朝一番でノルドカップを目指したかったのだが、大目標を前にノルウェーの通貨が残り少なくなってしまった。「郵便局で両替ができます」というノルウェーの郵政省の看板を見ていたので、朝10時半の営業開始を待って村の郵便局に行くが、「ここではできません」という冷たい答え。
ノルドカップに向かう途中に銀行があるというので、そのまま出発する。こんなことなら郵便局が開くのを待たなければ良かった・・・。
ノルドカップ(「北の岬」という意味)は、ノルウェー本土ではなく、島にある。本土と島は長さ7キロの海底トンネルで結ばれているが、このトンネルの通行料は往復124クローネ(約1600円)もする。そして本番のノルドカップは、別に入場料が175クローネ(約2300円)もかかるのだ。
これらの分の手持ちが無くて困っていたのだが、銀行に寄るまでもなく、いずれもクレジットカードでの支払いが可能だった。そして入場料は、看板をよくみると学生割引あり。犯罪者ヅラの写真の国際学生証を見せると、なんと175クローネが100になった!
そして北緯71度10分、ヨーロッパの北の果てノルドカップに到着。
荒涼とした大地が、ストンと海に落ちている。高さ300mの北の果ての絶壁。岬から北極海を見下ろすと、穏やかな波の深い青が、どこまでもどこまでも続いていた。
ここより北極点まで、わずか2000キロ。ロシアやグリーンランドなど、世界にはここより北極点に近い陸地はあるが、現実的にバイクで行ける北の果てとなると、(おそらく)ここになる。
南米最南端のウシュアイアより、格段に「果てに来た」という感がある。より極に近いし、海に突き出た岬ということもある。そして何より、ここまでの雨と寒さの辛かったこと・・・それが今、報われたのだ。

出発したときには小雨が降っていたが、ノルドカップに着いたとたん、青空がのぞいた。ロホーテン諸島の時と同じパターン、いったい天気は味方しているのか何なのか、よく分からない。
岬には大きな地球儀の記念碑と、世界各地の7人の子どもたちがノルドカップに集まって作ったという「希望の碑」がある。7つの丸い碑はそれぞれが7人の子どもたちの作品だが、日本の女の子のものもあった。
そして岬には最新設備のビジターセンターがあり、暖房の効いた快適な館内にはレストラン、ギフトショップ、周辺で撮られた映像を見せる映画館、郵便局などがある。
ギフトショップで絵葉書を買い、メールアドレスを持たないオランダのオノ、ベルギーのグンタ、そしてスペインのフラガのキャンプ場の兄妹に送った。ここから出すと、特別な消印を押してくれるらしい。
2日前のシケったパンにベーコン味のクリームを塗っただけの「最北端の昼食」を取ってから、ノルドカップを後にする。今度はひたすら南下だ。
トンネルをくぐって本土に戻り、昨夜泊まった村も通り過ぎ、なおも南へ。
そして200キロちょっと走ると、フィンランドとの国境に出た。ノルウェーとフィンランドを結ぶ主な国境なのだが、意外と静かで、両替屋も銀行もなかった。次の町の銀行のATMで引き出せたから良かったが。
フィンランド北部に広がる森林地帯はラップランドと呼ばれる。
湖こそ多いが、険しい山やアップダウンは少なく、ノルウェー側よりも走りやすい。ただしフィンランドに入国してからまた雨が降り始め、せっかく乾いたカッパや靴がまた濡れてしまった。
うらめしげに空を見上げると、びっくりして言葉を失った。西の空の雲が抜け、夕陽が射し込んでいるのだが、煌々と照らし出された針葉樹林の上に180度の完璧な、しかも2重の虹が出ているのだ。
まるでネオン管のようなはっきりした色。こんなに眩しい虹を、私は見たことがない。ラップランド、夜9時半の虹。私はこの風景も一生忘れることはないだろう。
夜10時ごろまで走ったあたりで雨が上がり、まわりの土地も乾いてきたので、適当な林に入ってテントを張る。スウェーデンやノルウェーはブッシュキャンプ合法だったが、フィンランドはその限りでない・・・らしい。
まあ、見つかっても大目には見てくれるだろうと思いながらも、道路から見えない場所を慎重に選んだ。
ノルドカップから300キロ下ってきたのだが、内陸に入ったせいか、大して寒さは変わらない。はやく暖かいところまで下りたい・・・。
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