旅の日記

ブラジル・イグアスの滝編(2000年9月26日〜10月1日)

2000年9月26日(火) シフトレバーが折れる(Shift lever breaks into two)

 今日はボニートを後にする日。久々の移動日だが、今日も牛次郎は故障に明け暮れた。

 朝は先日から調子の悪いブレーキを直す事から始まった。ボニートの町の部品屋で、左後輪のブレーキのエア抜きの穴にはめる新しいボルトを買う。これを使うと何とかブレーキ液の漏れは止まった。これで出発できると思ったら、今度はバッテリーが完全にあがっていた。調べて見ると、バッテリー液が全然無い。電気系統専門の修理屋で液を補給、充電をしてもらう。
 修理で午前中を使ったので、最後のインターネットをしてボニートの町を出発したのは昼頃だった。向かった先はフォス・ド・イグアス。世界三大瀑布の一つ、イグアスの滝の拠点となる町だ。ボニートからは南東へ、直線距離で600キロほどだ。

  しかし、次のトラブルは走り出してすぐに起きた。小さな町を通過する際、シフトチェンジをしようと思ったら、モロっという感触とともにシフトレバーが根元から折れたのだ。本当にキレイに、ポッキリと。
 不幸中の幸いで、修理屋はそこから500メートルのところにあった。とりあえず1速のままたどり着く。折れたレバーを見せると、修理屋のお兄さんはすぐに溶接してくれた。しかし、こんなマンガのような壊れ方をするとは、まったく退屈させない車だ。簡単に直る事はわかっていたので、このトラブルに関しては笑った。

 修理は15分ほどで終わったので、すぐに走り出す。すると、またブレーキの調子が悪くなった。しかし、ブレーキをあまり使う必要のない大平原の中の道なので、そのまま走る。

 この辺の道路脇には蟻塚が多い。大きいものは人の背丈ほどあるが、大体は写真くらいの大きさ、高さ数十センチほどのものだ。今日もあったので、蟻塚を破壊するとどうなるか、好奇心あふれるウメさんが試して見た。
 かなりの覚悟を決め、長い棒で塚をつつく。塚は土でできているが、固められていてけっこう硬い。えいえい、とウメさんが棒で塚の一角を崩すと、大きなシロアリが十数匹でてきた。もっとウジャーって出てくるのかと思ったら、そうでも無かった。意外と人(蟻?)口密度は低そう。
 しかし、塚の数はすごい。ここら辺は大体がファゼンダ(農場)なのだが、多いところになると、牛のいる牧場全面、数メートルおきに蟻塚があり、その数は数百にもなると思われるくらいだ。牛を飼っているのか蟻を飼っているのか、わからんぐらいだ。
 「でもそれだけの蟻がいても、一つの巨大な塚はできないんですねえ」と Kさんに言ったら、「あれ、きっと地下で繋がってんだよ」と彼女は言った。確かにそうかもしれないと思いながら、寒気を感じだ。あれだけの塚が全部繋がっていたら、いったい何匹の蟻がいるのだろう・・・。

  夜になって、今度はガソリンタンクの漏れが悪化しているのが発覚した。パラグアイに入る前に、ブラジルで直しておいた方が良いかもしれない。また、走っていると突然エンジンが止まるという症状も出てきた。
 途中のガソリンスタンドで夕食を作ってたべ、あとは疲れるまで走った。カラポという町で適当なガソリンスタンドがあったので、そこで寝ることとする。


出費                     2R  昼食(メンチカツ、ジュース)
            5R  インターネット
            1.7R  切手
計        8.7R(約510円)
宿泊         カラポの町のスタンドに停めた牛次郎
インターネット    Hotel Sao Jorge


2000年9月27日(水) ガンガン走る(Driving all day)

