旅の日記

モロッコ・マラケシュ編(2001年6月14〜15日)

2001年6月14日(木) ゴキブリの逆襲(Cockroaches strike back)

 アラブパンとビタミン剤の朝食を食べて、ワルザザートの町を後にする。次の目的地マラケシュまでは約200キロの道のりだが、途中で幹線を右に外れて「アイト・ベン・ハッドゥ」に寄ってみる。

 アイト・ベン・ハッドゥは世界遺産にも登録されている古いクサル(要塞化された村)。川に面した丘の斜面に日干しレンガの城壁や塔が並んでおり、それぞれに当時の美しい模様が残っている。まるで時の流れに取り残されたこの村では、「アラビアのロレンス」をはじめとする数多くの映画のロケが行われた。
 ただしこの村は廃墟でも遺跡でもなく、現在でもベルベル人家族数組の生活の場。城壁から内部を見ると彼らの生活ぶりが良く分かるが、人の家を覗くというのはあまり気持ちのいいものではない。
 ガイドをさせろとうるさい輩も集まってきたので、ゆっくりもせずに立ち去る。

 さて、マラケシュまでは再びアトラス山脈を越えることになるのだが、このルートは「地球の歩き方」によるとかなり景色が良いらしい。期待して走るが、残念ながらメクネス〜エルフード間の方が格段に美しい気がした。途中、花が咲いてきれいなところもあったのだが、バイクを停めて写真を撮るやいなや、子供たちが集まって「何かくれ」攻撃が始まった。はあ〜。

 そんなこんなで、午後4時ごろマラケシュに到着。フェズに次いでモロッコで2番目に古い都、そしてそれと並ぶ観光都市である。
 マラケシュのメディナは他の都市のほど細々しているわけではなく、車の通る大通りや大きな広場があったりする。ワルザザートで会った女の子たちに教えてもらった宿を探すが、歩行者天国の奥なので断念。かわりに「地球の歩き方」に載っていた「安宿でも一番の清潔度。女性におすすめ」という宿に行って見ると、意外にも部屋があった。「地球〜」によると、メディナ内の人気宿はすぐに満室になるとあるのだが。

 ただし、宿にバイクは置けない。メディナの一大中心地、フナ広場が近くなので、そこにある青空駐車場にバイクは預かってもらうことにした。
 そしてシャワーを浴び、しばし休憩。シャワー、トイレは共同だが、部屋は美しいタイルと彫刻で装飾されており中庭もきれい。外の喧騒を忘れてくつろげる清潔でいい宿だなあ・・・と、その時は思った。

 夕方からフナ広場に出てみる。かつての公開処刑場、「死者の広場」と呼ばれるここは、今では夜な夜な大道芸人と屋台が集まってお祭り騒ぎが繰り広げられる、マケケシュの目玉となっている。
 ヘビ使い、猿回し、曲芸師、民族楽団・・・さまざまな芸人のまわりに人の輪ができ、その間を鮮やかな衣装に身を包んだ水売りが行き来している。みんないい被写体になるのだが、カメラを向ければチップを要求されるのは言うまでもない。

 屋台の並ぶエリアにいくと、これもまたすごい活気。店には番号がふってあり、オレンジジュースのスタンドだけでも数十、その他、一般の飲食店が百数十ある。一杯約30円のオレンジジュースを飲むが、予想以上に冷たくておいしい。もちろん搾りたての100パーセントである。すっかりハマり、この夜だけで3杯飲んだ。
 タジン、クスクスといったモロッコの代表的な料理から、羊の脳みそ、魚のフライ、貝、イカ、ケバブ・・・あまりに多くの種類の屋台があり、夕食に何を食べるかさんざん悩んだが、地元の人で賑わうソーセージ屋に入ったら美味かった。腹いっぱい食べて約130円、夕食万歳!(結城先生風に←古い?)

 そして屋台村の喧騒のなか、一人の若い日本人旅行者と出会った。これからメルズーカの砂丘を目指すというので、フナ広場を見下ろせるカフェに入ってしばらく話をする。すると同じ横浜出身、同じ大学の後輩で、しかも来年から同じマスコミ業界(彼はTV局だが)に就職するという。・・・はあ、なんだか眩しいなあ。前途有望な就職内定学生に一杯60円のジュースをおごり、かろうじて先輩としての威厳を保つもうすぐ三十路、住所不定無職バツイチの茶髪男であった・・・。

 フナ広場のどんちゃん騒ぎは毎晩深夜2時ごろまで続くというが、私は疲れていたので早めに宿に帰って寝る。さあ、きれいなシーツで幸せ、幸せ・・・本来なら、今日の日記はここで終わるはずなのである。

 しかし!!午前4時ごろ、右太モモに妙なモノが触れる感触で目が覚めた。はあ?何ですかい?と思って電気を付けると、本当に「うわあ」と声を出して驚いてしまった。巨大なゴキブリ君が、「あ?起こしちゃいました?」って感じでシーツに鎮座しているではないか!!
 しばらくはあまりの事に心臓の動悸が治まるのを待っていたが、「いや、気にしないで」と見逃すほど、私は慈悲深くはない。エル・ラシディアでも2匹の命を奪ったスリッパを右手に持ち、フンガ!と鉄槌を下す。
 あわれゴキ君、片ハネを広げながら昇天。 その死骸をシーツから落とし、ベッドの下にスリッパで押しやったのだが、そこでまた信じられない光景が。オーマイガッド、同じぐらいの大きさのゴキブリがさらに2匹、ベッドの下から「こんにちわ」・・・。
 一瞬、気を失いかけたが、ここで退治しておかないと今夜眠れたものではない。1匹は手の届く範囲にいたので、スリッパを左手に持ち替えてストロークの短い攻撃を2発食らわす。カズ、これで白星四つ目INモロッコ。残るはベッドの奥でまんじりともしない1匹だが、本当に何分ニラみ合いが続いても動かない。はて?と思って懐中電灯で照らし、眼鏡をかけてみてみると、それはすでに死んでいた。不戦勝で五つ目の白星・・・。

