今日は上野さんの本宅で、車（ランドクルーザー）で世界一周をしている田中夫妻の奥さんの63歳の誕生日会が行われた。

　上野さんに会ったことももちろんだが、ここウシュアイアで田中夫妻（67歳＆63歳）、そしてこれからカナダまで自転車で走る大友さん（59歳）に会ったのも良い刺激になった。熟年、というと嫌がるかもしれないが、彼ら熟年旅行者のパワーには圧倒された。彼らがすごいのは、気負って「冒険者！」という顔をしているわけでもなく、まるで近所にいるフツーのおじさんやおばさんのようで、そしてこんなことフツーです、というような自然な旅をしていることだ。
　日本ではお年寄りや病気、障害をもった人などは「弱者」とされ、外見上は保護されているよう見えても、実は「大人しくしていなさい」と行動を制限する風潮にある。「年寄りの冷や水」をもっと歓迎したほうが、風通しの良い世の中になるのではないか？ （ちなみに82歳の上野さんは今でも働き、ピックアップトラックを時速120キロで運転し、モーターボートを操って釣りにでかける）

　誕生日会のメインはカニ鍋だった。肉のつまったタラバガニももちろん美味かったが、最後の雑炊がまた絶品だった。3杯もおかわりし、食後のケーキもおかわりした。ただ今、体重増加キャンペーン実施中なのである。

　さて、この田中夫妻だが、実はメキシコのペンション・アミーゴで久美子と会っているのだ。 そして奥さんは久美子を大変気に入り、「旅で会った日本人女性の中で一番きれいで、気立てが良い」と絶賛。従って、「何で別れたのよ」と私が責められる。恋愛や結婚の話になると、必ず「あんたたち、ヨリを戻しなさいよ」と奥さんに迫られるのだ。
　「残念ながら、そういう計画はないのですが・・・」と言ったら、「じゃああんた、日本に帰ったらお見合いしましょうよ。知り合いに結婚相談所の所長がいるのよ」だって。・・・私も気に入られたみたいだ。うーん、見合いか、人生で1度ぐらい経験したいなあ。獅子脅しが「カコーン」となるような場所で・・・。

　そろそろ出発せねばと思うのだが、なかなか腰が上がらない。
　6日にはバイクを置いて南極ツアーに参加していた若い二人組みが帰ってきた。2日後には出るというので、私も出発の支度をボチボチはじめる。洗濯を済ませ、ちょっと時期が早いがエンジオイルを交換した。

　7日、翌日に出るつもりで上野さんの本宅に行って宿泊費を払おうとすると、その途中で寄ったインターネットカフェでたぐーさんからのメールを受信する。明日、ウシュアイアに着くので上野さん家への行き方を教えてください、とのこと。たぐーさんは会った事ないが、やはりパソコンを持って世界一周の旅行をしているモバイラー。以前からホームページの相互リンクを貼っており、メールのやりとりは何回かしたことがある。そして私と同い年のセニョリータとくれば、出発を延期しないわけがないだろう。
　というわけで、出発はちょっと延期。

　8日、バイクの二人組みが出ていった。若い彼らは今回が初めての海外ツーリング。チリのサンチャゴでバイクを受け取り、ここまで下ってきて、ここからずっと北上だそうだ。私は自分が大したライダーとは思わないが、彼らを見ているとちょっと心配というか、可愛いというか・・・だって、「大使館って何ですか？」「海外旅行保険って生命保険と違うんですか？」などと、数々の迷言を残していったから・・・。まあ、健闘を祈る。
　そして、たぐーさんは今日は来なかった。メールによると、今日はとりあえず他の宿に入ったので明日来るとのこと。しかしバイクの二人組みもたぐーさんも、今夜、上野邸にいなかったことは大きな過ちなのだ。