 今日もイグアス目指してガンガン走った。
 昨夜、私がライトを付けたまま寝たのでバッテリーあがっていたが、押しがけしてしばらく走ると問題はなくなった。まわりは農場ばかりののどかな風景だが、道路の舗装が穴だらけなのでガタガタ、バコバコいいながら牛次郎は走った。
 振動が悪影響したのか、しばらくするとまたブレーキが利かなくなった。一度ウメさんが運転していてバスに追突しそうになったが、すんでの所でエンジンブレーキで止まった。私は後ろで寝ていたのでそんなに驚かなかったが、ウメさんとKさんはその後もしばらく震えが止まらないほど恐怖を感じていた。
 応急処置はするのだが、ブレーキはすぐまた効かなくなる。夜になったので根本的な修理はできず、だましだまし走り続ける。
 目的地フォス・ド・イグアスまであと80キロという幹線道路上のスタンドで今日は泊まることにした。最近ブラジルは選挙で盛りあがっており、今日も遅くまで各候補の応援者が街宣カーで回ったり、花火を打ち上げたりしていた。南米の選挙は死活問題がかかわっていたりして日本よりはるかに盛りあがるが、ブラジルは選挙までお祭りのようで何か楽しそう。若者も応援する政党の旗をバイクに立てて、バリバリ走っていたりするのだ。いいなあ、何でも盛りあがれて。何に関しても冷めているドコゾの国の人たちとは違うのだ。


出費                   2.2R  昼食(揚げ物、ジュース)
計        2.2R(約130円)
宿泊         幹線道路のスタンドに停めた牛次郎


2000年9月28日(木) 世界最大出力のダム(The Itaipu dam)

 朝起きて、まず昨夜から調子の悪いブレーキを直す。スタンドの近くの部品屋で新しいボルトを買い、隣の修理屋にレンチを借りに行くと、液が漏れないようにとネジ山にシリコンのテープを巻いてくれた。こんな便利なものがあるとは。これでブレーキはばっちり直ったので、フォス・ド・イグアスまでの残り80キロを飛ばす。

 フォス・ド・イグアスは思ったより大きな街だった。西をパラグアイ、南をアルゼンチンと面している三叉の国境の街だ。ブラジルでもかなり南に位置し、白人系の住民が多い。ブラジルは移民国家だが、移り住んできた人たちは母国と同じ環境、すなわち同じ程度の緯度に住む傾向にある。ブラジルは基本的に北が暑く、南が寒い。よって黒人系の人たちは北を好み、白人系は南を好むのだそうだ。そして、なぜかフォス・ド・イグアスにはアラブ系の人も多い。モスクもあり、スーパーではアラブ食材売り場で買物をするスカーフ姿の女性がいた。
 安ホテル街で一人12レアル(約700円)のテレビ・エアコン・シャワー、トイレ付きのホテルを見つける。近くに半額のホテルもあったのだが、管理がいい加減そうなのでパス。少々贅沢だが前者に泊まることにする。

 この街の観光のメイン、イグアスの滝は日光の関係から午前中に見る方がよろしいそうなので、今日はブラジルとパラグアイにまたがるイタイプー・ダムを見に行くことに。チェックイン早々、車でダムへ向かう。
 ダムを見学するのには無料のツアーに参加せねばならず、その発着所となるビジターセンターまでは約20分で着いた。ツアーに予約は不要で、我々は行ったその場で次のグループに参加できた。
 まずはビジターセンターでダムを紹介する簡単な映画を見たあと、数キロ離れた実際のダムまで数台の観光バスに分乗して行く。これがエアコンの効いた高級観光バスで、これで無料なのかと嬉しくなってしまう。

 さて、イタイプー・ダムに到着。このダムはブラジルとパラグアイの国境に流れるパラナ川をせき止めるために建造されたダムで、全長8キロ。規模こそ世界最大のアスワンハイ・ダム(エジプト)に譲るが、発電能力は世界一、実にブラジルで消費される電力の25パーセント、パラグアイの75パーセントをまかなっているという。
 両国が半分ずつ出資し、約10年の歳月をかけて建造され、発電される電気は両国で折半することになっているが、パラグアイの取り分の95パーセントはブラジルに「輸出」されているという。つまり、パラグアイで消費される電力の75パーセントは、このダムで生み出される電力の2.5パーセントにしか相当しないというのだ。本当か!?パラグアイも大きな国とは言えないが、このダムのすごさが推し量れる。

 ツアーはまず、放水路が一望できる展望台についた。ダムが生み出した人工湖の水位を調整するため、下流に放水をしているのだが、すごい量の水がコンクリートの斜面をすべり落ち、しぶきとなって川に落ちていた。放水路は三つあるのだが、この日はそのうちの一つしか利用されていなかった。
 下流からダムに向かって左端に放水路はあり、そこから右が発電施設になっている。展望台からはその全景が見渡せられたが、正直言ってあまり大きいとは感じない。なんか、黒部峡谷のダムの方が大きく感じたような・・・(高さがあったから)。

