旅の日記

コスタリカ・アレナル火山編(2000年4月17〜19日)

2000年4月17日(月) 「中米のスイス」入国(Switzerland of Centro America)

 朝8時半ごろにマナグアを後にするが、すでに暑い。マサヤという町を経由し、中米最大の淡水湖ニカラグア湖の南側へ。
 ニカラグア湖はあの琵琶湖よりも大きいマナグア湖のさらに何倍もの大きさなので、水は濁ってはいるもののそんなに汚くはない。風が強いので海のように波がたち、向こうには淡水湖の島としては世界最大のオメテベ島が見えた。オメテベ島は二つの火山からなる島で、横から見るとフタコブラクダのように見える。両方の頂からは噴煙が上がっていて見事だった。島にはフェリーで渡れるので行こうかどうか迷ったが、本格的な雨季になる前にコスタリカを見たかったのでパスすることにした。
 そして左手に島を見ながら南下を続けるうち、道の上をツバメのような鳥がものすごい数で群れをなし、飛んでいる所に出た。かなり低く飛んでいるので、ぶつかりそうで恐い。その時、ピシャッと全身、雨に打たれたような感覚があった。そして目の前が暗くなった。比喩で言っているのではない、本当に暗くなったのだ。見ると無数の羽虫の死骸がヘルメットのシールド一面にこびり付いている。ギャー、さっきの雨に打たれた感覚は、ものすごい羽虫の群れに突っ込んだ時のものだったのだ。サイドケースにはさらに多くの死骸が付いていて、気持ち悪い。あの鳥たちはこの虫を狙ってたのか。
 虫の騒動が終わると、すぐにコスタリカとの国境についた。ニカラグア側の建物はきれいで、手続きも簡単。途中雨に降られたが、ギアの世話になることもなく無事出国。ゲートを通るのに12.5c、出国税で25cかかった。
 コスタリカ側に渡ると、まずバイクを消毒してもらい、次にイミグレの列に並んだ。入国希望者が狭い建物の中で列をなしていて大変な混雑だ。並んでいる間に両替を済ませ(1コルドバ=25コロン)、スタンプをもらった後に隣の車両の受付へ。すると12時から1時半まで昼休みとのことで、窓口は閉まったばかりだった。
 仕方なくレストランで昼食を食べながら待ち、窓口に戻って開くのを待っていると、グアテマラのBMWミーティングで一緒だったエルサルバドル在住のアメリカ人がやってきた。今度はセマナ・サンタ(聖週間)の休暇で、会社の仲間とコスタリカに車で来たらしい。彼もこれから手続きをするが、書類一式のコピーが必要で、しかもコスタリカ側は今停電でコピーが取れないから、ニカラグアまで戻らなくてはならないという。彼の仲間がコピーを一緒に取ってきてくれるというので、お願いした。これで彼が現れなかったら、さんざん待ったあげくにニカラグアまで戻るハメになっていた。良かった。
 1時半よりも大分早く窓口は開いた。取ってもらったコピーを提出するが、停電なのでこの書類の処理ができないという。15分ほど待ってようやく電気が復旧し、ペルミソを打ってもらう。手数料はかからなかったが、1ヵ月分の保険に加入させられた。手続きは10分ほどでおしまい。やっぱこれくらい簡単にしなきゃ。
 午後2時前に国境を後にし、一路南へ。実は今日、どこへ行こうかまだ決めていなかった。ニコヤ半島方面へ行ってビーチを探すか、それともアレナル火山の方へ行くか・・・。さんざん迷い、ビーチはこれからもあるだろうから、アレナル火山を目指した。コスタリカでも最も活発に活動している火山で、観光の名所にもなっているのだ。
 パンアメリカンハイウェイをそれ、アレナル湖をぐるりと回る。標高はどんどんあがり、だいぶ涼しくなってきた。空は厚い雲が覆い、今にも降り出しそうだ。まわりの景色も緑が多くなり乳牛がモーモー泣いていて、リゾート地のために英語の看板やコテージ風の建物が目立つ。コスタリカは永世中立という立場を貫いており「中米のスイス」ともいわれるが、まるで本当のスイスのような景色だ。さっきまでクソ暑いニカラグアだったのに、この急激な変化はすごい。
 湖のまわりの細い道はところどころが未舗装で、アレナル火山観光の基地となるフォルツーナの町までの約100キロはたっぷり2時間半かかった。午後5時半ごろにようやく到着、疲れていたので最初に見つけた宿にそのまま入る。
 町には3ヵ所インターネットができるところがあったが、いずれも1分50コロン(2ドル弱!)というバカ高さなので、自分のPCがつなげるかどうか聞くまでもなくあきらめる。どうやら首都サンホセまでネット接続は無理なようだ。

