旅の日記

ベルギー編(2001年7月26〜28日)

2001年7月26日(木) キャンプ場が見つからない(Trouble finding campground)

 トリアーからルクセンブルグとの国境は10キロちょっと。あっという間に国境に着くが、道路脇の看板が無ければ越境したことに気付かないほど、何にもない国境だった。

 ベルギーとフランス、ドイツに挟まれたルクセンブルグ大公国は神奈川県と同じ大きさほどの小さな国だが、人々の生活レベルは非常に高いらしい。国境から30キロほどで首都のルクセンブルグ市に着くが、丘の上のこじんまりとした首都で、歴史的な建物と近代的なビルが共存していた。
 時間があればゆっくり見たいのだが・・・そのまま通過する。

 次の国ベルギーとの国境も何にもなく、いつのまにか入国していた。ルクセンブルグほど小さい国ではないが、国道を飛ばしたらすぐに首都のブリュッセルに到着した。
 久々の大都市、「地球の歩き方」と「ロンリープラネット」の両方の地図と睨めっこするが、道が全然わかんない。小雨もパラつき、イライラがつのる。市内を1時間ほどグルグル回り、ようやく街の中心となる広場グラン・プラスと、そこにあるインフォメーションセンターを発見する。
 あどけなさが残るお姉ちゃんから市内地図をもらってキャンプ場を教えてもらい、さっそく向かうが・・・教えてもらった通りは思いっきり中心地、こんなところにキャンプ場があるはずが・・・あった、あったよ、教えてもらった番地にインターネットカフェが。わしゃテントを張りたいちゅーに、誰がインターネットしたいと言ったよ・・・。情報まであどけなさを残さないでほしい。
 そこから、また延々と混雑した市内を走ってまで広場に戻りたくはない。見るべきものは多いはずだが、今回は縁が無かったということで・・・ブリュッセルを後にする。

 ブリュッセルの次はルーベンスゆかりの地アントワープ、距離にして40キロほど。ベルギーも高速道路はタダなので、使わない手はない。
 アントワープに着くころには、インフォメーションセンターは閉まっている時間になってしまった。「ロンリープラネット」にキャンプ場は2ヵ所載っているが、見所の集まる旧市街に近い方はシュヘルド川の反対側。キャンプ場はすぐそこなのに、川を渡る橋やトンネルが全然見つからない。
 アントワープもグルグル回った末、川の下を通るトンネルをくぐるためには、いったん高速道路に乗らねばならないことを地元の人から教えてもらった。
 さんざん苦労してキャンプ場に着く。はあ、疲れたぜ・・・と思ったら、なんと「今夜はいっぱいです」との冷たいお返事。若干、発狂しそうになる。

 もう一つのキャンプ場は郊外にあるが、今日のパターンだと簡単に見つかるはずはない。もし見つからなかったら、もうブチ切れて高級ホテルにでも泊まったろうかい!と覚悟したら、あっけなく発見。しかもさっきのキャンプ場の混雑がウソのようにガラガラで、料金はわずか360円・・・。はー、疲れが報われた。
 まだ明るいが、すでに時刻は午後9時。市内に繰り出す気力はなく、そのままキャンプ場で過ごした。


本日の走行距離         413.7キロ(計52573.4キロ)

出費                 35.40DM  ガソリン
  210BF  昼食(ハンバーガー)
  800BF  ガソリン
  135BF  キャンプ場
計       35.40DM(約1930円

       1145BF(1ドル=約45ベルギーフラン、約3050円 宿泊         Camping Vogelzang


2001年7月27日(金) 今度はグンタ&タニアの家だ(House of a Belguim rider)

 苦労して見つけたキャンプ場は、安い上にチェックアウト時間が決まっておらず、午後2時に出ても4時に出ても構わないという。おー太っ腹!それでは、ということで荷物をテントに残したまま、午前中はアントワープの町を観光しに行く。