 しかしツアーは次に、ダムの上をバスで渡った。発電施設には18本の太いパイプがあり、水はその中を100メートルも落下した後、タービンを回すのだそうだ。そのパイプの太さ、直径10メートル。間近で見ると、やっぱりデカい。比較対象物が無いからダムも低く見えたのだが、一番高いところでは185メートルもあるらしい。
  バスの中では、ダムの大きさを説明するテープが流れていた。それによると、ダム建設のために掘り出された土砂の量はリオ・デ・ジャネイロのラグビーボール形の岩山ポン・ジ・アスーカル2個分。使われたコンクリートの量はイギリス〜フランスを結ぶ海底トンネル「ユーロトンネル」2個分。鉄材はパリのエッフェル塔280本分。工事の最盛期では32000人の労働者がシフトを組み、24時間態勢で建造にあたったという。「今世紀最大の土木工事」とうたっていたが、そういえばこのセリフ、どこかで聞いたような・・・そうだ、パナマ運河だ。確かにどっちもすごいけど。

 一通りダムを巡ったあと、バスはビジターセンターに戻り、ツアーは終了。無料でいいツアーだったが、ちょっとひっかかった点がある。それははじめの映画でも、バスの中のテープでも、「ダムの目的の第一はパラナ川の洪水管理であり、発電は二次的なもの。洪水を管理することにより、ダムは環境保護に大きく貢献しているのです」と説明していたこと。映画では人工湖が増水して木に取り残された動物を、これみよがしにボートで救出する場面が映し出された。こんなバカでかいダムを作っておいて、環境に良いわけは無いと思うのだが・・・。

 その後はホテルに戻り、日記を打つ。明日はいよいよ南米大陸のハイライトの一つ、イグアスの滝だ。


出費                     3R  朝食(揚げ物、ジュース)
計         3R(約180円)
宿泊         Hotel Village Foz


2000年9月29日(金) イグアスの滝(The world's largest waterfall)

 さて、今日は観光の本番。朝一番でイグアスの滝へ向かう。滝はブラジルとアルゼンチンの国境にまたがっているが、午前中にブラジル側、午後にアルゼンチン側でみるのがよろしいという。というわけで、まずはブラジル側へ。

 国立公園になっているので、ゲートで料金を払い入園する。しばらく走るとピンク色の高級ホテルがあり、ここが車道の終点。ここから遊歩道で滝へと降りて行くのである。ホテル前の駐車場に車を停め、降りた瞬間から轟音が響いてきた。興奮し、遊歩道へ向かう足も速くなる。
 そして、遊歩道から見えた風景が、こんなのである。

 ・・・言葉にならないのである。「大瀑布」とか「ものすごい」とか「大音響」「地鳴り」「雲のような水飛沫」などど説明しても、おそらく実物の100分の一も伝わらない。イグアスの滝は噂にたがわず、この世のものとは思えぬスケールだ。かのルーズベルト大統領夫人はこの滝を見て、「可哀想な私のナイアガラよ」とつぶやいたという。私も華厳の滝を励ましたくなった。イグアスはキミを100個集めたようなものだから・・・。
 イグアスはアメリカの「ナイアガラ」、ジンバブエの「ビクトリア」と並ぶ世界三大瀑布の一つだが、地球の歩き方には、その中でも最大だというニュアンスで書かれている(はっきりとは書かれていない)。ルーズベルト夫人のエピソードからナイアガラより大きいというのは分かるが、果してビクトリアの滝とではどちらが上なのだろうか。知っている人、ぜひ教えてください。

 しかし、感動するのはまだ早かった。イグアスの滝は幅4キロ、平均落差60メートル。上から見るとJの字になっており、水はJの外側から内側へと落ちている。上のパノラマ写真はJの縦棒の部分で、まだ大人しいところ。一番激しい箇所は「悪魔の喉笛」と呼ばれ、Jの弧の部分だ。
 左の写真の左奥がちょうど「悪魔の喉笛」にあたるのだが、ブラジル側では何とその間近、写真の赤丸で囲まれたところまで遊歩道が伸びている。遊歩道の先は展望台になっているのだが、ここまで行くと滝が生み出す風と水飛沫で、まるで台風の中にいるよう。Tシャツを脱ぎカメラをビニール袋に入れ、決死の覚悟で展望台へ行く。

