昨日は晴れていたのに、一日置いたらふたたび雨。買ったばかりのカメラが壊れたらシャレにならない。完全防水仕様で出発する。
60キロほど北に走り、Puttgardenという岬の町からフェリーでデンマークに渡る。所要時間約1時間、余ったドイツマルク硬貨を使って船上で昼食を食べた。
デンマークも高速道路はタダ。首都のコペンハーゲンを通過し、さらに北50キロのHelsingerへ。ここからまたフェリーに乗って対岸のスウェーデンに行くのだが、今回は所要時間約20分と短い。わずかな幅の海峡を渡るだけなのだ。
結局、デンマーク滞在時間は3時間ほど。途中給油したり、フェリーのチケットを買ったりしたが、いずれもクレジットカードで支払った。
スウェーデンに入国、これでスカンジナビア半島に渡ったことになる。これよりノルウェーのフィヨルド、ロホーテン諸島を経てノルドカップを目指すわけだが、その前にスウェーデンですべきことがある。それは、「スールストラミン」という食べ物を手に入れることだ。
「スールストラミン」とはニシンの缶詰の一種で、それはそれはクサイ食べ物らしい。DR800Sオーナースクラブ「怪鳥同盟」のメンバーにして、北欧に詳しい佐藤氏によると・・・
「缶の中でニシンが発酵し続けているため、缶の内圧が上がり、開けるときにガスが吹き出ます。堅いパンの上にスライスタマネギとバターなどを乗せて食べます。一緒にギンギンに冷やしたアクアビット(ウオッカ似のスウェーデンの酒)をキュッといくのが、スウェーデン流。味は塩味がきいていて、酒にはよく合います。くれぐれもホテルでは開けないでください。その部屋は1ヶ月間は使用不可能になるくらい臭いです」
そして、そんなスールストラミンもをゲットして日本に送るよう、あのウメさんから指令が来たのだ!ウメさんは電脳吟遊詩人にして「ティラキタ」の店長、そして「世界ヘンな食べ物と酒」マニアでもあるのだ!
夕方になり、Goteborg手前のキャンプ場に入る。昨日あたりから風邪気味で具合が悪いが、さっそく近くの大型スーパーに調査にでかける。
「スールストラミンはありますか?」。若い店員を捕まえて聞いたら、ビックリされた。「スールストラミンを知ってるんっスか!?」
「日本の友人に送ろうと思って」と言うと、彼は顔を曇らせた。「やめた方がいいっスよ。喜ばれるシロモノじゃありません。・・・マジ、クサイっス」
・・・ううむ、逆に期待が脹らむぜ。それでも欲しいというと彼は売り場に案内してくれたが、残念ながら品切れ中。代わりにGoteborgの魚市場の場所を教えてもらった。そこならあるはずだという。
翌8日、またもや雨。
昨夜は防寒対策としてバイクカバーを寝袋の上にかけたら、とても温かくて良く眠れた。しかし北欧に入ったばかりでこのザマでは、先が思いやられる。
カッパを着てキャンプ場を出発、まずはGoteborgの魚市場に寄る。
市場といっても観光用の小規模なもので、数軒の魚屋があるくらい。1軒の魚屋に聞いて見ると、「スールストラミン?あるよ」というではないか!
お兄さんの指差す方向を見ると、砕いた氷の上に魚と並んで数個の缶が。意外と大きく、ニシンの切り身が入っているもので300グラム、1匹まるごと入っているものはその倍はありそうだ。
お兄さんに事情を説明するが、「日本に送る?ちょっと難しいと思うね」との答え。
なぜかというとこのスールストラミン、缶に入っているものの冷蔵が必要なのだ。缶にも「摂氏4〜6度で保存すべし」と書いてあり、なるほど、だから魚と一緒に氷の上に置いて売っているのか・・・。
缶が高圧のため、航空輸送は禁止というウワサもあるが、仮に航空便で送ったとしても日本に着くまで約1週間。しかも今、日本は酷暑の真っ只中・・・ウメさんが食する前にダメになってしまうのは目に見えている。
いろいろ方法を考えたが、やはり断念。ウメさん、ごめんなさい。自分で北欧に来て食べてください。世界一クサイ缶詰のハードルは高いのだ。
自分用に切り身のを一缶買ってみる。冷たい雨の中をバイクで運ぶのなら、そんなに簡単に悪くはならないだろう。
Goteborgからひきつづき北に走るが、雨はシトシトと同じペースで降り続け、雲の切れ目はまったく見えない。ノルウェーに入国しても、首都のオスロを通過しても、ずっとずっと雨。まわりは針葉樹林、ところどころに湖があって晴れていたら美しいのだろうが、こんな天気では逆に心細くなる。
午後7時ごろ、オスロから約150キロ北のキャンプ場に入る。カッパを着ていても、400キロ以上雨の中を走れば全身グッチョリ。まだ雨が降っていたので、今日は併設のログキャビンに泊まることにする。簡易な部屋だが、乾いているだけで心地よい。思えばテントではなく、宿に泊まるのはスペインのセゴビア以来、1ヵ月半ぶり。
電気が使えるうちにと、夜は日記をまとめ打ち。部屋に臭いがつくのが恐いので、スールストラミンはおあずけ。ビニール袋に入れ、外のバイクに吊るして置いた。夏といえど、夜間はスールストラミンの保存に適した温度近くまで下がる。
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