朝、目が覚めると、西の方角に白い雪を被った山々が見えた。あれがアンデス山脈、コロンビア以来の対面だ。今日はあの山々を越え、反対側のチリへ行くのだ。
ガソリンスタンドを出発し、国境へ向かう道を進むと、すぐに道は急な登りとなった。そこから国境までの約150キロはずっと登り坂のまま。しかし、パラグアイでデストリビューターの調整をしてもらった牛次郎は調子良く登ってくれた。車窓からは真っ白な山々が見え、目を楽しませてくれる。
国境はアンデスを越える峠にあるが、その手前で「インカの橋」という看板があったので止まってみる。そこは温泉が涌き出ている場所で、温泉とともに湧き出した鉱物が自然の橋を作り出していた。かつての温泉宿と見られる朽ち果てた建物が橋のすぐ下にあり、そこでは今でも温泉が湧き出しているので、若い観光客たちが足をつけて温めていた。私もやろうと思ったのだが、思ったよりもぬるく、あがった後によけい寒くなりそうなのでやめた。ここら辺ですでに標高は3000メートル弱、風も強く、かなり寒かったのだ。
「インカの橋」を後にして、約20分ほどでアルゼンチン側の国境事務所に到着。ドライブスルーの形式になっていて、車に乗ったまま約5分でパスポートの出国手続き、ペルミソのキャンセルができた。
そしてチリ側を目指して走り出す。すると、なんと料金所があった。しかも、牛次郎は「小型バス」に分類され、普通自動車の2倍の6ドルを払えという。「アルゼンチンでもずっと普通自動車の分類だったのに、何でここだけ違うのか」と抗議するが、窓口のオヤジは払わないと警察を呼ぶという。しぶしぶ6ドルを払うが、おつりの4ドル分はアルゼンチンペソでないと払えないという。これはひどい。もうアルゼンチンは出国していたものと思って、残っていたペソはわざわざ全部使っていたのに。国境事務所の向こうに料金所は設けちゃいけないだろう。
チリ側に入るすぐ手前に、南米大陸の最高峰アコンカグアが見えるポイントがあった。展望台も無く、ただ道路脇に「アコンカグア」と書かれた看板があるだけなので、気をつけていなければ見落としてしまいそう。牛次郎を道の脇に停め、看板のあるところから北側を見ると、標高6960メートルのアコンカグア山頂までがクッキリ見えた!おお、これが南米の屋根か・・・。今日は本当に天気が良くて良かった。もし雨でも降れば何にも見えない上、雪になりそうな高度だし、寒さだし。実際、ここはアルゼンチンとチリを結ぶ一番メジャーなルートだが、冬季はチェーンなどのすべり止めが無いと越えられないらしい。
本当の国境がある峠はすこからすぐだった。標高3200メートル、そこは長いトンネルになっており、トンネルの真ん中あたりで「ようこそチリへ」という看板が見えた。
トンネルを抜けるとチリ側の国境事務所があった。アルゼンチンほどの厳しさでは無かったが、税関では荷物を降ろされてのチェックがあった。約1時間ほどで全ての手続きを終え、国境事務所を後にする。
チリ側では、アルゼンチン側とうって変わって下りの連続。勾配がアルゼンチン側より急なのか、道は腸のようにカーブを繰り返し、まるでイロハ坂のよう。ガードレールも無いので、ハンドルを切り損ねたら大変だ。
ブレーキの調子がイマイチの牛次郎なので、エンジンブレーキを多用し、なるべく普通のブレーキに負担をかけないようにして下る。約1時間ほど慎重に下りつづけ、日が落ちる頃、ようやく平地にたどり着いた。
我々の目指すビーニャデルマルは太平洋に面したリゾート地だが、アンデスの峠の国境からは190キロほど。チリは南北に4300キロもある国だが、東西の幅は平均してわずか180キロの、非常に細長い国だ。今日はチリに入国し、早くも横断するという訳である。
チリに入ってから非常に交通量が増え、運転していたウメさんはとても気を使っていた。夜8時ごろ、ビーニャデルマルの街に到着。街に入ってすぐのところに大型のスーパーがあったので、寄って買物をしていく。
すると、このスーパーにびっくり。おそらくビーニャでも最大規模のスーパーだろうが、なんとレジが73台も並んでいて、どこも客が並んでいるほど混んでいる。買物客の身なりはとても良く、なるほど、噂に聞いたとおり美人が多い。そこらへんにいるフツーのお兄さんやお姉さんが、まるでモデルのようなのだ。街も近代的で、物もあふれ、予想よりずっとチリは豊かな国だと思った。
買物を終え、ビーニャの日本人宿「汐見荘」に着いたのは夜10時ごろだった。前にウメさんたちが来た時には改装中だったそうで、今回はあまりにもキレイになっていたために見落としてしまうところだった。
汐見荘のキャパシティは小さく、満室になることも多いと聞いていたが、思ったよりも宿泊客は少なく、問題なく我々3人もベッドにありつけた。
さて、ここで会えると思っていた旅人二人は、まだ来ていなかった。ここでは彼らを待ちながら、1週間ほどゆっくりする予定。
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