 そして、そこからびしょ濡れになって撮ったのがこの写真。ゆっくり景色を味わうことのできない激しさ。ホント、シャワーを浴びているみたい。展望台の下も滝になっており、足元から濁流がスローモーションのように落ちて行く。滝の生み出す地鳴りのような響きは常に体を震わしている。
  日光の加減がちょうど良く、滝をどこから見ても虹が出ている。とくにこの「悪魔の喉笛」の展望台からはまん丸の虹が見えた。

 よく「絵葉書のような風景」という表現がある。しかし、イグアスの滝には使えない。この迫力を1枚の写真に収めるのは無理だし、どこの土産物屋で売っている絵葉書よりも実際の景色は美しかった。非常に良い日に来られたと思う。

 興奮の冷めないまま、昼食を挟んでアルゼンチン側へ。イグアス周辺だけを行き来している分には国境での面倒な手続きも必要なく、ほとんどフリーパス状態でアルゼンチンに入国。

 ブラジル側から対岸のアルゼンチンを見たときには、ブラジル側の方が迫力があると思ったが、来てみるとアルゼンチン側も負けず劣らずの大迫力だった。
 アルゼンチン側には、滝の下へ伸びるのと滝の上を渡るのと二本の遊歩道があった。まずは下の方の遊歩道を進むと、ブラジル側の「悪魔の喉笛」の展望台より激しい展望台に出た。先端は立ち入り禁止になっており、その理由がよくわかる。左がそこの写真だが、まるで滝にさらわれそうな勢い。イグアスの滝とは、こんな流れの200〜300個の集合体なのだ。昨日見たイタイプーダムは、イグアスの滝の水量の40倍の排出量があるというが、全く信じられない。
 次に滝の上を渡る遊歩道へ。こちらは迫力というより情緒深い感じで、これも良かった。ただし増水で流されたのか、途中で遊歩道は切れていた。

 夕方までたっぷりとイグアスの滝を味わった。南米のハイライトに数えられる観光名所というのがよく理解できる。こりゃ南米に来たら来なきゃソンだわ。ホント。「エンジェルフォール」も大感動したが、軍配はイグアスに上がるかな。地球の底力をみた一日だったのだ。


出費                     1R  絵葉書
計        1R(約70円)
宿泊         Hotel Village Foz


2000年9月30日(土) 日記を打つ(Writing diary)

 今日は一日、日記を打っていた。 昨日みたいな盛りだくさんな日があると、日記を打つのは大変なのだ。
 日記を打ち終わると、インターネットができる場所を探して街に出た。すると灯台もと暗し、ホテルのすぐ近くにあった。閑散としたカフェだったが、電話会社が経営しているらしくて回線が太く、LAN接続するとものすごい早さでファイルが転送できた。おかげで余計なネット・サーフィンにも手を出し、1時間半もやってしまった。


出費                     8R  ブースターケーブル
            9R  インターネット
計        17R(約1000円)
宿泊         Hotel Village Foz インターネット    Callnet Brazil


2000年10月1日(日) パラグアイでお買物(Shopping in Paraguai)

 今日は国境をバスで越えて、パラグアイへ日帰りで行ってきた。パラグアイ側の国境の町シウダー・デル・エステはフリーポート(税金免除)の町で、買物天国らしいのだ。ただし宿が高いそうなので、本格的なパラグアイ入国は明日に延期し、今日は買物だけしてブラジルに帰ることにしたのだ。

 というと完璧な計画のように聞こえるが、実は大きな盲点があった。今日は日曜、パラグアイ側も商店は軒並み閉まっており、開いていたのは露店くらい。CDを数枚買っただけで、すごすごとブラジルに戻る。

 その後はホテルでホームページの更新を行い、昨日のインターネット屋に行くという大人しい一日となった。

 さて、明日はパラグアイ入国。7月5日に入国したブラジルはちょうど明日、90日のビザが切れる。この国の人はとてもおおらかで、何回も助けられた。バイクでは来る予定が無かったので、牛次郎で来られて本当に良かった。ブラジルは今のところメキシコと並び、私の大のお気に入りの国なのである。


出費                   6US$   CD
            4R  インターネット
計        4R(約235円)
         6US$(約650円)
宿泊         Hotel Village Foz インターネット    Callnet Brazil