旅の日記

エクアドル・キト編その8(2000年6月8〜10日)

2000年6月8日(木) 名義変更( Chainging the ownership)

 今日こそはマトリクラを書き換えてもらって名義を変更せねば、と早起きして昨日の修理工場へ行き、車を引き取る。そこから陸運局は近いが、行くとすでに長蛇の列が出来ていた。どれだけ待つかわからないが、並ぶより仕方がない。
 列の進み方は非常に遅かった。退屈した運転手は車を置いてどこかへ行ってしまうが、その間に列が進むと、後続の車は容赦無く抜かして進む。なぜなら、ちょっとでも隙間ができると、モラルの無い車がすぐに横入りするからだ。ラテン社会で列に並ぶのは、本当に油断もすきもない。

  一時間ほど待つと、一気に列が進んだ。どうやら、まとまった台数ずつ見ているらしい。しかし惜しくも我々の前の車で、その回の入場は締めきられた。
 今日も昼休みになってしまうか、と心配したが、もう20分ほどで無事、陸運局の敷地に入ることが出来た。1回に入場できるのは約30台、入った車はみんなボンネットを開け、車体番号やエンジン番号のチェックに備えた。やがて1人の女性担当官がやってきて、 我々のバンのエンジン番号と車体番号を書類と照合した。 そして番号の刻印にカーボンを擦り付け、そこにセロテープを貼って番号を浮き彫りにし、新しい書類に貼りつけた。特に不備は無いらしい。あとはその書類を窓口に持って行けば、新しいマトリクラがもらえるという。

 しかし、そこまで進んで陸運局は昼休みになった。仕方なしに近くのショッピングモールSSIへ行って、旅のための買物をする。みんなでこれを買おう、あれも買おうと相談していると、本当にわくわくしてきた。
 買物の合間に、モールの中にあるインターネットカフェ「NetPlace」へ行く。ここは料金は高いが、回線がとても速いのでたまに利用していた。しかし、今日はいくらやっても繋がらない。LANには繋がるのだが、インターネットやメールが出来ないのだ。良く見ると、新たにプロキシサーバーを利用する設定になっていた。つい最近、変更したらしい。何だ、余計なことしちゃって。おかげで接続ができなくなってしまったではないか。

 買物が済むと、陸運局に戻る。新しいマトリクラの作成にはウメ夫妻に行ってもらい、その間私と猪飼さんは外で待っていた。バンの名義は、ウメさんにしたのだ。私の場合はバイクもあり、どこまで一緒に旅できるかちょっと分からないし、猪飼さんも長い旅の終盤に差し掛かっており、費用の面で同様。ウメさんが一番適当だったのだ。
 書類は揃っていたので、すぐに新しいマトリクラを発行してくれるかと思ったが、陸運局の外で待っていた我々のもとにウメ夫妻が戻ってくるまで、約2時間もかかった。何でも日本人がマトリクラを取りに来るのは初めてに近いらしく、大変珍しがられたそうだ。

 本当は今日、後部に敷くマットレスなどの大きな買物を済ませたかったが、ウメさんの名前の入ったマトリクラが出来たのは夕方5時前。そのまま朝教えてもらった、カルロスの家に車を置きに行く。
 カルロスの家はキト郊外の丘の上にあった。給料が安いと騒いでいる割にはとても立派な家だった。庭も広く、なるほど、これなら二つ返事で車を置いたり、バイクを置いたりすることをOKしてくれるはずだ。
 しかし、カルロスの家の前は急な坂で、草やコケが生えたガタガタの石畳。さらに小雨が降っており、路面はツルツルだった。バンで登ろうと挑むが、タイヤが滑ってなかなか登らない。坂の下からカルロスの家まで約30メートル、思いっきり助走をつけて突っ込むと、何とか門までたどり着いたが、狭い道路から門に入る角度を誤り、右側を門の壁にこすってしまった。購入三日目で早くも初クラッシュ。ちょっとバックし、角度を戻すが、そこから発進するのは無理だった。タイヤが全くグリップしないのだ。結局、坂の下まで降りてやり直すのだが、この坂を下るのも恐怖。バンのブレーキは重く、渾身の力を込めて踏まないと勝手に下がっていく。足がつりそうになったのでギヤを1速に入れ、ブレーキを緩めると、それでもバンは坂を下がりはじめた。ちなみに、このバンにはサイドブレーキというものが無い。
 2回目のトライ。この頃には足はパンパンに張っていた。助走をつけて坂を登る。タイヤは白煙を上げている。さっきよりも大回りに門に入り、無事カルロスの庭に到着!アメリカの国立公園の4WDコースをジープで走ったよりも、100倍難しかった。車体が重く、2WDになっているため、登坂能力やトラクション能力が極端に悪いのだ。これで本当にアマゾンやボリビアを越えられるのだろうか・・・。そこらへんの乗用車の方がよっぽど悪路の走破性があるぞ。

