旅の日記

ベネズエラ・エンジェルフォール編(2000年7月1〜4日)

2000年7月1日(土) セスナでとボートでギアナの深部へ(The falls of Guayanas)

 今日は夢までに見たエンジェルフォールと対面する日。バイクで走るルートからは外れるものの、いずれは飛行機で飛んできて見るつもりだった。何しろ世界で一番高い滝、滝フェチの私としては外せません。
 ウキウキ気分でシウダード・ボリバルの飛行場へ。待っていたのはパイロットを含め、6人しか乗れない超小型のセスナ機。実はプロペラ機に乗るのも初めてで、こっちも楽しみだった。
 シウダード・ボリバルからエンジェルフォール観光の基地となる村・カナイマまでは約1時間のフライトだが、別途に申し込んだエンジェルフォールの遊覧飛行もそのまま行うという。全部で約2時間弱の飛行時間となる訳だ。我々を乗せたセスナのパイロットは「力士かい?」とツッコミを入れたくなるほど太っていたが、心配をよそに無事、離陸。シウダードボリバルの街がどんどん離れて行った。

 セスナからの眺めは絶景だった。高度1000メートル位を維持して飛ぶので、地上の様子が良く見える。天候にも恵まれ、揺れもほとんど無い。まさに吹けば飛ぶような機体だが、不安は全く無かった。
 約1時間飛んでカナイマの村を通りすぎたあたりから、テーブルマウンテンと呼ばれる周りを絶壁に囲まれた、頂上の平たい山々が見えてきた。世界に名を轟かせる「ギアナ高地」の入り口だ。ベネズエラ、ブラジル、ガイアナの3国にまたがる広大なエリアにこのようなテーブルマウンテンが100以上もあり、大きなものでは頂上の面積が280平方キロ、東京ドーム6000個分にもなるという。絶壁の高さは約1000メートル、頂上は完全に下界と遮断された、まさに陸の孤島。頂上に生息する約4000種類の植物のうち、実に75パーセントが他では見られない固有種だという。限られた範囲で独自に進化を遂げた結果だ。
 セスナはやがて、頂上の面積が70平方キロあるというテーブルマウンテン、アウヤンテプイの絶壁に沿って飛ぶようになった。そしてカナイマを離れて約20分、パイロットの指差す方向を見ると絶壁に一筋の白い線が!おおおー、これぞ落差979メートル、世界一高い滝エンジェルフォールだ!雨季である今、雲が晴れてその全貌が見られるのは幸運に違いない。わざわざ大枚はたいて飛行機に乗っても、雲で覆われて見えないことが多いという。乾季だと晴れることが多いが、逆に水量が少ないので滝そのものの迫力に欠けるらしい。セスナは滝の前を2周し、カナイマへと戻った。滝が見られたのはほんのわずかな時間だったが、それでも40ドル追加したモトは十分に取れた。

 さて、セスナはカラオ川のほとり、カナイマ村の飛行場に無事着陸した。2泊3日のツアーはここから始まるのだ。まずはツアーの説明を受け、昼食タイム。用意されたチキンがたいへんおいしく、単なるヤキトリではなく、燻製した味だった。普通ツアーの食事と言うとおざなりのものが多いが、大変満足できた。
 食後はいよいよボートに乗って出発。エンジェルフォールのふもとまで行くのは明日で、今日はサポ滝というのを見た後、ジャングルの中の小屋で一泊するという。出発するとすぐにアチャの滝という、幅200メートルほどの雄大な滝が見えてきたが、これから行くサポ滝というのはもっとすごいらしい。
 ボートは15人乗りの小さなものだが、結構飛ばすので水しぶきがすごい。10分ほど乗ると、すぐにボートはカラオ川の対岸に着いた。ここから歩いてサポ滝を目指すと言う。

