今日は私の29回目の誕生日。ここチャルワンカからアバンカイ(Abancay)までの約120キロは未舗装路で、雨季であれば川渡りもあるという。ここを無事走破することを自分へのプレゼントとしたい。
朝8時、出発。チャルワンカに限らず、ペルーの田舎の町は未舗装の部分が多いが、今回は町を出てもそのまま。凸凹の道がずっと続くのだ。
路面の状態はそんなに悪くは無いが、情報のとおり、たまに水溜りや川を渡らねばならない。写真の箇所が一番深かったが、それでも深さは40センチ程度。オフロードバイクなら全く問題ない。しかし乾ききった川も何本か渡ったのだが、それらに水が流れていたらもっと大変だったろう。路面は乾いていたが、これも雨でぬかるんでいたら重いDRでは恐怖だ。私自身が経験した水溜り、川渡りは全部で10箇所ほど。晴れていて良かった。
道幅はところによって差が激しく、20メートルはあろうかと思われるところもあり、また車1台分しかないところもある。未舗装ではあるが、この道はリマ、ナスカ方面とクスコを結ぶ主要ルートで、大型バスやトレーラーも走る。道幅の狭いところでハチ合わせたら、どうすれ違うのだろう?交通量も結構多く、少なくても15台のバスやトラック、車を追い抜かした。
最初はバイクをいたわってゆっくり走っていたが、後半は面倒くさくなり、所によっては60キロ以上で飛ばした。おかげでアバンカイに到着したのは11時すぎ、120キロのダートを平均40キロほどで走った事になる。この区間が南米の正念場と思っていたが、結構あっけなかった。それにしてもパンクも何もなくて良かった。
アバンカイで給油を行う。ペルーにはオクタン価が84、90、95、97の4種類のガソリンが出回っているが、いつもはバイクのことを考えて90以上を入れている。田舎では84しか置いていないところが多いが、アバンカイはナスカ〜クスコ間で一番大きな町で、探したら90を置いてあるスタンドが見つかった。良かった。
アバンカイからの約20キロも未舗装だが、こちらはずっと状態が良く、まったく問題にならない。この区間は舗装工事が進められていて、5ヵ月前に通ったマサの情報だとアバンカイから35キロまでが未舗装だった。この区間が全面舗装になるのは時間の問題だ。
ただし最初の峠を越えるまで、約40キロの間は激しい雨とヒョウが降って辛かった。久しぶりにカッパを上下とも着て走る。
峠を越えると雨は止み、道もセンターラインすら無いほどに新しく、走りやすくて気持ちが良かった。山の中のワインディングロードを快調に走る。
アバンカイからクスコまでは200キロほどだが、私は途中で左に折れ、オリャンタイタンボという町へ向かおうと思った。クスコ周辺の最大の見所は何といってもマチュピチュ遺跡だが、クスコからだと列車に何時間も揺られなければならない。一度クスコに落ち着いてしまうと腰も重くなるような気がしたので、よりマチュピチュ寄りのオリャンタイタンボに行って宿をとり、そこから安いローカル列車でマチュピチュに行こうと思ったのだ。
しかし、アンタという分岐の町からオリャンタイタンボへ向かう道路は未舗装の上にガケ崩れが起きていて、通行不能になっていた。復旧作業を行っていたお兄さんは夕方になれば通れると言ったが、それまで待ってまたダートを走る気にはならない。あきらめてクスコに向かう。しかし、この選択が正しかったことが後で判明する。
少々遠回りしてしまったが、午後4時半ごろクスコに到着した。盆地にある町に入る前に高台の上から見下ろしたが、世界遺産の街並みの上には虹が出ていて、その向こうの黒い雲の中では雷光が光っていた。長い間憧れていたクスコ、やっと到着したんだなあ。
高台から町の中心であるアルマス広場は確認していたので、迷うことなく広場の裏にある「ホテル・フェリックス」を見つけることができた。クスコには「ペンション花田」という日本人宿があるが、険しい坂の上で、バイクを停めるのはちょっとつらいらしい。「ホテル・フェリックス」は牛次郎で一緒に旅した猪飼さんが教えてくれたのだ。
猪飼さんが言ったとおり、ホテルには広い中庭があってバイクが停められた。広めの部屋に荷物を入れ、向かった先は日本料理屋「金太郎」。自分の誕生日を祝うためと、オーナーの金さんに会うためだ。
オーナーの女性、金さんにはクスコを訪れた数々の旅人がお世話になっている。私も会いたかったのだが、あいにくと日本に帰国中で17日まで戻らないという。仕方なく、1人で焼き魚定食を食べて誕生日を祝う。美味かった。
「金太郎」に行ったのには、実はもうひとつ理由があった。牛次郎で旅する前、エクアドルの「スクレ」で一緒だった安部さんがクスコにいるはずで、彼の居所が分かれば聞こうと思っていたのだ。幸い「金太郎」で働いている男性が安部さんの泊まっているホテルを知っていたので、訪ねに行く。
いったん「ホテル・フェリックス」に戻ってガイドブックなどの荷物を置き、安部さんのホテル目指して歩き始めたら、後ろから視線を感じた。振り向くと、なんとそこに安部さんが立っているではないか!
買い出しの帰り、たまたま「ホテル・フェリックス」の前を通り、日本人らしき人が出てきたので見ていたら、それが私だったのだという。これから訪ねに行くところだったのに、何と偶然な。
そのまま安部さんのホテルにお邪魔し、別れてからの話に花を咲かせた。そしてマチュピチュの情報を聞くと、クスコ〜マチュピチュ間の安いローカル列車は今年10月から外国人は乗れなくなったらしい。外国人料金の列車だと、クスコから行ってもオリャンタイタンボから行っても料金は変わらないという。無理してオリャンタイタンボに行かなくて良かった。国営だったこの鉄道が外資(オリエンタル・エキスプレス社)に売却された話は聞いていたが、早くも利益の追求に走っているようだ。
安部さんと酒を飲みたいこところだったが、クスコは高度3400メートル。今夜は大事をとって酒を控え、体を高度に慣らすことにする。安部さんとは明日、飲みに行く約束をしてホテルに帰る。
こうして私は29歳になったのでありました。
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