　なぜなら、今夜の夕食はマスの寿司だったからである。
　今、上野邸にはある釣り師がいる。そして先日釣り上げてきた新鮮なマスを、プロの料理人でもある彼がさばいて握ってくれたのだ。川魚の刺身や寿司というと普通は注意が必要だが、ここウシュアイアではノープロブレマー。
　 マスの寿司は初めてだったが、サーモンのような感じで、とろけるような甘味のある味だった。皮や内臓は唐揚げにし、食べなかったのはほんの一部。その部分も、隣の犬にあげたらガツガツ食っていた。あー満足、うまかったー。

　しかし、である。食後に歯を磨いていると、なんと元旦にペルーで取れ、くっつけてもらったばかりの前歯がまた取れた。「寿司は固くないだろ！」と、取れてしまったさし歯にツッコミを入れたくなった。仕方ない、明日、歯医者の場所を上野さんに聞こう・・・。　

　朝、上野さんの本宅に行って私立の歯科の場所を教えてもらう。ウシュアイアには公立の歯科もあるのだが、バカンスシーズンで人の多い今の時期だと診てもらうのに大変時間がかかるらしい。
　さし歯をつけるだけの簡単な治療なので、すぐに診てもらえた。本当は自分で瞬間接着剤でつけようとも思ったが・・・やはりプロにお任せすることにしたのだ。料金は20ペソ、まあこんなもんだろう。

　午後、たぐーさんがやってきた。いわゆる「上野邸」と呼ばれる上野さんの別宅は、街の中心からだと上り坂を歩いて30分以上はかかる。・・・ご苦労さまです。上野邸に泊まりたいのはやまやまだけど、歩くと遠いので今は街の中心の宿に泊まっているらしい。
　たぐーさんは小柄でかわいらしい女性だった。どことなくウメさんの奥さん、Kさんと似ている感じがする。今までに北米から中米と回って、先日一時帰国したのちアジアを経由して南米入りしたらしい。これから南極ツアーに参加し、その後南米を北上、それからヨーロッパやアフリカにも足を伸ばす予定とのこと。やっぱり一時帰国して英気を養うと違うなあ。俺も昨年の9月あたりはエネルギーに満ちていたような気がする・・・。

　同じくモバイラーのNoriさんも交えて3人で旅とモバイルの話に花を咲かせたのち、バイクの後ろにたぐーさんを乗せて街のインターネットカフェへ行く。LAN接続の方法を知らないというので、教えてあげるためだ。といってもこの知識、全部ウメさんから教えてもらったものだけどね・・・。
　その後、街のレストランで夕食を食べて別れた。明日は私のウシュアイア最終日、最後の晩餐を一緒に上野邸でつくる約束をした。・・・そう、こたつから出る日は近いのだ。

　今日は正真証明のウシュアイア最終日。昼間のうちにインターネットカフェに行って最後のホームページの更新を行い、上野さんの本宅へ行って12泊分の宿泊費を払う。上野さん、また来ますので、その時までお元気で。（そんな心配をする必要がないほど、この人は80を過ぎてますますパワフルだ）

　夕方になってたぐーさんを迎えに行き、スーパーに寄って最後の晩餐の食材を買う。何にしようか迷ったが、肉売り場においしそうなチキンがデーンとまるごと売っていたので、その場のノリで買ってしまう。果たしてちゃんと調理できるだろうか？
　宿に戻り、Norisさんと3人でチキンに取り組む。香辛料はふってあるので、あとは野菜を適当にのせてオーブンに突っ込むだけだ。しかし、3人ともオーブンでチキンを焼いた経験はない。うれしはずかし、チキン初体験なのである。

　しかし1時間ほどかけてじっくり焼いたら、とてもおいしくできた。これならきっと岸朝子も「おいしゅうございます」と言うだろう。そしてたぐーさんが日本から持ってきた「仙人おこわ」なるものを炊いて、一緒に食べる。チキンの皮のパリパリ感と、おこわのもち米のモチモチ感のハーモニー。満足なる最後の晩餐でした。

　ワインの酔いがさめるのを待って、バイクでたぐーさんをホテルに送った。おそらくヨーロッパあたりでまた会えるでしょう。その時まで、気をつけて旅をつづけてください・・・。