 しばらくジャングルを歩くと、轟音が聞こえてきた。すると突然、茂みの向こうにサポ滝が現れた!道がそのまま滝に飲まれるように、裏側へと続いているのだ。ガイドがいうにはここからは100パーセント、ズブ濡れになるという。荷物を置いてTシャツを脱ぎ、カメラだけをビニール袋に入れて進む。
 サポ滝の幅は200メートルくらいだろうか。はじめはしぶきがシャワーぐらいの強さでかかる程度だったが、しばらく進むと、滝そのものに打たれているくらいの水がかかるようになった。眼鏡は役に立たず、手に持って進む。それでも水が目に入って前が見えない。一時は息も出来ず、恐怖を覚えるほどだった。頼れるのは一本のロープのみ、2メートル先は雨季で水量の増した、まさに大瀑布なのだ。足を滑らせば一巻の終わり。よくこんな所を歩かせるなあ。一番激しいところではロープの2、3メートル先の岩に滝がぶつかっており、その衝撃で逆流した水が、まるで天地逆さまのように 上に向かって登っているのだ。その光景は、言葉では表せないほど不思議だった。

 反対側までズブ濡れになっていくと、茂みの切れ目からようやくサポ滝が表側から見られた。おいおい、こんなのの裏側を通ってきたんかい、と思うほど、激しい滝だ。ガイドがいうには、「ラスト・オブ・モヒカンズ」という映画の撮影がここで行われたらしい。見たことが無いのでわからんが。とにかく、この迫力にはまいった。エンジェルフォールを見にこのツアーに参加したのに、こんな「おまけ」がついてくるとは。いや、こりゃおまけどころの騒ぎじゃない、こんな大瀑布を触れる位の距離で見られ、しかも裏側を通れるなんて、世界中探したって他に無いんじゃないか?

 再び滝の裏側を通り、今度は滝の上へ行く道を登る。すると、ボートはそこで我々を待っていた。ここから今日の宿となる小屋までカラオ川を遡るのだ。このカラオ川の水というのがアイスティーそのものといった、茶褐色をしている。これはジャングルの木々に含まれるタンニンの成分が溶け出しているためらしい。また、滝や流れの激しいところではクリームのように水が泡だっているが、これもタンニンによるものらしい。
 約1時間ほどカラオ川を遡る。途中、雷が鳴り、激しい雨が降ってきた。雨具など持ってこなかった愚かな日本人4人は、ビショ濡れになって震えるのだった。さっき滝で濡れた服がようやく乾いたというのに・・・。
 午後5時ごろ、ようやくツアー会社の所有するジャングルの中のトタン屋根の小屋に到着。床は土で、寝るのはズラリと並んだハンモックで、という簡素な造りだが、大自然に抱かれて泊まるのは楽しそうだ。

 とりあえず濡れた服を着替え、一服すると、すぐに夕食になった。夜はラザニアだったが、これも大変おいしかった。食後はガソリンランタンの灯でしばらくトランプをしていたが、疲れていてすぐに眠くなったのでハンモックに潜る。電気など無い小屋で、時計も見なかったが、おそらく時刻は夜の9時ごろだったと思う。明日は朝6時に起きてエンジェルフォールを目指すそうだ。外ではひどい雨が降っているが、明日は晴れるといいなあ。


出費                  400B  空港利用税
            8000B  国立公園入場料
計        8400B
宿泊         ジャングルの中の小屋


2000年7月2日(日) エンジェルフォールの真下へ(Walking to the Angel Fall)

 朝は寒さで目が覚めた。ギアナ高地といえどここはテーブルマウンテンの下、高度はほとんど無いジャングルの中なのに、ハンモックに毛布1枚では全然暖が足りなかった。干してあったジーンズを触ると、ズシリと重くて冷たい。湿気だけはあるのね・・・トホホ・・・。他に何も無いので仕方なくそのジーンズをはくが、不快この上無し。しかしこれが乾いたズボンであったとしても、全く意味が無いということを後で知るのである。

 朝食を食べ、再びボートに乗りこむ。昨晩の雨が嘘のようにいい天気だ。これは期待できるぞ。
 ボートはカラオ川の支流であるチュラン川を遡った。滝はその先にあるらしい。しかし、チュラン川はカラオ川より
幅が狭く、底が浅い。たまにボートがガリガリと底を擦るほどだ。底が浅いと急流があり、そういったところを遡るとき、きまってものすごい水がボートに入るのだ。これはもう、しぶきというレベルじゃない。まるでバケツでかけられているようだ。こりゃ、濡れたジーンズでも何でも関係なかった。
 途中何箇所か、ここを登るのか、というような急所を通った。船頭はエンジンのパワーを上げ、勢いをつけると、スクリューが岩にぶつからないようにエンジンを上げる。船は惰性で、ガリガリと下を擦りながら岩場を上がるのだ。みんなズブ濡れになったが、拍手喝采の大騒ぎ。まるでラフティングツアーのおまけがついてきたようだ。