本日の走行距離    361.5キロ(計22620.4キロ)

出費                    86c  ガソリン
                         8c   ジュース
                      37.5c  出国費用(出国税など)
                         5c   見張りにチップ
                       650c  昼食(ハンバーガー)
                      6100c  強制保険(1ヵ月)
                      3000c  宿
                      1000c  夕食(スパゲティ)
                       416c  パン、水
計                   136.5c
          11166c(1米ドル=300コロン)  

宿泊          Cabinas Hervi



2000年4月18日(火) 温泉三昧(Hot baths all day)

 泊まったホテルは少々値がはるものの、清潔な部屋に広いベッドでぐっすりと寝られた。朝起きてアレナル火山を見るが、あいかわらず上半分は厚い雲で隠れている。火山は溶岩がはっきりと見えるナイトツアーで見るのがよろしいそうなので、昼間は温泉へ行く事にする。火山あるところ温泉あり、なのだ。夜までに晴れればいいが。
 町を後にし、向かった先は「タバコン・リゾート」。大小の温水プールが揃っており、地元の人にも人気だと言う。そういえば昨日、通ってきた道沿いにあったなあ。
 町からは約10分ほどで到着。入場料4850コロンは少々高いが、温泉のためには日本人ならこんな金額などいとまないのだ。さらに3000コロンのデポジットを払ってタオルとロッカーを借りる。いざ水着になってプールサイドへ突撃すると、高いだけあってまわりの庭なんかもよく手入れされていて、高級感が漂う。家族連れに人気というので、もう少し遊びの部分、例えば滑り台とか流れるプールとかがあるのかと思ったら、メインのプールに小さな滑り台と、打たれるための滝があるだけで、他はお金持ちがのんびりくつろぐため、というような大人しい雰囲気だ。規模も思ったよりも小さく、ちょっと残念。しかし大枚はたいたのだから、元をとるためにのんびりつかる。
 午前11時には行き、出たのが午後2時過ぎだから、たっぷり3時間はお湯につかったろう。滑り台でも遊び、少しは泳いだが、こういう時は一人なのでつまらない。久美子がいたらなあ。腹が減ってきたがここでは高いので、町へ戻ることにする。
 レストランで昼食を食べたあとは、アレナル火山のナイトツアーへ申し込んだ。火山を見るだけでいいのに温泉も行くというので、濡れた水着を持って行く。午後5時になっていざツアーが始まったが、まだ火山が雲で覆われているので、帰りに寄るはずだった温泉に先に行き、晴れるのを待つという。
 それで火山への入り口にある「ロス・ラゴス」という温泉へ。お湯は少しぬるかったが、ここは昼の「タバコン」よりも庶民的で、長い滑リ台などがあった。ここはデッキチェアなどもなく、あってももう暗いので、ずっと泳いでいるほか無かった。1時間ほどいただろうか、ガイドがそろそろ行こうというので、着替えてバスに乗りこむ。
 「ロス・ラゴス」から火山が見える展望台までは険しい登り道。舗装などなく、石がゴロゴロの凸凹道をバスは登る。いざ展望台に着くが、まっくらで何も見えない。本当はここから赤い溶岩が見えるというが、やはり雲は晴れなかった。ガイドは親切にも明日時間がある人にはもう一回タダで連れてきてあげる、というので、明日また来る事にした。ツアー客の半分は明日町を発つというので参加は無理だという。かわいそうに。ただし、展望台のまわりには蛍がたくさんいて、チカチカと光を放っていてきれいだった。
 ツアーは町へ戻って解散、夕食を食べに一軒のレストランに入ったら、さっきのツアーガイドと客5人がいっしょにメシを食べているのでご一緒させてもらう。ツアー客はみんな若者で、イギリス人の女の子とアメリカ人の男性、そしてスペイン語で説明されたためにベルギーかルクセンブルグだか分からないが、「フランスの上の国」から来た女の子二人と男の子一人の三人組だった。三人組はスペイン語は話せるものの英語はほとんどだめで、イギリスからの女の子と私はスペイン語が話せない。しかもそのイギリス人の女の子は、一応英語が話せるもののあまり得意でないガイドや三人組にもイギリスなまりの英語でペラペラと話し(聞きやすく話すという努力をしない)、「中米の人でも最近英語を学ぶ人はアメリカ人から学ぶから、みんな正しい英語と言うものを知らない」とかいう始末。21歳だというので「学校(school)へ行っているのか、それとも働いているのか」と聞いたら、「大学(ユニバーシティ)の事をスクールというのはアメリカ式だ。日本でもそうなのか」と言うので「日本じゃ英語は話さねえんだよ、大学はダイガクってえんだ」と出かかったが、人のよいガズヒロはていねいに説明してあげて、よけい疲れるのだった。
 みんなはもう一軒飲みに行くというが、レストランで飲んだビール2杯が予想以上に回ったので、宿に帰って寝る。ちょっと寝て起きるつもりだったが、そのまま朝まで寝てしまった。ちゃんと歯磨きしないと眠れない私としては珍しいことだ。

