旅の日記

ハンガリー編その2(2001年9月26〜30日)

2001年9月26日(水) フォアグラの逆襲(Party at the hostel)

 今日から前歯の処置が本格的に始まった。
 今日は歯型を取るだけだと聞いていたが、そのためには歯茎を開いて古い根元を取り除く必要があり、麻酔注射とメスを使ったちょっとした手術となった。心の準備ができていなかったので緊張したが、何せ先生が美人なので、「あー、きれーだなー」となどとボケーっと考えていると痛みも気にならなかった。

 歯医者の後は、新しい国際学生証を作った。メキシコで初めてつくり、エクアドルで延長した学生証が早くも今年末で期限切れとなってしまうのだ。
 宿の情報ノートに載っていた旅行代理店に行ったら、パスポートの提示だけで来年末まで有効の国際学生証を発行してくれ、しかも料金は約470円。入手方法は不正だが、モノは本物なので、これを提示すれば各種割引が効く。作らない手はないし、ブダペストは作るのに最も適した場所のひとつだ。

 そして夜は本物のフォアグラを食べることになった。先日の1キロあたり800フォリントのフォアグラも、レバーとして食べれば美味かったが、なにせ1キロ4800フォリントの最高級のものは見た目が全然違った。せっかくなら最高級、本物のフォアグラを食べてみたいし、宿にいる11人で割れば一人あたりの金額もそんなに高くはない。
 そんなわけで村上さんと中央市場に行き、重さ900グラムちょっとの最高級フォアグラを購入。薄いビニール袋に入れただけなので、表からも中身がフォアグラとわかる。面白かったのは、道ですれ違う人がみんなその袋を見るのだ。フォアグラが安いハンガリーといえど、それは西ヨーロッパに比べたらのことで、やはり庶民の口にはなかなか入らない。
 「そこのけそこのけ、フォアグラが通るぞ!」と水戸黄門の印籠のように袋を突き出し、大通りを闊歩する二人であった。

 村上さんは料理人だが、専門がイタリア料理なのでフォアグラの料理法はわからない。さすがに最高級のフォアグラで失敗は許されないので、彼がわざわざインターネットで調べたところによると、油をひかずに表面だけを焼き、極レアに仕上げるのが正しいらしい。
 なるほど、最高級のフォアグラはアブラのカタマリだ。ご存知のとおりフォアグラはガチョウの肥大した肝臓、口にじょうごを突っ込んで無理やりエサを流し込んで肥らせるのだ。これに比べたら先日のフォアグラは単なるガチョウのレバー、アブラ分がほとんどない健康な肝臓なのだろう。

 そしてその通りに焼いたフォアグラにナイフの刃を立てると、中から半生の部分がトローリ。こぼさないように丁寧に口に運ぶと・・・おお!この濃厚な旨みと甘みはウニに似ている!こりゃ先日のフォアグラとはまったく別の食物だ。さすが世界三大珍味のひとつ、美味い!
 世界三大珍味といえば、今夜はキャビアのカナッペも作った。キャビアといっても本物のチョウザメの卵ではなく、スーパーで安く買える別のサメの卵だが、それでも我々には十分だ。
 フォアグラとキャビアで舌を悦ばせ、赤のハンガリーワインで喉を潤す。ああ・・・なんて幸せなのだろう。ちなみに本日の夕食代はワイン込みで400円弱!値段も素晴らしい。

 そう、この時はまだ、忍び寄る黒い影に気づきもしなかったのだ。本来ならフォアグラの写真などもあったのだが、それらも全て、破壊されることになる・・・。


本日の走行距離           0キロ(計66129.3キロ)

出費                  420Ft   インターネット
     1100Ft 国際学生証
     700Ft 昼食(カナッペ屋)
     5000Ft 歯医者
     870Ft 夕食(フォアグラ&キャビア)
     280Ft ビール
計     8370Ft
(約3590円) 宿泊         テレザハウス
インターネット    Cyber Bridge Internet cafe


2001年9月27〜28日(木、金) 「Nimda」に感染!(Attack of the computer virus)

