旅の日記

スカンジナビア編(2001年8月7〜11日)

2001年8月7〜8日(火〜水) スールストラミンを追え!(In serch of "Surstromming")

 昨日は晴れていたのに、一日置いたらふたたび雨。買ったばかりのカメラが壊れたらシャレにならない。完全防水仕様で出発する。
 60キロほど北に走り、Puttgardenという岬の町からフェリーでデンマークに渡る。所要時間約1時間、余ったドイツマルク硬貨を使って船上で昼食を食べた。

 デンマークも高速道路はタダ。首都のコペンハーゲンを通過し、さらに北50キロのHelsingerへ。ここからまたフェリーに乗って対岸のスウェーデンに行くのだが、今回は所要時間約20分と短い。わずかな幅の海峡を渡るだけなのだ。
 結局、デンマーク滞在時間は3時間ほど。途中給油したり、フェリーのチケットを買ったりしたが、いずれもクレジットカードで支払った。

 スウェーデンに入国、これでスカンジナビア半島に渡ったことになる。これよりノルウェーのフィヨルド、ロホーテン諸島を経てノルドカップを目指すわけだが、その前にスウェーデンですべきことがある。それは、「スールストラミン」という食べ物を手に入れることだ。

 「スールストラミン」とはニシンの缶詰の一種で、それはそれはクサイ食べ物らしい。DR800Sオーナースクラブ「怪鳥同盟」のメンバーにして、北欧に詳しい佐藤氏によると・・・
 「缶の中でニシンが発酵し続けているため、缶の内圧が上がり、開けるときにガスが吹き出ます。堅いパンの上にスライスタマネギとバターなどを乗せて食べます。一緒にギンギンに冷やしたアクアビット(ウオッカ似のスウェーデンの酒)をキュッといくのが、スウェーデン流。味は塩味がきいていて、酒にはよく合います。くれぐれもホテルでは開けないでください。その部屋は1ヶ月間は使用不可能になるくらい臭いです」
 そして、そんなスールストラミンもをゲットして日本に送るよう、あのウメさんから指令が来たのだ!ウメさんは電脳吟遊詩人にして「ティラキタ」の店長、そして「世界ヘンな食べ物と酒」マニアでもあるのだ!

 夕方になり、Goteborg手前のキャンプ場に入る。昨日あたりから風邪気味で具合が悪いが、さっそく近くの大型スーパーに調査にでかける。
 「スールストラミンはありますか?」。若い店員を捕まえて聞いたら、ビックリされた。「スールストラミンを知ってるんっスか!?」
 「日本の友人に送ろうと思って」と言うと、彼は顔を曇らせた。「やめた方がいいっスよ。喜ばれるシロモノじゃありません。・・・マジ、クサイっス」
 ・・・ううむ、逆に期待が脹らむぜ。それでも欲しいというと彼は売り場に案内してくれたが、残念ながら品切れ中。代わりにGoteborgの魚市場の場所を教えてもらった。そこならあるはずだという。

 翌8日、またもや雨。
 昨夜は防寒対策としてバイクカバーを寝袋の上にかけたら、とても温かくて良く眠れた。しかし北欧に入ったばかりでこのザマでは、先が思いやられる。
 カッパを着てキャンプ場を出発、まずはGoteborgの魚市場に寄る。

 市場といっても観光用の小規模なもので、数軒の魚屋があるくらい。1軒の魚屋に聞いて見ると、「スールストラミン?あるよ」というではないか!
 お兄さんの指差す方向を見ると、砕いた氷の上に魚と並んで数個の缶が。意外と大きく、ニシンの切り身が入っているもので300グラム、1匹まるごと入っているものはその倍はありそうだ。

 お兄さんに事情を説明するが、「日本に送る?ちょっと難しいと思うね」との答え。
 なぜかというとこのスールストラミン、缶に入っているものの冷蔵が必要なのだ。缶にも「摂氏4〜6度で保存すべし」と書いてあり、なるほど、だから魚と一緒に氷の上に置いて売っているのか・・・。
 缶が高圧のため、航空輸送は禁止というウワサもあるが、仮に航空便で送ったとしても日本に着くまで約1週間。しかも今、日本は酷暑の真っ只中・・・ウメさんが食する前にダメになってしまうのは目に見えている。
 いろいろ方法を考えたが、やはり断念。ウメさん、ごめんなさい。自分で北欧に来て食べてください。世界一クサイ缶詰のハードルは高いのだ。

 自分用に切り身のを一缶買ってみる。冷たい雨の中をバイクで運ぶのなら、そんなに簡単に悪くはならないだろう。

 Goteborgからひきつづき北に走るが、雨はシトシトと同じペースで降り続け、雲の切れ目はまったく見えない。ノルウェーに入国しても、首都のオスロを通過しても、ずっとずっと雨。まわりは針葉樹林、ところどころに湖があって晴れていたら美しいのだろうが、こんな天気では逆に心細くなる。

