あいかわらず続くオノのおしゃべりを聞きながら朝食を食べ、ブレッド湖に向けて二人で出発。
ブレッド湖は周囲6キロほどの小さな湖だが、山々からの雪解け水を豊かに湛え、「アルプスの瞳」と形容されるほど美しいという。スロベニアきっての景勝地であり、旧ユーゴを支配したチトー将軍もいたく気に入って湖畔に別荘を構えた。ちなみにその別荘は今では高級ホテルとなり、昭和天皇も泊まったことがあるとか。
湖までは約50キロだが、詳しい地図を持つオノが先行して山をぬう田舎道を走った。昨日の雲はすべて流れ、青空のもと緑の山々や咲き乱れる花が眩しい。最高のツーリング日和だ。
正午ごろ到着。まずはカフェで一休みしてから、高さ100mの断崖に立つブレッド城に登ってみる。城というよりは屋敷だが、ここからは眼下のブレッド湖が一望できる。
確かに水は澄んでおり、湖面は鏡のように穏やかだ。湖の南側には小さな島があり、そこに立つ教会の尖塔がはっきりと見えた。湖畔にはホテルが並ぶが、そんなに人も多くなくて静かである。対岸にはスキー場もあり、冬はウインタースポーツで客を呼ぶらしい。
「地球の歩き方」には歩いて登るしかないと書いてあったのに、城の正面に回ったら車道が来ていた。信じてふもとから歩いたら、たいへん疲れてしまった・・・。
昼食にピザを食べたあと、湖からさらに20キロほど奥の滝を見に行った。道中、オノがぜひ乗ってみろというので彼のモトグッチと私のDRを交換した。
彼のモトグッチは1000ccL型2気筒の横置き。つまり、前からみると左右にシリンダーヘッドが突き出している格好になる。DRよりはコンパクトで重心も低く、乗るのに恐怖は無いが、実はリッターバイクに乗るのはこれが初めて。初リッターバイクがモトグッチなんて、なんて贅沢なんでしょう。
さて、走り出して見るとドロロン、ドロロンというLツインの鼓動がたまらない。トルキーな加速感がとってもいいのだ。
しかし問題点が二つ。調整しなかったからクラッチがとてつもなく遠く、指がほとんど届かない。そしてブレーキの効きがあの牛次郎並みだ。最近の日本車ばかり乗っている身には、このストッピングパワー不足は恐ろしい。
しばらく走って交換しなおしたが、「指を2本鼻に入れたままでも走れる」とオノが形容したほど、わがDRは走りやすかった。やっぱり日本車は簡単だ〜。
滝ではベルギーから来たグンタとタニアというカップルに出会った。
彼らは車でKTMを引っ張ってきて、ここらの山を走って楽しんでいるという。KTMはオーストリアのオフロードバイクの名門だが、グンタはこの640ccのバイクを完全にオンロード用にモデファイ。フロントフォーク、ブレーキをホンダCBR900RRのものに換え、前後ともワイドなホイールに「2000キロしかもたない」という高グリップのレインタイヤ(!)を履かせている。排気系も当然いじり、68馬力も出るというのだ。もとが重量140キロしかない軽いバイクだから、ワインディングは無敵だろうなあ・・・。
4人でビールを飲みながら、バイク談議に花を咲かせた。オノのオランダの家に遊びに行くのは当然だが、グンタとタニアもベルギーに来たら泊まりにこいと行ってくれた。バイクに乗っていると、どんどん友達が増えていくので嬉しい。
帰りにもう1回ブレッド湖を通ったら、島の教会やブレッド城が夕陽に映えてとてもきれいだった。ヨーロッパ中を走っているオノでも、ここほどきれいな所はなかなか無いと言う。
・・・スロベニア、来て良かったなあ。この一瞬のためにだけきても、十分にその価値はある。忘れられない風景が、また一つ増えた。
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