旅を続けていると人のお世話になることが多いが、今日は久々に人助けをした。

　ベネチアを出発してスイスを目指したが、一般道はどこもかしこも車が多くて遅々として進まない。イタリアの高速料金は思ったよりも高くないので、思いきってベネチアの郊外からミラノ行きのA4号線に乗った。

　200キロほど飛ばし、ミラノの手前30キロほどで降りてアルプス方面へ向かおうとしたら、料金所脇に一台のバイクが止まっている。 話しかけるつもりは無かったが、高速券と料金の準備をしようとその後ろにバイクを止めた。すると、そのバイクは私と全く同じDR800S、シートが取り外されて車積工具が散らばっている。何やらトラブルのようだ。
　傍らで本を読んでいるお姉ちゃんに「どしたの？」と聞くと、高速の入口でオイルに乗ってコケ、クラッチレバーを折ってしまったらしい。夫が町に新しいレバーを探しに行ったが、もう2時間も戻らないという。

　話しているうちに旦那さん登場。やはり新しいレバーは見つからなかったようだ。彼らは南アフリカ共和国からの旅行者で、ドイツの友達にバイクを借りて出発したばかり。
　しかし彼らは相当に運がいい。なぜなら私がそのクラッチレバーを持っているからだ！
　スペアとして日本から持ってきたが、もともと私はコケても地面に当たらないようにレバーは短くカットしている。おかげで使う機会が無かったのだが、それが今、活用される時が来た。

　「俺、持ってるよ」と手品のようにレバーを取り出すと、2人は目を丸くして驚き、そして感謝感激の雨あられ。ここまで喜ばれるとこっちも嬉しい。そりゃそうだろうなあ、逆の立場だったら俺も嬉しいもん。壊れた部品を持っている人が話しかけてくるなんて、すごい確立だよ。
　数百円の部品なので、わざわざリラに換算するのもわずらわしい。タダであげたら、南アに来たらぜひ遊びに来てくれと住所と電話番号をくれた。おっ・・・南アか、本当にいっちゃおうかなあ。数百円の部品で泊めてもらえたら、こっちもラッキーだ。

　2人に別れを告げてアルプスを目指す。予定より早く来られたので一気にスイスに越境しようと思ったが、国境付近の道が意外に複雑で時間がかかった。雲行きも怪しいのでアルプス越えは明日に持ち越し、Maggio湖という湖のそばのキャンプ場に入る。
　高速を降りたあたりから標高があがり、空も雲って肌寒くなった。風邪でもひいたのか、頭が痛くてテントを張ったら動く気がしなくなった。今夜は持っている材料だけで夕食をつくり、ゆっくり寝るとしよう。