿代
     150B ボートツアー
     131.5B 飲食費
計     431.5B
(約1300円)
宿泊         P.S Guest House


2002年1月28〜29日(月、火) のんびりする(Relaxing)

 エアコンの効いた部屋は確かに快適だが、慣れていないと体調を崩す。僕は2000年の7月に一時帰国したとき横浜の蒸し暑さに耐えきれずにエアコンをつけて寝たが、一晩で喉がダメになった。
 アユタヤでは松井史織が風邪をひいた。鼻水が止まらなく、熱も38度近くまであがった。もはやエアコンをつけている場合ではないので、宿のおばちゃんにエアコン無しの部屋に移してくれるよう頼んだら、おばちゃんは部屋に扇風機を運んできて「エアコンを使わなければ普通の部屋の料金でいいよ」といってくれた。

 28日はそんなわけで宿でのんびりとしていた。芝生の庭で朝食をとり、犬とネコと戯れ、ベランダで村上龍の「コインロッカー・ベイビーズ」を読み、部屋の固いベッドの上で日記を打った。

 夕食はやはりナイト・マーケットだ。タイの屋台は日本人の舌に合い、そしてレストランで食べるのが馬鹿らしくなるほど安い。ツーリスティックなレストランの一品の金額で、屋台なら2人が食事してフルーツシェイクとアイスクリームがついてくる。
 ただ、ビールだけはどこでも高い。350mlの缶一本で30バーツ(約90円)はする。30バーツあればラーメンもお粥も食べられるし、スルメが3枚買える。他の物価に比べるとビールがとても割高に感じるのだ。

 スルメ!そう、タイ人もスルメを食べるのだ。屋台は小さな干しイカをずらりとぶら下げ、七輪からのぼる匂いをうちわで扇ぎ、視覚と嗅覚の両方で攻めてくる。大きさのわりに高いかな、と思いながらも注文すると、おばちゃんはスルメを網に挟んで両面をていねいに焼いたあと、旧式の脱水機のようなローラーに入れてグリグリと伸ばしてくれた。するとあらら、スルメの面積が2倍に広がってちょっとオトクな気分。味は日本のスルメとまったく同じ。とても幸せなのだ。

 29日は松井史織の体調もやや回復したので、散歩がてらインターネットカフェを探しに行った。
 アユタヤの繁華街にあるカフェを2軒あたったのだが、インターネットというよりも対戦型ゲームを地元の子供にさせるのが主な商売らしい。下校時間に重なってしまい、店内はマシンガンや手榴弾の音で会話もできないくらいだった。
 出なおそうと思って帰路についたが、宿のすぐ裏に静かで日本語も打てるカフェを発見する。メールのチェックをしたり、ロシアのビザのことなどを調べた。カオサン・ロードのカフェよりゆっくりできる雰囲気があっていい。バンコクに戻る前に、ここで調べものをまとめてやっていこうか。


出費                   300B   宿代(3泊分)
     195B 飲食費
     45B インターネット
計     540B
(約1630円)
宿泊         P.S Guest House
インターネット    Search.Com