 何はともあれ、カルロスの庭にバンを置かせてもらう。そこには小屋もあり、車で旅している間、バイクはそこに入れておいて良いという。屋根もしっかりしているし、願っても無い置き場所だ。
 しかし、問題が一つあった。カルロスは犬を一匹飼っているが、この犬がデカく、しかも盛りがつきっぱなし。男と見ると、ものすごい勢いで飛びかかってきて抱きつくのだ。ウメさん、猪飼さんとともに逃げ回る。泥だらけの足で抱きつくので、洋服が大変汚れるのだ。そして倒されるほど力も強い。かわいいが、ちょっと恐い。

 カルロスの家でコーヒーとサンドイッチをごちそうになり、午後7時ごろ、バスに乗って宿の方に帰る。私はそのまま、1人で新市街へインターネットをしに行った。昼間できなかったのがくやしかったのだ。
 さて、明日はバイクをカルロスの家に持っていく予定。愛車とのしばしのお別れだ・・・。


本日の走行距離         0キロ(計24060.3キロ)

出費                 15000S  朝食(サンドイッチ)
60000S  宿×3(バイク用)
6000S  バス
5000S  トロリー
50000S  昼食(中華)
15000S  インターネット
17900S  夕食(ハンバーガー)
22000S  タクシー
計        190900S
宿泊         Hostal Sucre バイクの置き場     Hotel Capitalino
インターネット    The Magic Roundabout Hostal


2000年6月9日(金) さよならDR( Leaving the bike)

 今朝はわが愛車、DR800Sをカルロスの家に持っていった。バンで旅している間、そして日本へ一時帰国している間の数ヵ月、預かってもらうためだ。乗るのは2週間ぶりだが、それでもエンジンは一発で始動した。今までバイクを置いていたHotel Capitalinoは陰気な感じで、あやしそうな宿泊客が多いが、バイクは無事だった。結局、このホテルでは私自身は一泊もしなかった。
  カルロスの家までの道のりは険しい坂を登るが、DRは大変調子が良かった。カナダからここまで24000キロ以上走ったが、エンジン、車体ともすこぶる調子がいい。何か、早く走りだそうよ、とDRが言っているようで、ちょっと罪の意識を感じた。
 カルロスの家の庭には小屋があり、DRはそこに入れさせてもらった。テントやスペアパーツ、ヘルメットなど、今後使わない荷物も置かせてもらった。ここなら雨もしのげるし、安全だし、置いていくには言う事なしの条件だ。DRよ、必ず戻ってくるから。そしたらウシュアイアを目指そう。

 その後は、みんなとバンの改造にとりかかった。バンの後部には3列の座席があるが、そのうち前の2列を取り外し、一番後ろの長い座席を前にずらした。こうすると後部にまとまったスペースができ、前にずらした座席でも一人、横に眠れる。走っているときはそこに座っていてもいい。ずらした座席はボルトで固定する必要があったのだが、下に敷いてある鉄板が厚く、カルロスの家にあった電動ドリルでは穴をあけるのが難しかった。この作業はウメさんと猪飼さんが担当したが、結局少し開いた穴にボルトをカナヅチで叩きこむしかなかった。あとは針金ででも固定すれば大丈夫だろう。
 後部のスペースには、厚さ10センチほどのスポンジを全面に敷いた。そしてその上から生地屋で買ったビロード(けっこういい値段した)を敷くと、ホテルのベッドと比べても劣らないほど寝心地のいいベッドとなった。このベッドで縦に3人は眠れる。前の座席と合わせると、4人は問題なく寝泊りできるようになった。

 今日の作業は、ここまででおしまい。明日からは整備と、外装をいじらなければ。


本日の走行距離      17.5キロ(計24077.8キロ)

出費                 11500S  朝食(サンドイッチ)
15000S  昼食(定食)
19900S  ハンバーガー
21000S  夕食(スクレ食、トンカツ!!)
5000S  ビール
計        72400S
宿泊         Hostal Sucre


2000年6月10日(土) カルロスの家を破壊する (Destroying a friend's house)