 午後7時ごろ、オスロから約150キロ北のキャンプ場に入る。カッパを着ていても、400キロ以上雨の中を走れば全身グッチョリ。まだ雨が降っていたので、今日は併設のログキャビンに泊まることにする。簡易な部屋だが、乾いているだけで心地よい。思えばテントではなく、宿に泊まるのはスペインのセゴビア以来、1ヵ月半ぶり。

 電気が使えるうちにと、夜は日記をまとめ打ち。部屋に臭いがつくのが恐いので、スールストラミンはおあずけ。ビニール袋に入れ、外のバイクに吊るして置いた。夏といえど、夜間はスールストラミンの保存に適した温度近くまで下がる。


2日間の走行距離       993.2キロ(計55014.1キロ)

出費                    48DM  ドイツ〜デンマークのフェリー代
6.55DM  昼食(チキン)
155DK  ガソリン
95DK  デンマーク〜スウェーデンのフェリー代
32SK  食材買物
135SK  キャンプ場
179SK  ガソリン
10SK  コーヒー
59SK  スールストラミン
250NK  ログキャビン
142NK  ガソリン
計     54.55DM(
約2980円
     250DK(
1ドル=約8.5デンマーククローネ、約3530円      411SK(1ドル=約10.4スェーデンクローネ、約4740円
     392NK(1ドル=約9.1ノルウェークローネ、約5170円 宿泊         Krono Camping(7日)
           Lyngstrand Camping(8日)


2001年8月9日(木) 雨のフィヨルド(Fijords in rain)

 期待空しく、9日も雨。またカッパを着て出発する。
 しばらく走り、世界最大のフィヨルド、ソグネフィヨルドにぶつかった。フィヨルドとは早い話が氷河の跡である。氷河期に氷河が削り取ってできた峡谷が海に繋がり、細く入り組んだ湾になったものである。このソグネフィヨルドは長さ240キロ、深さ1300mもあるらしい。
 ここより、ノルウェーでも最大の見所であるフィヨルド地方のはじまりである。氷河が形作った数々のフィヨルドと湖、そして山々からなる世界である。

 無数にあるフィヨルドや湖に、いちいち橋をかけるわけにはいかない。よって車やバイクで回ろうとすると、何回もフェリーに乗る事になる。私にとってはこのソグネフィヨルド越えがその1発目だった。

 フェリー乗り場で、スウェーデンから来たというオフロードバイクのグループと一緒になった。中型車から大型車まで様々なオフロードバイクが10数台並んでいるが、全員かなり激しくオフロードを走るようで、タイヤはブロックパターン、エンジンガードやバークバスターをつけて転倒に備えている。中にはモトクロス用のチェストガードに身を包んでいる人もいた。
 私と全く同じ色のDR800Sに乗った人もいた。かなり大柄のおじさんで、やはりかなりのオフロード仕様にしている。もともと、このバイクはこういう乗り方をするものなんだよなあ・・・。

 対岸に渡ると、小さな氷河が待っていた。そしてその下から、長いトンネルがはじまった。
 フィヨルドとフィヨルドの間は険しい山になっている。ところどころにそれをくぐるトンネルがあるのだが、みんな長い。氷河の下からはじまったトンネルは全長7キロ近くもあった。
 関越トンネルのように煌々と電灯が点いているわけでもないし、片側1車線で大型車とすれ違うときには恐怖を感じる。しかし慣れてくると、トンネル好きの私にとっては楽しい。

 トンネルを抜けると、そこには晴天が・・・若干期待したのだが、向こう側も思いっきり雨。この様子じゃ、今日もテントは無理そうだ。
 しばらく走ったあと、道沿いにあった「部屋あり」の看板の前で止まる。ノルウェーに限らず、ヨーロッパでは民家の一部を解放した民宿が多い。はじめてのぞいて見たのだが、人の良さそうなおじいさんが出迎えてくれ、たいへん快適な小部屋に案内してくれた。キッチンもあって、これで180クローネ(約2400円)は北欧にしては安いでしょう。
 さっそくチェックインし、たいへん快適な夜を過ごした。シトシトと冷たい雨が降る中、人類が発明した「家」というものは、なんとありがたいことか・・・。


本日の走行距離       354.2キロ(計55368.3キロ)

出費                    50NK  フェリー
65NK  有料道路
38NK  食材の買物
180NK  宿代
計     333NK(約4390円 宿泊         Hegdalさんの家


2001年8月10日(金) またもや雨(Rain again)