 ベルギーは北半分のフランダース地方と南半分のワロニア地方に大別され、それぞれ違う言葉を話し、違う文化を持ち、両者間の対立がしばしば見られるという。
 アントワープは北のフランダース地方の文化が花咲いた地で、フランドル美術を代表するルーベンスゆかりの地。大聖堂には彼の大作が収められており、何はさておき、それを見に行く。

  前にも書いたが、はっきり言って私は古い宗教画には興味がない。ルーベンスとかミケランジェロとか言われても興奮しないのだが、この大聖堂は特別。 なんたって、あの「フランダースの犬」の物語で、少年ネロが一目でいいから見たいと思いつづけたルーベンスの絵があるのだ。
 ある冬の夜、ネロは大聖堂の扉が開いているのをみつけて念願の絵と対面する。そしてご存知のとおり、夢が叶えられて力尽き、絵の前で愛犬パトラッシュとともに天に召されるのだ・・・。うおお、今思い出しても目頭が熱くなる。

 そう、アントワープと近郊の村ホーボーケンは、「フランダースの犬」の舞台でもある。私はてっきりオランダの話かと持っていたが、ベルギーだったのね。そういや「フランダース」って、フランダース地方のことだもんね。

 16世紀に200年近い年月を経て完成した大聖堂には3枚のルーベンスの作品があるが、中央の祭壇奥にある「聖母被昇天」がその絵。なるほど神々しい大作だが、残念ながら絵の前の大きな祭壇のおかげで正面から拝むことはかなわなかった。・・・でも、私はこの作品を見て自分が昇天したくはないなあ。

 ネロとパトラッシュの冥福を祈り(どうもあの話はフィクションのようだが)、大聖堂を後にして旧市街を散策する。旧市街はさほど広くなく、30分もあれば一周できるほど。最後に市庁舎前の広場のカフェで昼食を食べてから、アントワープ近郊に住むグンタとタニアの家に行ってみる。

 グンタはスロベニアで出会ったベルギー人のライダー。タニアはその彼女で、ドイツ人だ。
 待ち合わせ場所の高速の出口に行くと、なぜかスキンヘッドになったグンタが愛車KTMに乗って迎えに来ていた。再会を喜んだあと、さっそくグンタは先行して家まで連れて行ってくれたが、スーパーバイカーズ仕様のKTMでウィーリーしながら飛ばしていくので、ついていくのに若干苦労した。

 グンタとタニアの家は半年前に完成したばかりで、まだピッカピカ。おじゃまするのが悪いくらいだ。グンタは大型特殊車の運転手だが、かつてはベルギー軍の空挺部隊の兵士だった。国連軍に派遣され、ユーゴスラビアに行っていたこともあるという。今は夏休み中だが、月曜日からふたたび仕事。仕事はきついそうだが、その稼ぎのおかげで新築の家も購入でき、好きなバイクを乗り継ぐこともできる。

 夕食のあと、グンタの弟夫婦と友達の夫婦がやってきて家は賑やかになった。みんな英語が話せるので、会話に苦労はない。ちなみに集合写真の右から2番目と3番目がグンタとタニア、猛犬を連れて真ん中に堂々と立っているのは、グンタの弟だ・・・。(最初はお兄さんかと思った)

 夜遅くまでみんなでワインを飲み、盛り上がった。明日はオランダのオノの家に移動する予定だったが、この近くで祭りがあるというし、グンタが「フランダースの犬」の舞台のホーボーケンの村に連れて行ってくれるという。予定変更、延泊決定。ノールカップは遠し・・・。


本日の走行距離          46.6キロ(計52620キロ)

出費                    80BF  大聖堂入場料
  100BF  ビール
  360BF  昼食(ラザニア)
  30BF  公衆電話
計       570BF(約1520円
宿泊         グンタとタニアの家
インターネット    グンタとタニアの家


2001年7月28日(土) ベルギー人は2輪レースがお好き(Belgians love 2wheel sports)

