朝は寒さで目が覚めた。ギアナ高地といえどここはテーブルマウンテンの下、高度はほとんど無いジャングルの中なのに、ハンモックに毛布1枚では全然暖が足りなかった。干してあったジーンズを触ると、ズシリと重くて冷たい。湿気だけはあるのね・・・トホホ・・・。他に何も無いので仕方なくそのジーンズをはくが、不快この上無し。しかしこれが乾いたズボンであったとしても、全く意味が無いということを後で知るのである。
朝食を食べ、再びボートに乗りこむ。昨晩の雨が嘘のようにいい天気だ。これは期待できるぞ。
ボートはカラオ川の支流であるチュラン川を遡った。滝はその先にあるらしい。しかし、チュラン川はカラオ川より
幅が狭く、底が浅い。たまにボートがガリガリと底を擦るほどだ。底が浅いと急流があり、そういったところを遡るとき、きまってものすごい水がボートに入るのだ。これはもう、しぶきというレベルじゃない。まるでバケツでかけられているようだ。こりゃ、濡れたジーンズでも何でも関係なかった。
途中何箇所か、ここを登るのか、というような急所を通った。船頭はエンジンのパワーを上げ、勢いをつけると、スクリューが岩にぶつからないようにエンジンを上げる。船は惰性で、ガリガリと下を擦りながら岩場を上がるのだ。みんなズブ濡れになったが、拍手喝采の大騒ぎ。まるでラフティングツアーのおまけがついてきたようだ。
何はともあれ、エンジェルフォールが一望できるという展望台へ続くトレイルの入り口に着いた。ここからはジャングルの中を1時間ほど歩くという。カメラと貴重品だけをビニール袋に入れ、いざ歩きはじめる。
展望台までのトレイルは、以外にきつかった。途中ぬかるんだところや滑る岩場、木の根っこをつかみながら登るところもあった。トレイルの左右は幾重にも茂った深いジャングル。滝どころか、空さえもほとんど見えない。たまに蟻の巣を見たが、それ以外に哺乳類や鳥は見なかった。深いジャングルなのに、動物は以外に少ないのかもしれない。
50分ほど歩いたところで、いきなり視界が開けた。そして見上げると、はるか上空、雲の上から川が「落ちて」いる!ここがライメ展望台だ。しばらく待つと雲は晴れ、滝の一番上まで見られるようになった。
・・・言葉も無い。写真でも、この感動の10分の1も表現できないだろう。長い間、夢に見ていた世界一の滝が今、目の前にあるのだ。しかも天候、水量ともにこの上無いという条件で。
時間を忘れて見入っていると、ガイドが先へ進もうと行った。 普通のツアーはここでおしまいなのだが、今日は条件に非常に恵まれているので、滝の真下まで行けるという。ただし、この先は今まで以上に険しい。自信の無い人はここで待つようにとガイドは言ったが、ツアー客は誰一人として残らなかった。
展望台から先は今までのような悪路に加え、傾斜がひどく急になった。落石の危険があるので、一人ずつでないと上がれないところもあった。しかし、世界一の滝が待っているのだ。汗まみれになって進む。
もう1時間ほどジャングルの中を登ったが、やがて滝の周辺に広がる草地に出た。ちなみにエンジェルフォールには滝壷というものが無い。あまりにも高すぎて、水は途中で雨となってしまうのだ。その雨は真下の岩場に降りかかり、再び大き流れに集まって下って行く。我々はその岩場のギリギリのところまで進んだ。そこより先は滑りやすく、大変危険で進めないという。ただし、そこでも風向きが変われば、ボトボトと滝の雨が降ってくるのだ。
我々はテーブルマウンテン、アウヤンテプイの岩肌に触れた。とても固い岩だ。この岩が形成されたのは、もう何億年も前だという。かつて、世界の大陸はゴンドワナという一つの大きな大陸だった。約2億5000万年前に大陸の分裂がはじまり、時間をかけて現在の形になった訳だが、ここギアナ高地はその分裂のほぼ中心に位置していたという。つまり、他の大陸は長い距離を移動したと言うのに、このエリアはほとんど移動せず、何億年、何十億年前の大地がそのまま残ったのだ。やがて風や雨によって柔らかい地盤が侵食され、固い岩盤だけが残ってテーブルマウンテンとなった。平たい頂上ははるか古代、大地であったのだ。かのコナン・ドイルが、このテーブルマウンテンの頂上に恐竜がまだ生息していたという小説「ロスト・ワールド」を書いたのもうなずける。
はるか上、約1キロ先の滝を見上げている我々に、ガイドは「おめでとう」と言った。実は、今年に入ってここまでたどり着けたのは、我々が最初の組だと言う。ここまで来るのには、得がたい条件が重ならないと来られないらしい。まず、ボートで登ってきたチュラン川の水量が十分にあること。水量が少ないと、途中みんなでボートを降り、歩いたりしなければならない。そうすると、トレイルの入り口に来るまでに時間がかかり、ここまで登る余裕がなくなるのだ。しかし逆に水量が多すぎたり、雨が降っていたりすると、トレイルの状態が悪くなり、また滝の下に降り注ぐ水も多すぎて近づけないという。我々の場合は2日連続で晴天になったが、昨夜降ったあの激しい雨が恵となり、川の水位が上がったのだ。何と言う幸運だろうか。
しばらくエンジェルフォールの下で過ごした後、我々は来た道を戻り始めた。ツアーは途中、エンジェルフォールの水が川となり、小さな滝になっている場所に寄って水浴びをした。私ははじめ、水着を持っていなかったので躊躇していたが、エンジェルフォールの水に入れる機会などもうないだろうと、パンツ一丁で入る。寒かったが、とても気持ち良かった。
また1時間ほど下ると、ボートを降りた場所まで来た。そこで遅目の昼食。昨日と同じチキンだったが、またおいしかったので満足。
小屋までの帰りも、また濡れながら帰る。歩きながら乾したジーンズも、かばんも、またズブ濡れになった。しかし、こうなることは分かりきっていたので、別段ショックでは無かった。
今日も夕方5時ごろに小屋に戻った。ツナごはんの夕食を食べたあと、またトランプをし、早目に寝る。明日はシウダード・ボリバールに戻るのみだ。
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