アラブパンとビタミン剤の朝食を食べて、ワルザザートの町を後にする。次の目的地マラケシュまでは約200キロの道のりだが、途中で幹線を右に外れて「アイト・ベン・ハッドゥ」に寄ってみる。
アイト・ベン・ハッドゥは世界遺産にも登録されている古いクサル(要塞化された村)。川に面した丘の斜面に日干しレンガの城壁や塔が並んでおり、それぞれに当時の美しい模様が残っている。まるで時の流れに取り残されたこの村では、「アラビアのロレンス」をはじめとする数多くの映画のロケが行われた。
ただしこの村は廃墟でも遺跡でもなく、現在でもベルベル人家族数組の生活の場。城壁から内部を見ると彼らの生活ぶりが良く分かるが、人の家を覗くというのはあまり気持ちのいいものではない。
ガイドをさせろとうるさい輩も集まってきたので、ゆっくりもせずに立ち去る。
さて、マラケシュまでは再びアトラス山脈を越えることになるのだが、このルートは「地球の歩き方」によるとかなり景色が良いらしい。期待して走るが、残念ながらメクネス〜エルフード間の方が格段に美しい気がした。途中、花が咲いてきれいなところもあったのだが、バイクを停めて写真を撮るやいなや、子供たちが集まって「何かくれ」攻撃が始まった。はあ〜。
そんなこんなで、午後4時ごろマラケシュに到着。フェズに次いでモロッコで2番目に古い都、そしてそれと並ぶ観光都市である。
マラケシュのメディナは他の都市のほど細々しているわけではなく、車の通る大通りや大きな広場があったりする。ワルザザートで会った女の子たちに教えてもらった宿を探すが、歩行者天国の奥なので断念。かわりに「地球の歩き方」に載っていた「安宿でも一番の清潔度。女性におすすめ」という宿に行って見ると、意外にも部屋があった。「地球〜」によると、メディナ内の人気宿はすぐに満室になるとあるのだが。
ただし、宿にバイクは置けない。メディナの一大中心地、フナ広場が近くなので、そこにある青空駐車場にバイクは預かってもらうことにした。
そしてシャワーを浴び、しばし休憩。シャワー、トイレは共同だが、部屋は美しいタイルと彫刻で装飾されており中庭もきれい。外の喧騒を忘れてくつろげる清潔でいい宿だなあ・・・と、その時は思った。
夕方からフナ広場に出てみる。かつての公開処刑場、「死者の広場」と呼ばれるここは、今では夜な夜な大道芸人と屋台が集まってお祭り騒ぎが繰り広げられる、マケケシュの目玉となっている。
ヘビ使い、猿回し、曲芸師、民族楽団・・・さまざまな芸人のまわりに人の輪ができ、その間を鮮やかな衣装に身を包んだ水売りが行き来している。みんないい被写体になるのだが、カメラを向ければチップを要求されるのは言うまでもない。
屋台の並ぶエリアにいくと、これもまたすごい活気。店には番号がふってあり、オレンジジュースのスタンドだけでも数十、その他、一般の飲食店が百数十ある。一杯約30円のオレンジジュースを飲むが、予想以上に冷たくておいしい。もちろん搾りたての100パーセントである。すっかりハマり、この夜だけで3杯飲んだ。
タジン、クスクスといったモロッコの代表的な料理から、羊の脳みそ、魚のフライ、貝、イカ、ケバブ・・・あまりに多くの種類の屋台があり、夕食に何を食べるかさんざん悩んだが、地元の人で賑わうソーセージ屋に入ったら美味かった。腹いっぱい食べて約130円、夕食万歳!(結城先生風に←古い?)
そして屋台村の喧騒のなか、一人の若い日本人旅行者と出会った。これからメルズーカの砂丘を目指すというので、フナ広場を見下ろせるカフェに入ってしばらく話をする。すると同じ横浜出身、同じ大学の後輩で、しかも来年から同じマスコミ業界(彼はTV局だが)に就職するという。・・・はあ、なんだか眩しいなあ。前途有望な就職内定学生に一杯60円のジュースをおごり、かろうじて先輩としての威厳を保つもうすぐ三十路、住所不定無職バツイチの茶髪男であった・・・。
フナ広場のどんちゃん騒ぎは毎晩深夜2時ごろまで続くというが、私は疲れていたので早めに宿に帰って寝る。さあ、きれいなシーツで幸せ、幸せ・・・本来なら、今日の日記はここで終わるはずなのである。
しかし!!午前4時ごろ、右太モモに妙なモノが触れる感触で目が覚めた。はあ?何ですかい?と思って電気を付けると、本当に「うわあ」と声を出して驚いてしまった。巨大なゴキブリ君が、「あ?起こしちゃいました?」って感じでシーツに鎮座しているではないか!!
しばらくはあまりの事に心臓の動悸が治まるのを待っていたが、「いや、気にしないで」と見逃すほど、私は慈悲深くはない。エル・ラシディアでも2匹の命を奪ったスリッパを右手に持ち、フンガ!と鉄槌を下す。
あわれゴキ君、片ハネを広げながら昇天。 その死骸をシーツから落とし、ベッドの下にスリッパで押しやったのだが、そこでまた信じられない光景が。オーマイガッド、同じぐらいの大きさのゴキブリがさらに2匹、ベッドの下から「こんにちわ」・・・。
一瞬、気を失いかけたが、ここで退治しておかないと今夜眠れたものではない。1匹は手の届く範囲にいたので、スリッパを左手に持ち替えてストロークの短い攻撃を2発食らわす。カズ、これで白星四つ目INモロッコ。残るはベッドの奥でまんじりともしない1匹だが、本当に何分ニラみ合いが続いても動かない。はて?と思って懐中電灯で照らし、眼鏡をかけてみてみると、それはすでに死んでいた。不戦勝で五つ目の白星・・・。
闘いは終わった・・・。しかし、本当につらいのはその後だ。こんなにきれいな宿なのに、どこから湧いて出たのよ、このゴキブリ!!中庭に面した窓を開けていたので、やっぱりそこから入ってきたのかな。とりあえず窓を閉めるが、それでも巨大な死骸が三つベッドの下にあるままで、しかもいつ次の逆襲が来るとも限らない。ちょっとでも物音がする度に電気をつけてチェックしながら、熟睡出来ずに夜は終わりかけた・・・。
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