 休暇中のグンタとタニアは朝起きるのが遅いので、早起きが習慣になっている私は朝のうちに最近の日記をまとめて打った。

 午前11時ごろに遅い朝食をいただき、グンタと一緒に「フランダースの犬」の舞台となった村ホーボーケンに行ってみる。村はアントワープのすぐ近くだが、別になにがあるわけでもなく、インフォメーションセンターの前にネロとパトラッシュの像があるくらい。肝心のインフォメーションセンターが土曜日で閉まっていたのが痛いが、日本人が多く訪れるらしく、日本語の張り紙やパンフレットがあるのが窓から見えた。

 ホーボーケンを早々に立ち去り、次は週末で賑わうアントワープの中心街をグンタと散策した。港町のアントワープはダイヤモンドの取り引きも多いらしく、中央駅周辺は宝石店がズラリと並んでいた。
 カフェでビールを飲みながらグンタと話をしていたら、とんでもないことが発覚。グンタとタニアは結婚していないが、グンタはバツイチだという。21歳で結婚し、29で別れたそうだ・・・。おいおい、またかい!いよいよ「世界一周・離婚の旅」の様相を呈してきたぞ。さあ、次は誰がバツイチだ!?

 帰りにグンタが面白いところに連れて行ってくれた。アントワープ郊外の倉庫街の外れで、だだっ広い空き地の中に真新しいアスファルトが敷かれた道がある。ここは地元の走り屋のたまり場なのだそうだ。

 路肩にバイクを停めてしばらくすると、ものすごい勢いでバイクが3台、「飛んできた」。いずれも1000ccクラスの大型バイクで、ライダーは皮ツナギに身を包んでいる。
 まばたきしている間に3台は通りすぎ、ちょっと先のラウンドアバウトの前でフルブレーキング。そこをハングオンしながら一周し、あっという間に目の前に帰ってくる。そして再び通りすぎると、向こうのラウンドアバウト目指してフル加速。集合管の野太い音が響き渡る。
 3台は何周も二つのラウンドアバウトの間を行き来し、やがて休憩のために路肩に来たが、そこでも停まる前にウィリーしたりジャックナイフをしたり・・・。まるでリッターバイクがおもちゃのようだ。
 走りは日本の峠を攻めている連中よりはるかに過激だが、みんないい年、20代半ばとか30代とかである。グンタもかつてヤマハのR1などを所有し、ドイツのアウトバーンを時速280キロで走っていたそうだ。しかし、今は「遅い速度でも楽しめる」KTMで満足している。

 帰りにそのKTMに乗らせてもらったが、マフラーとキャブを交換し、70馬力も出るというエンジンはレスポンスがビンビンに良くてムチャクチャ面白い。そしてCBR900RRから持ってきたというブレーキは指一本でカックン!の効き具合。こりゃたまらん!一台欲しいなあ。日本でこそ、楽しめそうなバイクだ。

 今日は近くの村で祭りと自転車レースが行われるというので、バイクを家に置いた後、タニアも一緒に3人で行って見る。

 オランダと同様に平地の多いベルギーでは、スポーツとしての自転車がたいへん盛ん。今日もプロのレーサーとかではなく、地元のお兄さんやおじさんがカラフルなウェアにさっそうと身を包み、楽しみながら走るサンデーレースなのだ。
 スタート/ゴール地点は村の広場で、並べられたテーブルでは村人がビールを飲みながら家族や友人のレースを観戦している。グンタの弟やお父さんもいて、超ローカルなイベントだ。しかし観光地では見られない人々のフツーの顔を見るというのも、その国を理解するのに不可欠だ。
 青空のもと、ビールを飲みながら「いい物を見せてもらったなあ」と、しみじみ思う私なのであった。


本日の走行距離          73.9キロ(計52693.9キロ)

出費                   100BF  ビール
計       100BF(約260円
宿泊         グンタとタニアの家
インターネット    グンタとタニアの家