今日こそはマトリクラを書き換えてもらって名義を変更せねば、と早起きして昨日の修理工場へ行き、車を引き取る。そこから陸運局は近いが、行くとすでに長蛇の列が出来ていた。どれだけ待つかわからないが、並ぶより仕方がない。
列の進み方は非常に遅かった。退屈した運転手は車を置いてどこかへ行ってしまうが、その間に列が進むと、後続の車は容赦無く抜かして進む。なぜなら、ちょっとでも隙間ができると、モラルの無い車がすぐに横入りするからだ。ラテン社会で列に並ぶのは、本当に油断もすきもない。
一時間ほど待つと、一気に列が進んだ。どうやら、まとまった台数ずつ見ているらしい。しかし惜しくも我々の前の車で、その回の入場は締めきられた。
今日も昼休みになってしまうか、と心配したが、もう20分ほどで無事、陸運局の敷地に入ることが出来た。1回に入場できるのは約30台、入った車はみんなボンネットを開け、車体番号やエンジン番号のチェックに備えた。やがて1人の女性担当官がやってきて、
我々のバンのエンジン番号と車体番号を書類と照合した。 そして番号の刻印にカーボンを擦り付け、そこにセロテープを貼って番号を浮き彫りにし、新しい書類に貼りつけた。特に不備は無いらしい。あとはその書類を窓口に持って行けば、新しいマトリクラがもらえるという。
しかし、そこまで進んで陸運局は昼休みになった。仕方なしに近くのショッピングモールSSIへ行って、旅のための買物をする。みんなでこれを買おう、あれも買おうと相談していると、本当にわくわくしてきた。
買物の合間に、モールの中にあるインターネットカフェ「NetPlace」へ行く。ここは料金は高いが、回線がとても速いのでたまに利用していた。しかし、今日はいくらやっても繋がらない。LANには繋がるのだが、インターネットやメールが出来ないのだ。良く見ると、新たにプロキシサーバーを利用する設定になっていた。つい最近、変更したらしい。何だ、余計なことしちゃって。おかげで接続ができなくなってしまったではないか。
買物が済むと、陸運局に戻る。新しいマトリクラの作成にはウメ夫妻に行ってもらい、その間私と猪飼さんは外で待っていた。バンの名義は、ウメさんにしたのだ。私の場合はバイクもあり、どこまで一緒に旅できるかちょっと分からないし、猪飼さんも長い旅の終盤に差し掛かっており、費用の面で同様。ウメさんが一番適当だったのだ。
書類は揃っていたので、すぐに新しいマトリクラを発行してくれるかと思ったが、陸運局の外で待っていた我々のもとにウメ夫妻が戻ってくるまで、約2時間もかかった。何でも日本人がマトリクラを取りに来るのは初めてに近いらしく、大変珍しがられたそうだ。
本当は今日、後部に敷くマットレスなどの大きな買物を済ませたかったが、ウメさんの名前の入ったマトリクラが出来たのは夕方5時前。そのまま朝教えてもらった、カルロスの家に車を置きに行く。
カルロスの家はキト郊外の丘の上にあった。給料が安いと騒いでいる割にはとても立派な家だった。庭も広く、なるほど、これなら二つ返事で車を置いたり、バイクを置いたりすることをOKしてくれるはずだ。
しかし、カルロスの家の前は急な坂で、草やコケが生えたガタガタの石畳。さらに小雨が降っており、路面はツルツルだった。バンで登ろうと挑むが、タイヤが滑ってなかなか登らない。坂の下からカルロスの家まで約30メートル、思いっきり助走をつけて突っ込むと、何とか門までたどり着いたが、狭い道路から門に入る角度を誤り、右側を門の壁にこすってしまった。購入三日目で早くも初クラッシュ。ちょっとバックし、角度を戻すが、そこから発進するのは無理だった。タイヤが全くグリップしないのだ。結局、坂の下まで降りてやり直すのだが、この坂を下るのも恐怖。バンのブレーキは重く、渾身の力を込めて踏まないと勝手に下がっていく。足がつりそうになったのでギヤを1速に入れ、ブレーキを緩めると、それでもバンは坂を下がりはじめた。ちなみに、このバンにはサイドブレーキというものが無い。
2回目のトライ。この頃には足はパンパンに張っていた。助走をつけて坂を登る。タイヤは白煙を上げている。さっきよりも大回りに門に入り、無事カルロスの庭に到着!アメリカの国立公園の4WDコースをジープで走ったよりも、100倍難しかった。車体が重く、2WDになっているため、登坂能力やトラクション能力が極端に悪いのだ。これで本当にアマゾンやボリビアを越えられるのだろうか・・・。そこらへんの乗用車の方がよっぽど悪路の走破性があるぞ。
何はともあれ、カルロスの庭にバンを置かせてもらう。そこには小屋もあり、車で旅している間、バイクはそこに入れておいて良いという。屋根もしっかりしているし、願っても無い置き場所だ。
しかし、問題が一つあった。カルロスは犬を一匹飼っているが、この犬がデカく、しかも盛りがつきっぱなし。男と見ると、ものすごい勢いで飛びかかってきて抱きつくのだ。ウメさん、猪飼さんとともに逃げ回る。泥だらけの足で抱きつくので、洋服が大変汚れるのだ。そして倒されるほど力も強い。かわいいが、ちょっと恐い。
カルロスの家でコーヒーとサンドイッチをごちそうになり、午後7時ごろ、バスに乗って宿の方に帰る。私はそのまま、1人で新市街へインターネットをしに行った。昼間できなかったのがくやしかったのだ。
さて、明日はバイクをカルロスの家に持っていく予定。愛車とのしばしのお別れだ・・・。
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