旅の日記

クロアチア編(2001年11月1〜3日)

2001年11月1日(木) 秋のクロアチア(Croatia in Fall)

 朝起きると、昨夜の暴風はおさまっていたが、空は鉛色だった。ブダペストにいる間にあれだけ晴天に恵まれたのに、走りだすとこうなのだから・・・。(もっとも、雨の多い月にわざわざ走っているという噂もある)

 ハンガリーでは11月1日は死者を弔う日らしく、国民の休日だ。そして墓地という墓地が墓参りの人で溢れ、一つ一つの墓標にささげられた花が鮮やかなのは、国境を越えてクロアチアに入ってからも同じだった。しめやかに墓参りをしている人たちの邪魔にならないよう、気を使って写真を撮った。

 今日の目的地はボスニア・ヘルツェゴビナとの国境に近い、プリトヴィッツエ国立公園。そう高くはないが山の中にあり、近づくに従って寒くなった。大体、こんな季節に行く方が間違っているのだ。腕時計の気温計は10度ちょっとを示しており、雨の北欧で鍛えてなければ泣きが入っただろう。あそこの寒さは、こんなものじゃなかったのだ。

 山の中に入り、弾痕が残っていたり、あるいは完全に破壊された家々が見られるようになった。これらは約10年前の、ユーゴスラビア連邦からの独立戦争のときのものだ。この一帯は一時、ユーゴ連邦軍の勢力下に置かれたことがあり、世界遺産のプリトヴィッツエ国立公園も危ぶまれたという。
 クロアチアの後はボスニア・ヘルツェゴビナに行くつもりだし、1991年から約5年間に渡って世界を震撼させたバルカン紛争の傷跡を、これからも見ることになるだろう。

 午後3時過ぎにプリトヴィッツエ国立公園に着いたが、すでに太陽は山々に隠れようとしていた。
 公園の周辺にはいくつかのホテルとプライベートルームがあるが、やはりホテルは高く、プライベートルームもやっていなかったり、ようやく営業中のところがみつかっても、すでに満室のところが多い。

 ようやく、冬に向けて閉じたばかりのプライベートルームを開けてくれるという家族を見つけた。2泊で160クーナといえば1泊10ドル以下で、部屋も清潔だ。シャワーとトイレは共同だが、他に宿泊者がいないから関係ない。こりゃ昨日に比べれば天国だ・・・と思ったが、甘かった。暖房器具がないので夜が寒く、室内でも摂氏10度を割るほどなのだ。
 うむむ・・・こんな季節に来ていいことなし、と思っていたが、実は一ついいことがあったのだ。それは木々の紅葉が、今まさに見頃ということだ。明日の国立公園に期待を寄せ、ありったけの毛布を被って眠るのだった。


本日の走行距離       347.2キロ(計66691.3キロ)

出費                 2000Ft   ガソリン
     25Kn 高速道路
     160Kn 宿代2泊分
     20Kn 食材の買物
     42Kn 夕食(カフェテリアでローストビーフ)
計     2000Ft
(約860円)      247Kn(1ドル=約8.1クーナ、約3660円) 宿泊         155番という看板の出たプライベートルーム


2001年11月2日(金) プリトヴィッツエ国立公園(Plitvicka Natinal Park)

 その期待は果たして的中した。翌朝、プリトヴィッツエ国立公園に行ってみると、ビジターセンターや土産物屋は閉まっていて閑散としていたが、今がベストシーズンじゃないのかと思うほど紅葉が美しかった。
 この国立公園には5百メートルほどの高低差の間に大小16の湖が階段状にあり、それぞれが滝や小川で結ばれている。曇りの空の下でも水は鮮やかなエメラルドグリーンで、白い滝のしぶきがハイライトを加えているが、今はその上、まわりの木々まで色づいているのだ。夏は新緑でまぶしいのだろうが、こんな見事な色彩は味わえまい。

 二つある公園の入口のうち、今は標高の低い方しか開いていなかったので、一番低い湖から順々に登っていくという非効率的なことになった。しかも一番大きな湖には横断するための定期船があるのだが、乗り場に着いたらこれが行ったばかりで、シーズンオフのために次の便は一時間後。待つのもバカらしいので、グルリと湖の周りを歩くことにした。

 しかし、こうして歩くことになった遊歩道が楽しかった。道は、時には見失うほど落ち葉で覆われており、それをガサガサと足で蹴散らしながら進むのだ。林の中の落ち葉の絨毯、こんなところを歩くのはいつ以来だろう。この旅に出てからずっと夏ばかり追ってきたから、こんなにも秋という季節を感じたのは初めてだ。
 これでマツタケや鍋物が食べられたら、いうことないのだけど・・・。

 遊歩道のわきには、ところどころに滝があった。迫力あるものではないが、岩肌にはコケが生え、流れにのまれそうになっている古木も紅い葉をつけていたりして、日本人好みの風情がある。
 曇り空で寒いのが残念だが、この寒さが木々を染めていると思えば、それもまた風情だ。苦労してこの季節に来たのは正解だったのだ。