 テレザハウスの近くには中国人経営のインターネット屋があり、日本語が使える新しいパソコンがズラリと並んでいて、回線速度も速い。午前中は料金が半額になるので、テレザハウスのみならず、他の日本人宿「マリア」や「ヘレナ」の宿泊者(否、沈没者というべきか)にとっても、朝、ここでインターネットすることは半ば日課となっている。
 ご多分に漏れず、私も「出勤してきま〜す」と午前9時の開店と同時に赴くことが多いのだが、27日は今までとは違ったことを試した。LANカードを使って自分のパソコンでネット接続をしたのだ。

 設定にてこずったが、30分後には無事、接続を果たした。これで今後は自分のパソコンで不自由なくインターネットができると思ったが、ただ、ちょっと変なことに気づいた。インターネットエクスプローラーの「お気に入り」が、勝手に増えたのだ。今思えば増えたのではなく、改ざんされたのだが、その時は深く考えなかった。ま、変なコトもあるもんだ、と。
 しかし、この時から徐々に、しかし確実に、私のパソコンシステムは破壊されていたのだ・・・。

 27日の午後は「英雄広場」と、その近くにある「西洋美術館」を見に行ったが、その近くの公園でウワサのニセ警官に出くわした。

 一人のおじいちゃんがフラフラと近づいてきて、「わしはユーゴスラビアからの観光客なんじゃがのー、迷ってしまってのー。若いの、ここへの行き方を知らんか?」と地図を見せて聞くのだ。
 もう、この時点で怪しいと思った。だってこのおじいちゃん、観光客の割にはボロボロの地図以外、カメラも何も持っていないし、彼が行きたいという場所は完全に街の反対側なのだ。これが罠でなかったら、相当なボケ老人ということになる。
 すると案の定、スーツ姿の中年男性が二人歩み寄ってきて、訳のわからんIDカードを見せて「パスポートチェックだ」というではないか。おじいちゃんは彼らに身分証のようなものを見せ、今度は私にも見せた方がいいという。

 私は笑ってしまった。こんなマンガのようにわかりやすい罠があるだろうか?私服警官を装ってパスポートを巻き上げ、「その筋」に高く売るつもりなのだろう。しかし、ここでパスポートを渡すほど私もうんこちゃんではない。
 私は笑いながら「おまえら、アホだろう?」と日本語で言い残し、その場をスタスタと立ち去った。しつこい奴らなら腕ぐらいつかんでくるかとも思ったが、私が笑ったことで白けたのだろう、彼らも反対方向に去っていった。
 20メートルほど離れたところで振り返ったら、彼らも振り返って目が合った。深い意味もなく「バイバイ」と手を振ったら、彼ら3人(当然、おじいちゃんもグル)も笑顔で「バイバイ」と手を振ってくれた。なかなかフレンドリーなニセ警官だった。
 あー、面白かった。ネタができた、と思った。

 夜、さっそく今日の出来事を日記に収めようとパソコンを立ち上げたら、やっぱり変だ。妙に動きが遅く、意味不明な電子メールファイルが増えている。それらのファイルの拡張子が「eml」なので、検索してみると・・・なんと数千もの意味不明のファイルが見つかった。
 「何じゃこりゃ!勝手にファイルを増やしおって!」と思ったが、実は増えたのではなく、既存のファイルがウィルスによって書き換えられたものだったのだ。

 翌28日、インターネットでこの症状を調べてみると・・・現在、日本やアメリカで猛威を振るっている「ニムダ(Nimda)」という新種ウィルスの症状にピタリと一致する。
 このウィルスは電子メールに添付されたファイルを開かずとも、特定のバージョンのインターネットエクスプローラーとアウトルックエクスプレスの組み合わせでは、そのメールを受信したり、汚染されたホームページを見ただけで感染するという。そして私の使っていたバージョン5.5SP1は、まさにその危険のあるバージョンなのだ。

 さっそくトレンドマイクロ社のホームページからウィルスの発見/駆除ソフトをダウンロードしてディスクをスキャンすると、いるわいるわ、悪い虫が。この虫は増殖、ファイル破壊を繰り返し、勝手に自分の分身を添付したメールを不特定多数のアドレスに送信する。その履歴は残らないため、ユーザーはメールが送信されたことも、誰に送られたのかも判らないのだ。
 一応、駆除は終わったみたいだが・・・被害は果たして、どれほどだろう?