 何はともあれ、エンジェルフォールが一望できるという展望台へ続くトレイルの入り口に着いた。ここからはジャングルの中を1時間ほど歩くという。カメラと貴重品だけをビニール袋に入れ、いざ歩きはじめる。
 展望台までのトレイルは、以外にきつかった。途中ぬかるんだところや滑る岩場、木の根っこをつかみながら登るところもあった。トレイルの左右は幾重にも茂った深いジャングル。滝どころか、空さえもほとんど見えない。たまに蟻の巣を見たが、それ以外に哺乳類や鳥は見なかった。深いジャングルなのに、動物は以外に少ないのかもしれない。

  50分ほど歩いたところで、いきなり視界が開けた。そして見上げると、はるか上空、雲の上から川が「落ちて」いる!ここがライメ展望台だ。しばらく待つと雲は晴れ、滝の一番上まで見られるようになった。
 ・・・言葉も無い。写真でも、この感動の10分の1も表現できないだろう。長い間、夢に見ていた世界一の滝が今、目の前にあるのだ。しかも天候、水量ともにこの上無いという条件で。
 時間を忘れて見入っていると、ガイドが先へ進もうと行った。 普通のツアーはここでおしまいなのだが、今日は条件に非常に恵まれているので、滝の真下まで行けるという。ただし、この先は今まで以上に険しい。自信の無い人はここで待つようにとガイドは言ったが、ツアー客は誰一人として残らなかった。

 展望台から先は今までのような悪路に加え、傾斜がひどく急になった。落石の危険があるので、一人ずつでないと上がれないところもあった。しかし、世界一の滝が待っているのだ。汗まみれになって進む。
 もう1時間ほどジャングルの中を登ったが、やがて滝の周辺に広がる草地に出た。ちなみにエンジェルフォールには滝壷というものが無い。あまりにも高すぎて、水は途中で雨となってしまうのだ。その雨は真下の岩場に降りかかり、再び大き流れに集まって下って行く。我々はその岩場のギリギリのところまで進んだ。そこより先は滑りやすく、大変危険で進めないという。ただし、そこでも風向きが変われば、ボトボトと滝の雨が降ってくるのだ。
 我々はテーブルマウンテン、アウヤンテプイの岩肌に触れた。とても固い岩だ。この岩が形成されたのは、もう何億年も前だという。かつて、世界の大陸はゴンドワナという一つの大きな大陸だった。約2億5000万年前に大陸の分裂がはじまり、時間をかけて現在の形になった訳だが、ここギアナ高地はその分裂のほぼ中心に位置していたという。つまり、他の大陸は長い距離を移動したと言うのに、このエリアはほとんど移動せず、何億年、何十億年前の大地がそのまま残ったのだ。やがて風や雨によって柔らかい地盤が侵食され、固い岩盤だけが残ってテーブルマウンテンとなった。平たい頂上ははるか古代、大地であったのだ。かのコナン・ドイルが、このテーブルマウンテンの頂上に恐竜がまだ生息していたという小説「ロスト・ワールド」を書いたのもうなずける。

 はるか上、約1キロ先の滝を見上げている我々に、ガイドは「おめでとう」と言った。実は、今年に入ってここまでたどり着けたのは、我々が最初の組だと言う。ここまで来るのには、得がたい条件が重ならないと来られないらしい。まず、ボートで登ってきたチュラン川の水量が十分にあること。水量が少ないと、途中みんなでボートを降り、歩いたりしなければならない。そうすると、トレイルの入り口に来るまでに時間がかかり、ここまで登る余裕がなくなるのだ。しかし逆に水量が多すぎたり、雨が降っていたりすると、トレイルの状態が悪くなり、また滝の下に降り注ぐ水も多すぎて近づけないという。我々の場合は2日連続で晴天になったが、昨夜降ったあの激しい雨が恵となり、川の水位が上がったのだ。何と言う幸運だろうか。

