朝起きたら、空は鉛色だった。あの低気圧がもうイタリア半島を横断して追い付いてきたのだ。
雨が降る前に急いで出発するが、ベネチア(ベニス)までの約200キロの間に数回降られ、うち1回は土砂降りでさすがに陸橋の下で雨宿りした。
雨はさておき、長靴の東の付根に位置するベネチアまでの海沿いの国道は走りやすく、午後2時には到着した。
さて、「世界一美しい都」といわれるベネチアは「水の都」でもあり、アドリア海がつくった潟に浮かぶ100以上の小島からなる。本土とは長さ約4キロの橋で結ばれているが、車が入れるのはほんの入口まで。ベネチアのほとんどの部分は歩行者しか入れない狭い路地や運河、そしてそれにかかる橋で構成されているのだ。
そんなところにキャンプ場はあるわけがなく、またシーズン中の今、宿を探すのも至難の技だろう。本土側にはキャンプ場が点在するので、道路標識に従ってそのうちの一つに入る。
Fusinaというベネチア行きのボート乗り場の近くのキャンプ場は施設が整っていて、もちろん電気も使える。シーズン中だが、敷地が広いのでそんなに混雑した感じはない。テントサイトは潟に面していて、対岸にはベネチアの全貌が臨める。インターネットまであるが、料金はピサの約3倍という高さだった。まあ、それを除けばいいキャンプ場でしょう。
さっそくコンセントの近くにテントを張る。
イタリアではいろんな形状のプラグが出まわっていて混乱を招いているようだが、キャンプ場にあるのは大型キャンピングカーのアース付きケーブルをガッチリはめる三つ穴方式。普通の家のコンセントとは違うのだ。
ピサのキャンプ場でアダプターが売っていたが、10ドル以上もするのでやめた。かわりに「サスコム」という日本から持ってきた世界対応プラグアダプターを使ってみると、キャンプ場によってはガムテープで固定しなければならないが、ちゃんと機能してくれる。おかげでベネチアでも電気には困らない。
昼食を食べてゆっくりしたら、ベネチアに繰り出すのには中途半端な時間になった。
観光は明日にして、フロントで教えてもらった近くのショッピングセンターを探してみるが、結局みつからずに橋を渡ってベネチアまで行ってしまった。
しかしさすがに交通制限が厳しく、バイクといえどもそこらへんに路上駐車という訳にはいかないらしい。今から有料駐車場に入れるのももったいないので、本土にとって返す。
本土側の街はメストレという工業都市で、ベネチアよりもはるかに人口が多い。というよりベネチアはほとんど観光用の都市で、もはや生活を営む場所としては機能していない。
しかしこの「世界一美しい都」の対岸の都市は、今までのヨーロッパの中で一番醜い街だった。古い工場やビルが建ち並び、そこら中が落書きだらけ。雰囲気のガラが悪いのだ。
「地球の歩き方」にはベネチアは治安が良く、それはかつてのベネチア共和国の子孫たちだからなせるワザかもしれない・・・と書いてあるが、何のことはない。観光業に従事する一部の人を除き、ガラの悪い人も不良少年たちも、住民のほとんどは対岸に生活の場を移したのだ。
ようやくショッピングセンターをみつけ、スーパーで買物をして帰った。昨日もそうだったが、今日も閉店時間ギリギリになってしまった。イタリアの商店は夜、意外と早く閉める。スペインの感覚のままでいると買いそびれてしまうので、注意が必要だ。
|