 今日はバンを整備工場に持っていき、出発前の総点検をしてもらうことにした。
 おととい、大変苦労してカルロスの庭に入れたが、今日出る時はそれ以上に苦労した。バンをバックさせ、庭で方向転換してから出ようと思ったのだが、今度は庭でスタックした。傾斜などほとんどないのに、タイヤが空回りして全然グリップしないのだ。仕方なくみんなで押しながら、何回も何回も切り返す。
 しかし、やればやるほど、深みにはまっていった。カルロスの家の庭には木が数本生えているが、犬がいたずらしないようにブロックの塀で囲まれている。バンはいつしか、その塀に接近していった。ハンドルが非常に重たく、何回も切り返すうちに疲れたのでカルロスに代わってもらったが、この男、みんなが「止まれ!!」と言っているのにバックしつづけ、自分の庭のブロック塀を破壊してしまった。その他にも洗濯物を干すための柱が庭に埋まっていたが、それも引っこ抜かなければならなくなった。しまいには木にも激突し、樹皮を痛々しくはがしてしまった。しかし、エクアドル人は心が広い。カルロスも、家族も、みんなこの状況を笑っていた。塀が壊れても、ノープロブレマーだそうです。結局バンが庭を出るまでには30分はかかり、庭はあちこちがタイヤで掘られ、塀は壊れ、木は倒れ、まるでゴジラが通った後のようだった。

 さて、何とかカルロス邸を出て整備工場に行くが、仕事がたまっていて、今日は無理だと言う。月曜の朝一番で見るというので、来る事を約束して工場を後にする。早く出発したいが、かなりのボロなので見てもらわないと心配だ。カルロスによるとその工場は優秀だそうで、信頼できそうだ。

 収穫もなく、カルロスの家に戻るが、庭に入れるのにまたまた苦労した。おとといのように雨は降っていないものの、やはり家の前の坂ではタイヤが滑り、2回目のトライでやっとたどり着いた。庭に入れた状態そのままで置いておきたかったが、カルロスがどうしても車の向きをまっすぐにしたいらしく、また切り返しを始めた。すると、また深みにはまり、結局みんなで押しながら切り返しを何回もすることになった。積みなおしたブロック塀もまた壊してしまった。しかしバンはびくともしない。重いだけあって、鉄板は厚いようだ。

 カルロスの家を後にし、我々はショッピングモール「SSI」の中のホームセンター、「ACE」へ行った。バンをペイントするための塗料を買うためだ。しかし、塗料の品揃えが思ったより悪い。金属専用の塗料は売ってなく、インテリア/エクステリア兼用のホームペイントしか無かった。まあ、どうせそんなにきれいには塗れないから、これでいいか。
 我々が欲しかったのは黒だが、並んでいるのはなぜか白だけ。他の色は無いのか、と見ていると、他の客が店員にピンクの塗料を注文した。すると店員は白の塗料缶のフタを開け、それに機械で赤を注入した。そして隣にあった機械にその缶を入れると、機械はその缶を激しく振動させ、色を混ぜるのだ。30秒ほど激しく振られた缶を開けると、客の注文どおり塗料はピンクになっていた。このシステム、一見画期的に見えるが非常に大掛かりで時間もかかる。何色かは用意しとけよ。
 黒もできるというので作らせると、何と黒も白の塗料から作り出した。おいおい、白にいくら黒加えたって灰色にしかならないだろう、というが、大丈夫だという。 店員は白の缶に黒を少し混ぜ、振動機に入れる。そして30秒後・・・、フタを開けると薄い灰色。そりゃそうだろう!店員はこの方法を何回か繰り返したが、塗料は一向に黒くならず、缶はそれ以上塗料を加えられないくらい一杯になった。店員は仕方なく他の缶に半分うつし、また黒を加える作業を繰り返すが、灰色が若干ずつ黒くなるだけ。こりゃホットミルクにコーヒーを加え、ブラック・コーヒーを作るようなものだ。加えている方の黒だけくれ、というが、加える方の塗料は濃くて高いらしい。20分ほど待って店員が出来たというので見ると、やはりどうみても普通の灰色。しかし、店員は塗料まみれになって誇らしげに「黒になったろう」と言ってるし、疲れてきたし、もうその色で妥協する。この色でもなんとかなるでしょう。

 その後は新市街の中華屋で夕食を食べて帰る。あいかわらず新市街は白人旅行者でいっぱいだ。この光景とも、近々お別れになる。


本日の走行距離      次にバイクで走り出すまで、この欄はお休みします
           (ちなみにバンには距離計はありません・・・)
出費 20500S  朝食(サンドイッチ)
9000S  バス
35000S  昼食(ハンバーガー)
40000S  夕食(中華)
15000S  インターネット
10000S  タクシー
計        129500S
宿泊         Hostal Sucre インターネット    The Magic Roundabout Hostal