  しばらくエンジェルフォールの下で過ごした後、我々は来た道を戻り始めた。ツアーは途中、エンジェルフォールの水が川となり、小さな滝になっている場所に寄って水浴びをした。私ははじめ、水着を持っていなかったので躊躇していたが、エンジェルフォールの水に入れる機会などもうないだろうと、パンツ一丁で入る。寒かったが、とても気持ち良かった。

 また1時間ほど下ると、ボートを降りた場所まで来た。そこで遅目の昼食。昨日と同じチキンだったが、またおいしかったので満足。
 小屋までの帰りも、また濡れながら帰る。歩きながら乾したジーンズも、かばんも、またズブ濡れになった。しかし、こうなることは分かりきっていたので、別段ショックでは無かった。

 今日も夕方5時ごろに小屋に戻った。ツナごはんの夕食を食べたあと、またトランプをし、早目に寝る。明日はシウダード・ボリバールに戻るのみだ。


出費         なし
宿泊         ジャングルの中の小屋


2000年7月3日(月) ツアー終了(Goodbye Guayanas)

 昨晩もやはり寒かった。毛布を1枚余分に借りたのだが、それでようやく眠れるくらいだった。
 さて、今日はシウダード・ボリバールに戻るのみ。朝食後、ボートに乗りこみ、カナイマの村目指してカラオ川を下る。川を遡った行きと比べて水しぶきは少ないだろうと予想していたが、それでも船頭は容赦無く急流に突っ込み、最後の最後でまたビショ濡れとなった。あと少しでカナイマ到着だったのに・・・。
 カナイマの村はずれにボートは到着し、そこから空港までは約20分歩いた。空港で約1時間ほど待たされ、ようやく来た迎えのセスナでシウダード・ボリバールへ飛ぶ。最終日も天候に恵まれ、セスナからの景色は行きと同様に良かったが、みんな疲れて寝ていた。

 シウダード・ボリバールに無事到着し、空港に停めてあった牛次郎に乗ってホテル・カラカスに戻る。ギアナ高地の涼しさがウソのように蒸し暑い。ホテルにチェックインしたあとは、ひたすらパソコンに向かって日記を打つ。明日、ブラジルに向かって出発したいので、がんばってギアナ高地の日記を書き上げ、アップロードした。さあ、これで心残りは無い。再び牛次郎との生活が始まる。


出費                 1000B  船頭へのチップ
            2350B  昼食(炒飯)
            350B  ビール
            300B  アイス
            3500B  宿代
計        6600B
宿泊         Hotel Caracas
インターネット    Hotel Caracas


2000年7月4日(火) 大激走(A long ride down)

 今日は、メチャクチャ走った。久しぶりの大激走、牛次郎も私も限界まで走ったのだ・・・。

 朝、シウダード・ボリバールを出発したのは午前10時ごろだった。そこからシウダード・ギアナを経由し、ひたすら南へ。途中検問が1回あり、係官がしつこくて頭に来た。
 暗くなっても、緑の中の一本道を飛ばす。夜9時ごろだと思うが、グラン・サバナという高原の入り口の町で給油と夕食を済ませる。次の町あたりでガソリンスタンドを見つけて泊まろうと思ったのだが、その先、グラン・サバナに入ると、ガソリンスタンドどころか、民家さえも見当たらなくなった。
 夜のグラン・サバナは霧雨が降っていて寒く、道もところどころ穴があって神経を使った。早く泊まりたかったが、いっこうに町は見えない。最後に給油してから約250キロ走ったあたり、暗闇の中にポツンと検問があった。次のガソリンスタンドを聞くと、45分走ったベネズエラ最後の町サンタエレナ・デ・ウアイレンにあるという。ありゃ、もう国境近くまで来てしまったのか。そういえば、空も白みかけているような・・・。通りで眠いはずだ。
 サンタエレナ・デ・ウアイレンまでがんばって走り、ガソリンスタンドを見つけるが、残念ながら閉まっていた。仕方なく、その前に駐車して眠る。今日だけで約700キロは走った。何せ、18時間は走っていたから・・・。


出費                  300B  ジュース
            650B  夕食(エンパナーダ)
            300B  ジュース
計        1250B
宿泊         スタンド前に停めた牛次郎