 闘いは終わった・・・。しかし、本当につらいのはその後だ。こんなにきれいな宿なのに、どこから湧いて出たのよ、このゴキブリ!!中庭に面した窓を開けていたので、やっぱりそこから入ってきたのかな。とりあえず窓を閉めるが、それでも巨大な死骸が三つベッドの下にあるままで、しかもいつ次の逆襲が来るとも限らない。ちょっとでも物音がする度に電気をつけてチェックしながら、熟睡出来ずに夜は終わりかけた・・・。


本日の走行距離         224.9キロ(計43204.5キロ)

出費                   210DH   ワルザザートの宿3泊
   143DH  ガソリン
   6DH  水
   17DH  炭酸飲料4本
   100DH  マラケシュの宿2泊前払い
   7DH  オレンジジュース3杯
   12.5DH  夕食(ソーセージ)
   25DH  香木の小物
計       520.5DH(約5390円
宿泊         Hotel Mimosa


2001年6月15日(金) マラケシュの1日(A day in Marrakech)

 あー眠い。浅い眠りのまま、午前10時を迎えた。
 幸いその後のゴキブリの逆襲はなかったが、もうマラケシュを出ようと考えた。昨夜フナ広場の雰囲気も味わったし、スーク(市場)もけっこう歩いたし、ゴキブリは嫌いだし・・・。
 しかし、まだ出るには早い気がするんだよなあ。宿の人も一生懸命部屋にクスリを撒いてくれたし、やっぱりもう1日マラケシュにいよう。宿を換えるにも2泊分前払いしてしまったし、荷物運ぶの面倒だし、この宿にゴキブリが出るんだったら、他の宿にも出る気がする。まあ、また出たらそのときはその時だ。なんか俺、すごい鍛えられているなあ・・・。以前だったら、速攻でチェックアウトしていたと思う。

 朝食を食べがてらスークを歩き、奥のベン・ユーゼフ・マドラサを見に行った。14世紀に建てられた大規模な神学校で、やはり装飾が素晴らしい。石の部分も木の部分も、人間業とは思えない細かい彫刻が施されているのだ。
 ある種のイスラム建築は木と石の調和が美しい。ヨーロッパや南米の古い建物は石ばかりだし、世界にもこのようなハーモニーをかもし出すものはなかなか・・・と思ったら、日本の城や寺があった。そうそう、最近思う事はロンリープラネットの日本版を買って、それを見ながら日本を回ったら面白のではないかということ。外国人ツーリストの目で日本を見たら、きっと新しい日本が見えてくるんだろうなあ。

 暑い午後はホテルの部屋で日記を打ち、夕方にフナ広場の周辺に数多くあるインターネットカフェに行って見る。これだけあるので1軒くらいLAN接続させてくれるところがあってもいいだろうと思ったら、1軒目であっさりOK。モロッコのインターネット屋は南米と同じくらい融通が利いてうれしい。

 結局昼食は食べなかったので、早めの夕食を取りにフナ広場へ。昨日、お茶だけごちそうになったフレンドリーな屋台があったので、そこでチキンのクスクスを食べていると、同じ屋台で食事をしていた地元の若者2人に声をかけられた。
 日本の言葉をいくつか知っている彼らは、もっと知りたいので教えてくれという。少々警戒しながらも、カフェに場所を移そうと言うのでヒマつぶし半分につきあってやることに。すると紙とペンが無いと言い、隣の文房具店でわざわざ買ってくる熱心さ。これは本当に言葉を知りたいだけなのか?

 しかし、しばらく日本語を教えたあと(これは本当に熱心に聞いていた)、友達がスークで指輪を売っているので見に行こうとか、次はエッサウィラ(海岸沿いのリゾート地)に行くかもしれないと行ったら、そこは危険だから俺を連れて行けとか言い出した。あー、こりゃもうだめだ。雲行きが怪しくなったので、自分のコーラ代だけをテーブルに置いて笑顔で別れる。ただ、彼らが言葉を知りたがっていたのは本当だし(日本に帰ったら日本語のテキストを送ってくれと住所まで書いた)、悪い奴らにはあんまり見えない。ただねえ、ちょっとねえ・・・このまま一緒にいると、面倒なことになるような気がするんだよなあ・・・。

 はあ、やっぱりモロッコは人間関係が疲れるぜ。 警戒するにこしたことは無いけど、良い人にまで冷たくしてしまって自己嫌悪になることもある。かといって来る人みんなに良い顔してれば、きっと足元をすくわれる時がくる。見た目だけではなかなか判断できないからねえ・・・。

 宿に帰って念のためにベッドの下をのぞくと、小型のゴキブリの死骸が二つ転がっていた・・・。本当にどうなってるの、この宿は?薬が効いたから死んでるのだろうけど、まいたあと、外からまた入ってきたのかな?あるいは最初から潜んでいたのかな?
 何か、外から入ってきたというより、最初からこのベッドの下がゴキブリの巣窟だったような気がする。恐ろしや、ゴキブリ一家とのルームシェア。部屋代ワリカンにしろ!


本日の走行距離             0キロ(計43204.5キロ)

出費                    15DH   朝食(パン、水、ヨーグルト)
   20DH  神学校入場料
   8DH  モロッコ式電球アダプター
   25DH  夕食(クスクス)
   5DH  ジュース
   15DH  インターネット
   15DH  夜食(魚フライ)
計       103DH(約1070円
宿泊         Hotel Mimosa
インターネット Ichibilia Net