アンデスをゆく夜行バスは冷えると聞いていたが、ブラジル・ヴァリグ航空の機内から拝借した毛布のおかげで寒くは無かった。適当に眠りながら朝6時前、ポトシのバスターミナルに到着する。このターミナルも、おそらく世界で最高所のターミナルだろう。
ポトシは標高4070m、世界で最も高い標高に位置する都市だ。スペイン人がこの過酷な地に都市を建設した理由は、ここにかつて世界最大の銀の鉱脈があったから。街を見下ろす標高4763mの「富の山」と呼ばれる山がそうで、鉱脈が枯れ果てるまでスペインで流通した銀貨の多くがここで生産された。
銀が取れなくなるとこの街は歴史の表舞台から姿を消したが、20世紀になってスズやタングステンなどの有力な鉱脈がみつかり、再び活気を取り戻したのだそうだ。
しかし朝6時前ともなると、さすがに街は眠っている。私も眠いので適当なホテルを探すが、ニセ警官にからまれた。南米、特にボリビアにはよくニセ警官が出没し、パスポートのチェックといってはそのまま持って行ったり、ニセ札の検査といっては財布から金を抜き取ったりするらしい。
今回は広場で私服の男が近寄ってきて、財布からチラっと「Policia(警察)」と入ったちゃちな偽IDカードを見せ、「パスポートチェックだ。見せろ」という。当然拒否し、「それなら警察署へ行こう。そこでなら見せる」というと、「じゃあタクシーで行こう」と男はいう。アホか、どこの世界にタクシーで署に戻る警官がいるよ。手際がいいことに一台の白い車が目の前に止まったが(当然グルだろう)、私は無視して歩き去った。彼らはそれ以上、私を追ってこなかった。もし本物の警察なら、そんなことはないだろう。
さて、共同シャワーもない汚い安宿にチェックインし(1泊だけだから我慢しよう)、午前11時ごろまで眠る。そして再び街に出ると、たいへんな活気で賑わっていた。オルーロもポトシも同じ鉱山街だが、活気が全然違う。ここは人も車もとても多い。
私がこの街にきた理由は他でもない。世界最高所のインターネットカフェを取材するためだ。無事目的は達成したが、その様子は「Paso」の原稿で書くつもりなので、ここでは控えておく。
目的が達成したあとは市内観光。市街を見渡せるサンフランシスコ修道院に登ったり、ポトシのシンボルにもなっている、ニカッと笑った顔のレリーフがある旧国立造幣局に行ったりした。特に造幣局は閉館間際に行ったら、ほんのさわりだけだったがタダで見る事ができた。これでまた30ボリ浮いた。
ポトシでは鉱山見学にツアーにでも申し込まないかぎり、観光はすぐに終わってしまう。暗い宿の部屋に帰っても仕方ないので、あてもなくブラブラ街をあるく。
やがて暗くなり、私は吸いこまれるようにカテドラルに入っていった。何やら音楽が聞こえ、にぎやかそうだったからだ。
果たして入ると、祭壇の前では音楽に合わせて12人の褐色の面をつけた男たちが激しく踊っていた。鉱山労働者だろうか、すごい体力だ。こんな高地なのに、私が見始めてから15分は踊り続けていた。(彼らはその前から踊っていたのだ)
これは何の祭りかと思ったら、次はギターをもった中年男性のグループが出てきて歌い上げていた。よく見ると、まわりには楽器をもった若者なんかがいる。きっと市民参加の芸能大会だろう。
やがて芸能大会にも飽き、街で本当にすることがなくなったので、宿に帰ってすぐに寝た。ボリビアの宿の夜は本当にヒマだ。
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