 10日も雨は上がらず、これで4日連続。デジカメが壊れた日まで遡ると、過去6日のうち5日が雨だったことになる。せっかく昨夜、やさしいおじいさんが濡れた服やクツを乾燥室で乾かしてくれたというのに・・・。

 風邪気味だし、おじいさんの家は住んでしまいたいほど快適だが、後ろ髪を引かれる思いで出発する。
 昨日気付いたのだが、もう週末になるのだ。ノルドカップに上がる前にリアタイヤとオイルを交換しておかないと、北部ノルウェーではバイク屋を探すのも難しいだろう。そして商店は日曜日休業、土曜日は半日営業なので、遅くても明日の昼までに次の大きな都市、Trondheim(トロンドハイム)に到着しないと、丸2日を無駄にする。そこまでまだ数百キロ、またフェリーに乗ったり険しい山を越えなければならないのだ。
 何でそんなに急いでいるかというと・・・9月の頭にスイスで行われるDR‐BIGオーナーズミーティングへの参加をもくろんでいるのだ。

 走り出すと、今まで以上に辛い。標高があがっているので気温がかなり低く、指先と足のつま先が刺すように痛い。雨はあいかわらず景気良く降り、かすんだ稜線は万年雪でふち取られていた。

 峠を越え、Geirangerというフィヨルドに出た。小さなフィヨルドだが、ノルウェーでも随一の美しさを誇るという。幸いここでは雨が止み、展望台から見渡すことができた。
 本来ならこのフィヨルドを下るフェリーに乗りたかったのだが、時間がないのと、天候が優れないのであきらめた。これで青空が広がれば、一層美しさが際立つはずなのだが。

 またフェリーに乗ってフィヨルドを渡り、長いトンネルをいくつもくぐった。地図で見るとトロンドハイムはさほど遠くないように見えるのだが、それまでの道が曲がりくねっているので、思ったより距離がある。
 今日中にタイヤとオイル交換ができれば良かったのだが、到着したときにはすでに午後7時になっていた。おまけに上がっていた雨が再び本降りとなり、今日こそはテントでスールストラミンが食べられるという期待が吹っ飛んだ。

 また道沿いにあった民宿に入る。妙な笑顔のおばさんだなあ、と思っていたら、家には信仰宗教とおぼしき団体のポスターやパンフレットがあった。まあ、勧誘もされないし、昨夜のおじいさんの家ほどじゃないにしろ快適だし、文句は言うまい。
 スールストラミンは・・・そうだ、明日、人気のない道路脇で昼食に食べてみよう!


本日の走行距離       541.6キロ(計55909.9キロ)

出費                   322NK  ガソリン
29NK  フェリー
200NK  宿代
計     551NK(約7260円 宿泊         あるおばさんの家、名前は知らない


2001年8月11日(土) スールストラミンを食す(Eating "Surstromming")

 今朝も雨、これで5日目。ここまで来ると、もう降っているのが当たり前で、カッパを着るのが日課のようだ。
 しかしうんざりしている暇はない。今日は土曜日、トロンドハイムの街で午前中にしなければならないことが多いのだ。

 勢い余って午前9時すぎに街の中心に出たが、インフォメーションセンターも郵便局も開くのは10時からだった。仕方なく小雨の中を散歩するが、ノルウェー第3の都市トロンドハイムは意外と情緒のある街だった。

 10時に開いたばかりのインフォメーションセンターに行き、バイク屋を教えてもらう。お兄さんは電話帳を開いて調べ、ていねいに場所の説明をしてくれた。
 第3の都市というのでバイク屋などゴロゴロあるかと思ったら、そうでもなかった。土曜日ということもあって閉まっているところもあり、わがDRのサイズに合うタイヤを置いてあるのは1軒のみ、しかも思いっきりロードタイヤだった。まあ、しばらくはオフを走る予定もないし、他に選択肢もないから仕方ない。
 同時にオイル交換もしたが、リアタイヤとオイルでほぼ200ドル・・・やっぱり北欧は高い。

 次に郵便局に行き、壊れたデジタルカメラを実家に送った。
 先日買ったコダックのカメラだが、発色の問題というより露出に問題がある。曇りの空の下で撮れば被写体は真っ暗だし、かといって少しでも空が入れば露出オーバーで空は真っ白。画像ソフトで修正するにも限界がある。やはり絶妙の写り具合を誇るSANYOのマルチーズ君を復活させるしかない。
 とりあえず実家に送り、修理を試みる。あるライダーが9月にドイツから一時帰国するので、それまでに直れば彼に持ってきてもらうつもりなのだ。あるライダーとは・・・君のことだよ、ハーレーごり君。というわけでよろしく!青山家とごり君!