2日間の走行距離          0キロ(計66129.3キロ)

出費                  690Ft   インターネット
     2790Ft 飲食費
     3160Ft メールアドレスのスタンプ
     200Ft 美術館
     300Ft 地下鉄
     700Ft 洗濯代
計     7840Ft
(約3360円) 宿泊         テレザハウス
インターネット    Cyber Bridge Internet cafe


2001年9月29〜30日(土、日) はーれーごり君が来る(A friend arrives)

 しかし、29日になってもパソコンの調子がおかしい。というのもウィルスが死滅しても、破壊されたファイルは修復不可能で、その中にはシステム上、必要なものも含まれているからだ。これはやはり、システムの再インストールが必要かもしれない。
 幸いCD-Rはまだ動くので、最近までのデジタル写真や電子メール、そして昨日ダウンロードした「ニムダ」の発見/駆除ソフトも念のため、CDに焼き付けた。(しかし、これが間違いだったのだ!)

 29日の午後はブダペスト郊外にある「うさぎや」という日本語の書籍やビデオを扱う店に行った。ここには喫茶コーナーもあり、日本食やお茶を楽しみながら雑誌やマンガが読めるのだ。
 パソコン雑誌があるかと期待したが・・・残念ながらそれはなかった。パソコン雑誌があれば、きっと付録のCD−ROMなんかもあって、最新のインターネットエクスプローラーとかインストールできると思ったのだが・・・。
 結局、「おにぎりセット」を食べながら週刊モーニングを読んだ。そして「部長・島耕作」を読んで、日本に帰りたくなくなった。日本のサラリーマン、大変だなあ・・・。

 30日には「はーれーごり」君がテレザハウスに到着した。彼はベルリンにバイクを置いて日本に一時帰国し、これからの旅に向けてカルネ再発行などの手続きをしていたのだが・・・その間に例のテロ事件が起き、彼もアジア横断の道が断たれた。しかし彼もとりあえずは旅を続け、トルコあたりまでは南下するとのこと。南米からのくされ縁はまだ続きそうだ。
 約一ヶ月ぶりに再会したごり君は・・・何かパワーアップしていた。日本で日本食を食べまくり、5キロは太ったらしい。

 そしてごり君から、修理の終わったサンヨーのデジカメ「マルチーズ」を受け取った。ドイツで雨に濡れて壊れてしまい、日本の実家に送って修理したのを、彼に持ってきてもらったのだ。
 その間に使っていたコダックのも悪くは無いが、マルチーズは何せ感度が抜群。室内でもフラッシュいらず、夜景も肉眼で見るより明るく撮れるのだ。これからはマルチーズをメインにして、コダックのは予備として持っておこう。

 しかし人生、良いことばかりではない。パソコンは相変わらず不調だ。これは、やはりシステム再インストールしかないだろう。
 システムリカバリのCDディスクを持っているので、それを試してみるが・・・何と「プロダクトナンバーを入力してください」というメッセージが出た。しまった!日本で控えてくるのを忘れた!実家に国際電話をかけても、ウィンドウズのマニュアルがどこにあるかもわからない。あの散らかった私の部屋から親に見つけてもらうのには、たいへんな時間がかかるだろう。
 こんな時は某国某市に潜伏中の、あの人に電話しよう。彼女も最近、パソコンがウィルスに感染し、システムを入れ直したばかりなのだ。早速テレホンカードを買って電話してみると・・・

「もしもし、久美ちゃん?俺」
「ああ、カズ君、どしたの?」
「いや、俺もウィルスに感染しちゃってさ、システムを入れ直そうと思うんだけど、プロダクトナンバーを控えるの忘れちゃって。久美ちゃん、最近やったでしょ?ナンバー教えてよ。日本にかけると電話代高いし、親に探してもらうの、時間かかるし」
「あのー、私もそうして家に電話して、調べてもらったんですけど」
「そう言わず、お願い、教えて!」
「仕方ないなあ。この借りは大きいよ!」

 やっぱり持つべきものは、やさしい元・妻。無事にプロダクトナンバーをゲットし、システムを再インストール。結局はこれしか方法は無かったが、無事、パソコンは復活した。
 ・・・と、この時は思ったのだ!しかし、まだまだ悪夢は続くのであった。


2日間の走行距離          0キロ(計66129.3キロ)

出費                  830Ft   インターネット
     3330Ft 飲食費
     200Ft 地下鉄
     1800Ft テレホンカード
計     6160Ft
(約2640円) 宿泊         テレザハウス
インターネット    Cyber Bridge Internet cafe