 一番高い湖まで、たっぷり6、7キロは山道を歩いたろう。久々のトレッキングは大変気持ちが良かった。
 園内にはシャトルバスが周遊しているので、それに乗って駐車場まで帰ることにしたが、これがなかなか来ない。歩いているときは寒さが気にならなかったが、風をかろうじて遮るだけの待合室にすわり、小一時間ほど待つのは辛かった。

 その待合室でも、宿に帰ってからも、ずっと今後のことを考えていた。ギリシャやトルコまで下れば暖かいだろうと楽天的に考えていたが、調べれば調べるほど、それは甘い考えであることが明らかになってきた。冬の地中海は想像以上に冷えるだけでなく、一年中で一番雨が多いのだ。
 寒かったりすると人間は弱気になるもので、暖房のない部屋でこごえながら日本の音楽を聴いていたら、ちょっと日本に帰りたくなった。この間、ブダペストで「部長・島耕作」を読み、日本は嫌だなあと思ったばかりなのに。
 まあ、なるようになるさ。今回のプリトヴィッツエ国立公園のように、季節外れが正解に転ぶこともあるのだから・・・。


本日の走行距離          29キロ(計66720.3キロ)

出費                   20Kn   国立公園入場料
     15Kn 食材の買物
計     35Kn
(約520円) 宿泊         155番という看板の出たプライベートルーム


2001年11月3日(土) 凍える(Freezing)

 この間、北欧の寒さはこんなもんじゃなかった、と書いたが、今朝はそれを上回った、というより気温は下回っているわけで、いやはや、日本語は難しい ・・・などと悠長に言っている場合でなくて、マジ、寒いのだ。
 プリトヴィッツエ国立公園の近くのプライベートルームを出たのが午前9時ごろ。さほど早くはないのだが、太陽はまだ早朝のごとき傾きよう。走り出して10キロも走らないうちに、指先が針で刺されるように痛み出した。腰につけた腕時計を走りながら操作すると、「摂氏0.9度」との表示が出た。もちろん走行による風の影響もあるけど、それにしてもこの旅でダントツの寒さ。晴れていてまだ良かった・・・これで雨なら最悪だ。
 ちなみに、走行中の気温で今まで一番高かったのはモロッコの39.7度。寒すぎても暑すぎてもバイクは辛い。走行が楽しめる気温の幅は、せいぜい15〜30度の間だ。

 今日の目的地はクロアチアのアドリア海沿岸で最大の港町スプリットだが、そこまでを最短距離で結ぶ国道はずっと山の中を走る。この寒さではたまらず、遠回りになっても先に海に下ることに決め、ザダールという港町に向かう脇道にそれた。
 海岸に出たら、さすがに一息つける温度になった。とはいってもせいぜい12度ぐらいで、道沿いに植えられたヤシの木を見ても心が踊ることはない。アドリア海の青さはさすがに格別だが、冬の陽射しに照らされたリゾート風の白い家々は、まるで世界から忘れ去られたような寂しさが漂う。

 午後3時前、スプリットに到着。まずはフェリー乗り場に行き、アドリア海の対岸、イタリア行きのフェリーの出発日時を調べた。私は明日、さらに200キロほど南のドブロウニクに行くが、そこからだと毎週火曜日にしかフェリーが出ないのだ。
 さすがにスプリットは便が多く、火・木・日にイタリア行きの便があるという。これならドブロウニクから戻ってきてもよいな、と思ったが、このスプリット発のフェリーは大きく北上し、イタリア半島の付け根の方の都市に向かう。私の行きたいギリシャ方面とは完全に逆だ。やはり数日待ってでもドブロウニクから渡った方が、時間的にも経済的にも節約になる。

 大きな街になるとプライベートルームを自力で探すのは困難で、旅行代理店に紹介してもらうことになるが、今日は土曜日。ほとんどの店が昼までで閉まっていた。
 ようやく港に面した営業中の旅行代理店を見つけ、紹介されたプライベートルームは親切なお爺さんが営む、小さいながらも清潔なところだった。明日、ドブロウニクに向かうといったら、彼が知り合いのプライベートルームに電話をしてくれた。これで明日は宿探しで苦労しなくて済む。

 早速、スプリットの街に出てみた。
 この街はかつてローマ皇帝が夏を過ごしたところでもあり、3〜4世紀ごろに建てられた宮殿や、周辺の白く古い建物が斜陽に照らされて眩しい。湾は鏡のように穏やかだった。
 この街も1979年に世界遺産に登録されているが、独立戦争の時に大きな被害を被ったらしい。いつの時代の戦争も、もたらす結果はだいたい同じだ。

 夜、インターネット屋を発見し、ギリシャのDR‐BIGクラブにメールを書いてみた。彼らのHPは長い間ほったらかしになっているようで、返事が来るかちょっと不安だ。うまいこと行けば彼らと会い、そして冬の間、バイクを預かってもらえるのだが・・・。


本日の走行距離       308.7キロ(計67029キロ)

出費                  120Kn   ガソリン
     100Kn 宿代
     25Kn インターネット
     33Kn 食材の買物
     13Kn コーヒーとアップルパイ
計     291Kn
(約4310円) 宿泊         Private rooms "VRLIC"
インターネット    Internet&Games