旅の日記

スイス編(2001年7月17〜20日)

2001年7月17日(火) 最高の峠(The best scenic road)

 昨日無理に越境しなくて大正解。朝になったら体調は回復し、空は真っ青。さあ!アルプスを越えるぞ。

 キャンプ場からP.de Tresaという町の国境まで、あっという間に着いた。イタリア側にあるACI(イタリア自動車クラブ)の事務所に立ち寄り、45日間有効のグリーンカード(欧州共通自動車保険)を購入する。スペインより高いが、仕方がない。これであと1ヵ月は保険のことを心配しなくて済む。(と、この時は思ったのだ)

 スイス側に入って、まず給油。スイスの物価は高いが、ガソリンだけはイタリアやフランスより安い。といってもリッター90円弱だから、日本と同じくらいだが。
 ガイドブック「ロンリープラネット」によると、スイスの高速道路を利用するには40フラン(約2800円)の一年間有効のステッカーを購入し、車両に貼らねばならないという。アルプスを抜けるトンネルなどでは、さらに追加で料金が徴収されるそうだ。
 2、3日しかいないのに、そんな料金を払えるわけがない。当然のごとく一般道を北に向かう。

 国境から走り出すと、すぐに登り道になった。左右には田園風景が広がり、いたる所で山の斜面から雪解け水が滝となって落ちている。
 やがて道は険しくなり、急なカーブが続くようになった。グングン標高があがり、迫る山々には白い雪が見られるようになった。
 カーブを抜けるごとにアルプスはその表情を変え、走る者を飽きさせない。いちいち絵になるので写真を撮らずにはいられなく、止まってばかりいて先に進めないのだ。しかし道路のすぐ脇は断崖絶壁なので、脇見運転には注意が必要だ。ガードレールすら無い個所もある。

 そして標高2200mほどのSusten峠に到着。
 トンネルの西側に抜けると、さらに景色がパワーアップ。「筆舌に尽くしがたい」どころか、「筆舌にその美の百分の一も表現しがたい」だ。 もう、シャレにならないのである。詳しい地図やガイドブックが無いので、どれが何という峰で何という湖だか知らないが、人間が勝手につけた名前なんか、もうどうでもいい。

 過去600日、5万キロの道のりで、文句無しにここが一番美しい道、美しい峠だ。徒歩やツアーでなら同じくらい美しい景色はあった。しかしバイクで走った道となると、ここが過去ナンバーワンである。今日ほど自分がライダーで良かったと思った日があっただろうか?
 「アンデスやパタゴニアも走ったのに、それで一番がスイスなんて、ちょっと一般的すぎない?」 とお思いかもしれないが、だってそうなんだもん。めちゃくちゃキレーなんだもん。

 しかし、この景色の美しさは天気によるところが大きい。ピーカン照りでも10度ちょっとの気温なので、これで天気が悪かったら景色が見えない上に夏でも雪が降るだろう。あー、つくづく昨日無理して来なくて良かった・・・。

 午後4時ごろ、二つの湖に挟まれた都市インターラーケンに到着。この名前を知っていたり、聞いた事がある人も多いだろう。アルプス観光の基地となるこの町には、毎年多くの日本人がやってくる。さらに山寄りの村グリンデルワルドには、日本人のための観光案内所とインターネットカフェまであるという。
 町を走ってみると、なるほど日本人が多いが、中国人や韓国人も同じくらい多い。若い人たちはみんな「今風」の格好をしているので、パッと見ただけではなかなか見分けがつかないが。

 キャンプ場にチェックインして、食事に出たらスイスの物価高を体感した。
 まあ、物価というのは国よって違いがあるのでしょうがないが、頭に来るのは、その上にセコイところがあるのだ。例えばマクドナルドのセットが約780円もするのに、ケチャップをくれと言ったら「追加で0.2フランいただきます」・・・。わずか15円くらいだけど、それならタダでくれよ。元が高いんだから・・・。
 キャンプ場も元の料金が約1700円もするのに、シャワー、そして流しの水道(!!)まで別料金。コインの投入枚数によって使える時間が決まるのだが、例えばシャワーは40円で3.5分・・・セコくて涙が出る。洗濯機や乾燥機、キッチンやコンロもあるが、これらも当然のごとくコイン式。
 ここが世界でも有数の観光地だからかもしれないのだが、そんな細かい料金を設定するくらいなら元の金額に含めろって!いちいち面倒くさいでしょ!