 さて、トロンドハイムでの用事も済み、あとはひたすら北上あるのみ。
 街を後にすると雨は止み、ようやく青空がのぞくようになった。しばらく走ったところで道路脇のパーキングに入り、昼食にする。
 そう、今日の昼食とは、いよいよあの「スールストラミン」である。あまりにも臭いというので、安全に食べられるところを探していたのだ。その点、パーキングならいくら臭くてもニオイはこもらないし、人も少ない。

 いざ、大事にしまっておいた缶をサイドケースからとりだす。そしてアーミーナイフの缶切りの刃を立てると、開いた穴からプシュー!とガスが噴き出し、汁が指にかかった。おそるおそるその指を嗅いでみると・・・イヤ〜なニオイがする。人間が生理的に嫌なニオイ、そう、排泄物(平たくいうとウンコね)に似た、マッタリとした粘着質の臭みなのだ。
 缶のフタが柔らかく、アーミーナイフの缶切りで開けるのには苦労した。格闘しているうちに指は汁だらけになり、あたりにニオイがたちこめた。めざといハエが早くも嗅ぎつけ、周囲を旋回しだした。

 ようやく開いたスールストラミン、ニオイとはうらはらに、見た目は意外とフツーのニシンの切り身だった。基本的には塩漬けなのだが、生の切り身が半分発酵していて、あのイヤなニオイを出すのだ。いま一度よく嗅いで見ると、ウンコくささの中に、はっきりと魚の生ぐさみがある。缶詰めにしてナマモノ、塩漬けにして腐りかけ、ビミョーなバランスの上にスールストラミンは成り立っているのだ。

 おもむろに一切れを口に運ぶと・・・しょっぺー!さすがに塩漬け、そのままで食べるものではない。やはりパンやクラッカーと一緒に、カナッペにして食べるものなのだろう。食感はさすがに生、刺身に似た感がないわけでもない。
 一番小さい缶を買ったのだが、それでも300グラム。全部食べたら完全な塩分とり過ぎ、ちょっとの味見には多すぎる。3切れほど食べ、残った分は持って行ける訳もなく、パーキングのゴミ箱に処分した。スールストラミン、いい経験だった・・・だけど、もう食べなくていいや!

 食べ終わったあとでも、使ったテーブルにはニオイが残っていた。私がそこを去ると同時に、一台の乗用車が止まってカップルが降りてきた。きっと、今から昼食なのだろう。知〜らない!きっと、ミョーなニオイに悩まされることだろう・・・。

 ふたたび走り出すが、ノルウェーを縦断する国道6号線は意外にアップダウンが多い。山を登ると、決まって低い雲が立ち込めていて雨が降ってくる。濡れたり乾いたりの連続だが、とにかく寒い。北に上がっているのが体感できる。

 途中、反対方向から走ってきたドイツ人の青年、ヨハネスと出会った。私と同じDR800Sの93年式に乗っている。最近買ったばかりだが、とても満足していて、近い将来アフリカを走る計画らしい。9月頭のDRミーティングの話をしたら興味深々で、ぜひ参加したいと言った。その時の再会を約束して、別れた。

 トロンドハイムから450キロほど北上したあたりで、湖のほとりにいい野宿スポットが見つかった。美しい湖に面した木陰の草地、道路から見られる心配もない。ノルウェーとスウェーデンでは、公共の場所や個人の所有地でなければ自由にキャンプをしても良いと、法律で認められているのだ。今まではずっと雨続きでできなかったけど・・・。
 こんな良い場所を一人占め・・・と思ったら、テントを張ってすぐにバイクの音が聞こえてきた。みると古いカワサキが一台、道路から降りてくる。
 「俺もここに泊まっていいかい?」・・・ みんな考える事は一緒だ。

 ライダーはフランス人のフランシス、44歳で子どもが2人いるらしい。元ヒルトンホテルのヘッドウェイターで、今はその経験を生かしてウェイター養成学校の教官をしている。フランスといえばウェイター文化の本場、学校ではサービスの基本からあらゆる食べ物、飲物の知識まで教えこむという。
 その教官、テントを張った後、コンロを取り出して夕食の準備にとりかかった。どんな夕食かと思いきや、インスタントのトマトスープに米をブチ込んでガツガツ食っていた・・・野宿じゃ、やっぱりこんなものね。

 夜11時ごろまで話をしていたが、冷えこんできたのでお互いのテントに潜って寝た。今日もバイクカバーを被って寝る・・・この方法、我ながらホームラン級のナイスアイデア。とても温かいのだ。


本日の走行距離       448.4キロ(計56358.3キロ)

出費                  1833NK  リアタイヤ、オイル
199NK  カメラ発送料
64.5NK  食材買物
145NK  ガソリン
計     2241.5NK(約29560円 宿泊         ある湖のほとり