本日の走行距離    24.3キロ(計22644.7キロ)

出費          3500c  宿
            3100c  ガソリン
            4850c  温泉入場料(タバコン)
             870c  昼食(サンドイッチ)
              18$   火山ツアー
             190c  ポテトチップ
            1890c  夕食(魚、ビール)
計           14400c
           18US$ 

宿泊          Cabinas Hervi



2000年4月19日(水) アレナル火山に登る(Climbing Volcano Arenal)

 最近にしては珍しく、朝10時まで寝てしまった。さて、今日は夜までヒマだ。まずは朝食兼昼食を食べに近くのレストランへ。サンドイッチを食べ、食後もそこでゆっくり本を読んで過ごす。最近読んでいるのは「ハックルベリー・フィンの冒険」だ。アンティグアでマッサージ師の坂本さんが発つ時に残していった本だ。これが結構ページ数が多く、読み応えがある。かなり古い文庫本で、巻末の広告には「新潮社文庫最新刊 三島由紀夫『音楽』 定価110円」とある。こういうのを見たら、読み終わっても申し訳なくて捨てられないではないか。
 一時間ほどしてレストランを出たら、おお、アレナル火山を覆っていた雲がほとんど消え、頂上こそ見えないものの、8合目くらいまで露になっているではないか!。これが夜まで続けばいいが、と思ったが、山の天候は変わりやすい。これは今行かねば機を逸す、と考え、宿に戻ってバイクで出かける。
 昨日入った「ロス・ラゴス」まで行き、個人で入る場合に必要な2000コロンをゲートで払う。高いが、そんな事は気にしてはいられない。ゲートをくぐると、例の凸凹道に入る前に深さ20センチ、幅10メートルくらいの人口の川を渡らねばならない。これはきっと戻ってくるとき、敷地内を汚させないためにタイヤについた砂や泥を落とさせるためのものだ。川に入る時がちょっとしたコンクリートの下り坂になっており、勢いよく入ったら水しぶきが立つのでブレーキを少しかけたところ、見事なまでにツルリと滑ってバイクごと川の中に倒れた。見ると、そのコンクリートの斜面一面はコケや泥で汚れており、普通に立つだけでもツライほど滑りやすくなっている。ゲートにいた係員数名が駆け寄ってきて「ケガはないか?」と聞くが、それより前に路面の手入れをしてくれ。おかげで下半身がズブ濡れになってしまった。
 係員に手伝ってもらってバイクを起こし、昨日の凸凹道を登る。登りきったところ、昨夜蛍の灯以外は何も見えなかった展望台からは、眼下に火山湖が見え、そして反対側には標高1633メートルのアレナル火山がそびえていた。耳をすますと時おりゴロゴロと雷のような音が聞こえ、見ると火山弾が山の斜面を煙をあげながら転がって落ちている。まさに生きている火山だ。そして5分ほど眺めていたら、一瞬、ほんの1、2秒の間だけ、雲が晴れて山頂が見えた。山頂が見えたのは、これが最初で最後だった。