 まあ、最高の景色を拝ましてもらったので、この寛大なカズヒロ様は大目に見てやろう・・・。


本日の走行距離         298.3キロ(計50575.6キロ)

出費                  17500L  イタリア側のキャンプ場
   170000L  グリーンカード
   28F  ガソリン
   10.9F  夕食(マクドナルド)
   4.65F  パン、りんご
   1F  シャワー・・・
計       187500L(約11080円
       44.55F(1ドル=約1.7スイスフラン、約3140円
宿泊         Camping Lazy Rancho


2001年7月18日(水) 雨のち晴れ(A rainy kind of day)

 キャンプ場のフロントには向こう数日間の天気予報が貼り出されているのだが、昨日見た通り、今日は朝から雨。厚い雲はキャンプ場から見えるはずの峰々を覆い、雨足はテントをポタポタ叩いてみじめな気分にさせる。
 無理に出発しても何の得も無いので、今日はこのままインターラーケンに滞在することにした。

 ヒマなのでテントの中でバイクの書類を何気なく見ていたら、とんでも無いことに気づいた。先日、イタリアとスイスの国境で買ったグリーンカードが、東欧諸国は保証対象外となっているのだ。
 今まで知らなかったのだが、グリーンカードには欧州の国々の頭文字が並んでおり、有効でない国にはバツがついている。スペインで買ったグリーンカードはほぼ全ての国をカバーしていたのに、イタリアで買った方はいわゆる西側諸国のみ有効で、それ以外の国々にはことごとくバツがついている。ポーランドもバルト3国も、スロベニアでさえも・・・。
 おいおい!ようやく延長できたと思ったのに、これじゃ北欧までしか行けないじゃん!・・・しかし、今更きづいてもイタリアとの国境は遠し、後の祭り、アフター・ザ・フェスティバル、デスプエス・デラ・フィエスタなのだ。またどこかで買いなおさなければ・・・トホホ。
 それにしても、グリーカードは国によって有効期間や金額が違うのは知っていたが、保証対象となる国まで違うとは・・・。俺はどうもグリーンカードで苦労する運命にあるらしい。

 昼頃になって雨が上がったので、スーパーに買いものに行ってみる。すると、ここでもスイスの物価高を見せつけられた。たまごが4個で約200円って・・・おいおい。かんべんしてくれよ。
 必要最低限なものだけを買って帰る途中、また雨が降ってきて、さらにみじめな気分になった。

 しかし夕方になって青空が見えるようになった。財布の中にまだ小額のイタリア紙幣があったので、それを両替にまた町へ行って見る。
 すでに午後6時近かったが、雲から顔を出した夕陽が山々を染めて美しい。こりゃ、いっちょグリンデルワルドでも行って見るかいと、両替に行った足でそのまま山に向かう。こんな時、自分のバイクがあって良かったと思う。バスや高山列車ではこうは行かないだろう。

 グリンデルワルドはアルプスに抱かれた村。インターラーケンからさらに20キロほど登ったところにあり、ハイキングやスキーのメッカとなるここにもホテルが建ち並ぶ。特に日本人に人気がある場所で、日本人用の観光案内所まであるという。なるほど、村を走ってみると日本人の割合はインターラーケンよりも高い。

 ここにもキャンプ場はあり、よりアルプスの山々の雰囲気を楽しめるのだが、インターラーケンに泊まる事にしたのは他でもない。ここは標高が高く、寒がり+軟弱な私ではテント泊はつらいだろう。現に、ここより数百mも低いインターラーケンでも、夜、寒さで目が覚めるときがあるのだ。

 村を通りぬけ、バイクで行ける最後の駐車場まで行って見る。峰はまだ雲に覆われていたが、アルプスの絶壁が目の前に迫り、雄大さを肌で感じることができた。両替のついでに来たにしては十分すぎるミニ・ツーリングだった。
 インターラーケンに戻るころには峰を覆っていた雲も風で流され、アイガーやユングフラウヨッホの山頂がくっきり見えた。これで明日、走り出す事ができるぞ。
 21日にニュルンベルグで人と会う約束がなければ、本当はゆっくりしたいところなんだけど・・・。


本日の走行距離          57.9キロ(計50633.5キロ)

出費                   11.7F  食材の買物
   1F  シャワー
   2F  乾燥機
計       14.7F(約1040円
宿泊         Camping Lazy Rancho


2001年7月19日(木) トニーに拾われる(Meeting a Swiss rider)

 朝起きたら、空はふたたび雲で覆われていた。ありゃ?まあ、雨こそ降っていないからいいけど。
 インターラーケンを後にして北東を目指す。リヒテンシュタインという山の中の小国に立ち寄りたかったのだが、ヨーロッパ全土の地図しかない私は道に迷い、通る必要のないチューリッヒまで行ってしまった。なんとか戻る道を見つけたが、その方向は雲い雲に覆われ、ちょっと走ってみたら小雨が降ってきた。雨に濡れてまで行きたいとは思わない。リヒテンシュタインをあきらめ、引き返してドイツに入ることにした。

 スイスとドイツの間には東西に長いBodensee湖があり、渡し船もあるのだが、陸路で東側から迂回しようとするとオーストリア領内を数キロ走らなければならない。「ロンリープラネット」によると、オーストリアも高速道路を利用するには高額なステッカーを買わなければならないそうだ。
 下の道を使ってドイツに抜けるには・・・と、路肩で地図とにらめっこしていると、一台の大型バイクがそばに止まった。スズキGSX1100、さっき抜かして行ったバイクがわざわざ引き返してきたのだ。

 ライダーの名前はトニーといった。ていねいに道を教えてくれたが、今夜泊まる場所が決まってないなら家に来いという。・・・ううむ、新たな出会いの臭いがプンプンする。すでに夕方だし、今から距離を稼いでもたかが知れている。ずうずうしくも、そのまま湖のそばの彼の家に転がり込む。

