朝起きると、昨夜の暴風はおさまっていたが、空は鉛色だった。ブダペストにいる間にあれだけ晴天に恵まれたのに、走りだすとこうなのだから・・・。(もっとも、雨の多い月にわざわざ走っているという噂もある)
ハンガリーでは11月1日は死者を弔う日らしく、国民の休日だ。そして墓地という墓地が墓参りの人で溢れ、一つ一つの墓標にささげられた花が鮮やかなのは、国境を越えてクロアチアに入ってからも同じだった。しめやかに墓参りをしている人たちの邪魔にならないよう、気を使って写真を撮った。
今日の目的地はボスニア・ヘルツェゴビナとの国境に近い、プリトヴィッツエ国立公園。そう高くはないが山の中にあり、近づくに従って寒くなった。大体、こんな季節に行く方が間違っているのだ。腕時計の気温計は10度ちょっとを示しており、雨の北欧で鍛えてなければ泣きが入っただろう。あそこの寒さは、こんなものじゃなかったのだ。
山の中に入り、弾痕が残っていたり、あるいは完全に破壊された家々が見られるようになった。これらは約10年前の、ユーゴスラビア連邦からの独立戦争のときのものだ。この一帯は一時、ユーゴ連邦軍の勢力下に置かれたことがあり、世界遺産のプリトヴィッツエ国立公園も危ぶまれたという。
クロアチアの後はボスニア・ヘルツェゴビナに行くつもりだし、1991年から約5年間に渡って世界を震撼させたバルカン紛争の傷跡を、これからも見ることになるだろう。
午後3時過ぎにプリトヴィッツエ国立公園に着いたが、すでに太陽は山々に隠れようとしていた。
公園の周辺にはいくつかのホテルとプライベートルームがあるが、やはりホテルは高く、プライベートルームもやっていなかったり、ようやく営業中のところがみつかっても、すでに満室のところが多い。
ようやく、冬に向けて閉じたばかりのプライベートルームを開けてくれるという家族を見つけた。2泊で160クーナといえば1泊10ドル以下で、部屋も清潔だ。シャワーとトイレは共同だが、他に宿泊者がいないから関係ない。こりゃ昨日に比べれば天国だ・・・と思ったが、甘かった。暖房器具がないので夜が寒く、室内でも摂氏10度を割るほどなのだ。
うむむ・・・こんな季節に来ていいことなし、と思っていたが、実は一ついいことがあったのだ。それは木々の紅葉が、今まさに見頃ということだ。明日の国立公園に期待を寄せ、ありったけの毛布を被って眠るのだった。
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