考えて見れば、今日は金曜日だ。週末の国境越えは面倒という話も聞くし、まして我々は600ドルを返してもらわねばならない。そんな面倒な手続きは平日の方が良いだろう。トゥルム以南のメキシコ側には特に見るべきものも残っていないし、一気にベリーズに入ってしまうことにした。
ベリーズとの国境までは約250キロ。トゥルムから南の道は路肩こそ無くなったものの、舗装の状態が良くて飛ばせる。途中休憩を挟もうかとも思ったが、結局ノンストップで国境の町チェトゥマルに到着。ハンバーガーを食べて腹ごしらえを済ませたあと、いざ国境越えに挑戦。
まずはメキシコ側の税関でバイクのペルミソ(一時輸入許可証)のキャンセル。ペルミソ専用の窓口があり、そこの姉ちゃんに口すっぱく「600ドルを取られたんだけど」と言ったら、「わかったわかった」とあわてるそぶりも無く、奥の金庫からすんなりと600ドル、しかも米ドルのキャッシュで返してくれた。小額紙幣ばかりなのでかなりの札束になったが、貴重な米ドルのキャッシュを手にできて嬉しい。しかし、あまりのあっけなさ。ちゃんと返してもらえるか、あれだけ心配して調べたのがバカバカしい。何はともあれ、許可証とバイクに貼ってあったホログラムのステッカーを返納して税関での手続きはおしまい。次にイミグレーションでツーリストカードを返納し、いざベリーズ側へ。国境は川になっており、橋を渡るとベリーズだ。ああ、結局3ヵ月半も滞在したメキシコ。色んなことがあったが素晴らしい国だ。絶対また来るぞ。
日本人の場合、ベリーズへの入国にはビザが必要になる。メキシコにあるベリーズ領事館で事前に取っておくと安心、と地球の歩き方には載っていたが、国境でも取れるというので我々は用意しておかなかった。なので、まずはイミグレでビザを取得。小さな国で、それこそ一日もあれば通過できるほどだが、それでもビザ代は一人25米ドルもかかる。しぶしぶ払い、パスポートに大きさだけはいっちょまえのスタンプを押してもらう。次にバイクの通関だが、これもメチャ簡単。書類を作成するわけでもなく、パスポートに車両持ち込み許可のスタンプが押され、バイクのナンバーや色が手書きで書き込まれておしまい。結局、1時間ほどで国境越えの手続きは全て終えた。
さあ、あとは今夜の宿泊予定地、ベリーズシティまで走るぞ。国境を後にして走りだすと、何やら懐かしい看板が。「テキサコ」や「エッソ」のガソリンスタンドだ。メキシコには国営のスタンドしか無かったから、久しくアメリカ系のスタンドは見ていなかった。しかも、看板がみんな英語で書かれている。1981年に、ラテンアメリカの中では一番最近に独立するまではイギリス領だったから、ベリーズの公用語は英語。いやあ、言葉が分かるってホッとするなあ。
しかしベリーズ、何もない。国境からベリーズシティまでの道は幹線道路のはずだが、センターラインも無いし、まわりはサトウキビばかりだし、道にもサトウキビが散乱しているし、ときおり通る村も閑散としている。それもそのはず、ベリーズシティは四国より少し大きいくらいの小国だが、それ以上に人口が少なく、わずか23万人だという。おお、メキシコシティでサッカーを観戦した時に行った「アステカ・スタジアム」のちょうど2杯分だ。20万人ライブを敢行したGLAYは次、ベリーズでライブをやったらどうだろうか。「全国民ライブ」っての。
とにもかくにも、午後3時ごろベリーズシティ着。ハリケーンの被害が多い事から首都機能こそ西へ80キロ行ったベルモパンに移ったが、それでもベリーズ唯一の都市である事は変わり無い。ただし木造の古い建物が多くて道も狭く、路肩はそのままドブになっていてクサイ排水が流れているし、ゴミは散乱しているし、ヒマそうにしている黒人のお兄さん方は酔っ払って裸足のまま徘徊しているし、けっこうアヤシイ雰囲気。しかし、安宿はそんなアヤシイ雰囲気の真っ只中にしかなく、それでもバイクを比較的安全に駐車できるという宿にチェックイン。
その後町を散策したが、インターネット屋が無い。インフォメーションセンターで聞くと電話局か新聞社に行くとあるというが、新聞社は閉まっていたので電話局に行く。しかし、自分のパソコンの接続もできないし、グローバルIMEをインストールしようとしたら、ソフトを入れられないようにパソコン自体にプロテクションがかかっていてダメだった(局員もその外し方が分からなかった)。
しかたなしにあきらめ、ビールを買ってきて飲み、宿が中華料理屋を兼ねていると言うので夕食を中華で済ませた。その後はリビングのテレビにアメリカの番組が入るので、ジョディ・フォスターの映画「コンタクト」を日本人の学生と一緒に見た
問題は、その後である。部屋に帰ってさあ寝ようと思ったら、特大の、人間にしたらG馬場くらいのゴキブリがベッドの下にいた。こっちがびっくりすると、向こうも反応して、それこそロケットダッシュの速さでベッドの奥に入っていった。これには、まいった。根っから都会っ子の私は、ムシが大キライである。カブトムシやコオロギだってイヤなのに、ゴキブリなんて見ただけでヘビに睨まれたカエルのように凍りついてしまう。やっつけようにも、ベッドの下の奥まで潜りこんでタイマンを張るほど度胸はない。しかたなしに、ベッドの上に這い上がってこない事を祈りつつ、そのまま寝るのであった。この事だけで、ベリーズがイヤになった。
本日の走行距離 413.4キロ(計19934キロ)
出費 179N$ ガソリン
77N$ 昼食(ハンバーガー)
50U$ ビザ代
15U$ 宿代
9B$ ビール、ジュース
13B$ 夕食(炒飯、焼きそば)
収入 600U$
計 ▲535U$
256N$
22B$(1ベリーズ$=1米ドル)
宿泊 Bon Aventure
「久美子の言わせて!」
まったく、カズの肝っ玉の小ささにはあきれる。ゴキブリを見た瞬間に固まっていた。しかもそのゴキブリの動きが速いこと。カズがかなう相手じゃないのはすぐ分かったので、私は早々と寝る仕度をした。カズは固まったままじーっとゴキブリの様子をうかがっていたので「寝ないの?」と聞くと「だってゴキブリが…」びびっているカズを見捨てて寝る。ゴキブリが嫌いなのは知ってるけど、夜中に私の足がカズの足の裏に触れただけでびくっ!と跳ね起き、まっくら闇の中じーっと見えないのに自分の足を見つめていた。あまりに可哀想だったので「今のは私の足!」と言ったら。ほっとしてすぐにまた寝てしまった。ゴキブリごときでびびってどうする。これから先もっとこわいもんがたくさん出てくるんだから。しっかりしろ! |