 トニーは56歳、小奇麗なマンションに一人暮らし。自分もよく旅をし、人のお世話になったり、逆に人を家に泊めることもよくあるので気を使わなくていいという。うむ、旅人の家にお世話になるのが一番居心地のよいパターンだ。お互い、人の家に泊まるということが節約になる反面、気を使うということを知っているから。

 トニーは土曜日からスロベニアにツーリング行くそうだ。これから知り合いのメカニックに事前整備のためにバイクを預けるので、その足で近くの景色のいいところへ行って見ようという。彼は近くに住む娘を呼び出し、彼はバイクで、私は彼女の車で向かうこととなった。
 トニーの娘、ガブリエラ・・・おお、かわいいじゃん。しかし、「この車、ボーイフレンドから借りてるの」・・・おいおい、淡い夢を0.5秒で崩すなよ。
 はて、トニーに娘!?聞いて見ると、やはり彼も離婚経験者!!笑いが止まらん!俺の会う人、ことごとくバツイチだ。類は友を呼びすぎてもう大騒ぎ、大パーティさ。

 フォルクスワーゲン「ポロ」の娘がついてきているというのに、トニーは構わず峠道をリッターバイクで飛ばす。ガブリエラも鼻歌を歌いながらエンジンがガンガン回して食らいつく。急な登り坂の頂上に来たら、彼女は「ジャンピング・スポットよ♪」とアクセルをさらに踏みしめた。・・・やめなさいって、向こうが見えないのに恐いでしょ。
 暴走父娘はアッという間に知り合いの家につき、バイクを預けて近くの丘の上に。そこからはドイツとスイス、そしてオーストリアの山々が見渡せ、眼下にはライン川が作った谷が広がっていた。なるほど、景色がいいところである。
 こんな峠を毎日走っていたら、そりゃ運転がうまくなるわな・・・。

 トニーのマンションの居心地がいいので、明日も滞在を決める。彼の家からインターネットもできるし、21日に会う予定のドイツ人にも電話を入れた。本当は白鳥城で有名な南ドイツのフュッセンを訪れるつもりだったが、もうどうでもいい。やっぱり旅は出会いでしょ。


本日の走行距離         304.8キロ(計50938.3キロ)

出費                   52.6F  食材の買物
   31.5F  シャワー
   4.9F  乾燥機
計       89F(約6280円
宿泊         トニーの家
インターネット    トニーの家


2001年7月20日(金) 前タイヤとオイルを交換(Changing F-tire&oil)

 トニーは金属加工会社の研究職にあるが、午前5時から働き始めて昼頃に終わるという謎のシフトで働いている。よって、私が起きたときにはすでにいなかった。
 昨夜のうちに近所のツーリングスポットを教えてもらったのだが、残念ながら今日も天候は優れず。午前中は日記を打って過ごした。

 午後になってトニーが戻ってきたので、フロントホイールを外し、彼の知り合いのバイク屋に車で連れて行ってもらった。チリのサンチャゴで交換して以来、約19000キロ使用したフロントタイヤがそろそろ限界なのだ。次のドイツの方が安いのは承知だが、今日は他にする事もなし。今後も忙しい日々が続く予定なので、換えられるうちに換えようと思ったのだ。
 今回は店で一番安く、また長持ちもするというので英国製のAVON GRIPSTERを試して見ることにした。140スイスフランは約82ドル、そう高くもなかった。

 そして、同じバイク屋で中古のKTM-L4を見る。640ccのオーストリア製のオフロードバイクだが、スロベニアで会ったベルギー人、グンタが乗っていたのと同じようにスーパーバイカーズ仕様に改造してある。わずか7000キロ使用で3800ドル・・・安い。トニーによるとKTMの中古は少ないが、相場はこの程度だという。おいおい、一台買って日本に帰ろうかな。あ、海外の改造車を日本に持ち込んで車検取るのって、やっぱり面倒なのだろうか?

 夕方になって昨日預けたトニーのバイクを取りに行き、そしてそのメカニックの所でエンジンオイルを交換した。しかし、スイスを出る予定でトニーと出会ったままの私は、小銭しか持っていないことに気付いた。(タイヤはクレジットカードで支払った)
 トニーに借りようとすると、「そんなことは分かってるよ。なに、このメカニックと俺の仲さ。オイル代は俺の整備代にのっけさせるけど、きっとサービスしてくれるよ」 と高笑いした。・・・いいオヤジと出会ってしまったなあ、と、つくづく思った。そういえば昨晩、彼は言ってたっけ。「助けられる方が、好きなだけ助ければいいのさ。助けたり助けられたり、それが人生だろ」・・・。
 うむむ、それにしても助けられっぱなしだ。トニーが日本にでも来れば力になれるのだが、彼は「人が多いので日本には絶対に行きたくない」という。こりゃ、他に何かお礼を考えなきゃだわ。


本日の走行距離          33.1キロ(計50971.4キロ)

出費                    140F  前タイヤ
計       140F(約9880円
宿泊         トニーの家
インターネット    トニーの家