 注意深く火山を見ていると、中腹あたり、ちょうど緑が途切れるあたりに人の姿が見える。湖の反対側のキャンプ場から、そこまで登るトレイルがあるらしい。これは行かない手はないだろう。
 キャンプ場まで下り、バイクを置いて歩き出す。グアテマラで会ったドイツ人ライダー、アンドレアスが言っていたのはこのキャンプ場だな。彼がここのキャンプ場に泊まったときは乾季で、夜、打ち上げられた火山弾や溶岩が見られたという。もっとキャンプの装備があり、雨が降らなければここで泊まっても良かった。ここのキャンプ場、人里離れているけどおすすめです。
 さて、トレイルは山の麓に広がる林の間を延々と登る。途中からどんどん険しくなり、本当にこれで合っているのか、と思うほど細くなった。汗をかきながらさらに進むと、緑が途切れ、直径数十センチの火山岩がゴロゴロと川にように堆積している場所に出た。これが全部、火口から出てきたものか。さらにその上を100メートルほど登ると、「この先危険 立ち入り禁止」というロープが張られたところに出た。そこからはゴロゴロという音が間近に聞こえ、見ると火山弾が雲の中から、ほんの3、400メートル先まで転がって来ている。遠いから大きさは分からないが、はっきりと見えるくらいだから、もしかしたら人の大きさくらいはあるかもしれない。砂煙を上げながら他の岩と衝突し、こなごなになって積もって行く。ここで本格的な噴火が起きたら、とても助からないだろう。山頂や溶岩は見えなかったが、地球のエネルギーを体感することは出来た。火山弾に命中される前に来た道を戻る。
 凸凹道はバイクで下る方が恐いが、ゆっくりとバスの後について下り、行きで転んだ川も無事通れた。宿に帰って夕方までシャワーを浴びたり、日記を打ったりして過ごした。
 さて、昨日のツアーガイドとの約束の時間、6時になった。宿を出ると、火山は今までになく雲に隠れており、半分どころかその姿はほとんど見えない。さっきの天気がウソみたいだ。約束の場所へ行くが、20分待ってもツアーのバスは現れる事は無かった。昨夜レストランで一緒だった三人組もここにくるはずなのに、今夜も無理と判断して中止となったのだろうか。一目見て何も見えないと分かるほどなので、すっぽかされてもあまり気にならなかった。(後で町に出たら、ガイドはバーで飲んだくれていた)
 それにしても昼の間に行っていて良かった。これで夜まで待っていたら、何のためにこの町にきたのか分からないところだった。地球の歩き方に載っていた写真のような、アンドレアスが説明してくれたような、夜空を照らす火山弾や流れるマグマが見たかったが、季節が悪かった。雨季の始まりだというが、ここではすでに毎日、午後になると雨が降っている。あきらめて明日、サンホセへ行こう。

本日の走行距離     17.4キロ(計22662.1キロ)

出費         3500c  宿
            759c  昼食(サンドイッチ)
           2000c  火山入場料
            810c  夕食(魚介スープ)
計          7069c

宿泊          Cabinas Hervi