朝起きて、まず昨夜から調子の悪いブレーキを直す。スタンドの近くの部品屋で新しいボルトを買い、隣の修理屋にレンチを借りに行くと、液が漏れないようにとネジ山にシリコンのテープを巻いてくれた。こんな便利なものがあるとは。これでブレーキはばっちり直ったので、フォス・ド・イグアスまでの残り80キロを飛ばす。
フォス・ド・イグアスは思ったより大きな街だった。西をパラグアイ、南をアルゼンチンと面している三叉の国境の街だ。ブラジルでもかなり南に位置し、白人系の住民が多い。ブラジルは移民国家だが、移り住んできた人たちは母国と同じ環境、すなわち同じ程度の緯度に住む傾向にある。ブラジルは基本的に北が暑く、南が寒い。よって黒人系の人たちは北を好み、白人系は南を好むのだそうだ。そして、なぜかフォス・ド・イグアスにはアラブ系の人も多い。モスクもあり、スーパーではアラブ食材売り場で買物をするスカーフ姿の女性がいた。
安ホテル街で一人12レアル(約700円)のテレビ・エアコン・シャワー、トイレ付きのホテルを見つける。近くに半額のホテルもあったのだが、管理がいい加減そうなのでパス。少々贅沢だが前者に泊まることにする。
この街の観光のメイン、イグアスの滝は日光の関係から午前中に見る方がよろしいそうなので、今日はブラジルとパラグアイにまたがるイタイプー・ダムを見に行くことに。チェックイン早々、車でダムへ向かう。
ダムを見学するのには無料のツアーに参加せねばならず、その発着所となるビジターセンターまでは約20分で着いた。ツアーに予約は不要で、我々は行ったその場で次のグループに参加できた。
まずはビジターセンターでダムを紹介する簡単な映画を見たあと、数キロ離れた実際のダムまで数台の観光バスに分乗して行く。これがエアコンの効いた高級観光バスで、これで無料なのかと嬉しくなってしまう。
さて、イタイプー・ダムに到着。このダムはブラジルとパラグアイの国境に流れるパラナ川をせき止めるために建造されたダムで、全長8キロ。規模こそ世界最大のアスワンハイ・ダム(エジプト)に譲るが、発電能力は世界一、実にブラジルで消費される電力の25パーセント、パラグアイの75パーセントをまかなっているという。
両国が半分ずつ出資し、約10年の歳月をかけて建造され、発電される電気は両国で折半することになっているが、パラグアイの取り分の95パーセントはブラジルに「輸出」されているという。つまり、パラグアイで消費される電力の75パーセントは、このダムで生み出される電力の2.5パーセントにしか相当しないというのだ。本当か!?パラグアイも大きな国とは言えないが、このダムのすごさが推し量れる。
ツアーはまず、放水路が一望できる展望台についた。ダムが生み出した人工湖の水位を調整するため、下流に放水をしているのだが、すごい量の水がコンクリートの斜面をすべり落ち、しぶきとなって川に落ちていた。放水路は三つあるのだが、この日はそのうちの一つしか利用されていなかった。
下流からダムに向かって左端に放水路はあり、そこから右が発電施設になっている。展望台からはその全景が見渡せられたが、正直言ってあまり大きいとは感じない。なんか、黒部峡谷のダムの方が大きく感じたような・・・(高さがあったから)。
しかしツアーは次に、ダムの上をバスで渡った。発電施設には18本の太いパイプがあり、水はその中を100メートルも落下した後、タービンを回すのだそうだ。そのパイプの太さ、直径10メートル。間近で見ると、やっぱりデカい。比較対象物が無いからダムも低く見えたのだが、一番高いところでは185メートルもあるらしい。
バスの中では、ダムの大きさを説明するテープが流れていた。それによると、ダム建設のために掘り出された土砂の量はリオ・デ・ジャネイロのラグビーボール形の岩山ポン・ジ・アスーカル2個分。使われたコンクリートの量はイギリス〜フランスを結ぶ海底トンネル「ユーロトンネル」2個分。鉄材はパリのエッフェル塔280本分。工事の最盛期では32000人の労働者がシフトを組み、24時間態勢で建造にあたったという。「今世紀最大の土木工事」とうたっていたが、そういえばこのセリフ、どこかで聞いたような・・・そうだ、パナマ運河だ。確かにどっちもすごいけど。
一通りダムを巡ったあと、バスはビジターセンターに戻り、ツアーは終了。無料でいいツアーだったが、ちょっとひっかかった点がある。それははじめの映画でも、バスの中のテープでも、「ダムの目的の第一はパラナ川の洪水管理であり、発電は二次的なもの。洪水を管理することにより、ダムは環境保護に大きく貢献しているのです」と説明していたこと。映画では人工湖が増水して木に取り残された動物を、これみよがしにボートで救出する場面が映し出された。こんなバカでかいダムを作っておいて、環境に良いわけは無いと思うのだが・・・。
その後はホテルに戻り、日記を打つ。明日はいよいよ南米大陸のハイライトの一つ、イグアスの滝だ。
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