バイクの輸送  

ロシア・シルカ〜ハバロフスク編(2002年9月7〜9日)

 最近人気のロシアン・ルート。フェリーを使って安く早く大陸に渡れるとしてブレイクしていますが、ビザ、治安とともにライダーの心配のタネになるのが東シベリアの「道のない区間」です。
 モスクワ方面から伸びてきた舗装路はチタ市の100キロほど東で途切れます。逆にウラジオストクからの舗装路はハバロフスクの西、ビロビジャンでダートに変わります。両者の間、2000キロを超える区間にまともなアスファルトはありません。

  しかしながらチタ〜チャルフシェスク間は固くしまったフラットダートですし、ビロビジャン〜スコボロディノ間もところどころ深い砂があるようですが、オフロードバイクであれば十分走破することが可能です。一番の問題はチャルフシェスク〜スコボロディノ間で、一応道はあるものの、ツーリングシーズンである夏期は雨季でもあり、路面ヌタヌタ&川越えアリの相当タフな旅路となります。
 私はこの区間を自走したライダーに2人会いましたが、うち一人はその事を後悔しており、もう一人は「楽しかった」とはいうものの、バイクはかなりダメージを受けていました。自走にチャレンジする人は軽いオフ車に最低限の荷物で、路面の乾いているスキを狙って走りましょう。(夏より、雨の少ない春や秋口のほうがいいかもしれません。ちなみに冬はマイナス数十度になってしまいます。その時期にサイドカーで抜けたカップルもいるんですが・・・)

  さて、そんな筋金入りのライダーを除く大部分の人たちはどうしているかというと、バイクごとシベリア鉄道に乗り、この区間を越えているのです。それには大きく分けて二通りの方法があります。

 ロシアでは今、日本車ブームです。多くのロシア人が日本を訪れ、中古車を買ってはフェリーに載せて帰ってくるのです。そしてロシア西〜中部に住んでいる人たちのため、シベリア鉄道では車を運ぶサービスも行っています。
 その主なサービス区間はシマノフスカヤ〜チャルフシェスク間。シマノフスカヤから先、スコボロディノまでも自走できるのですが、道が険しくなるのと、駅の設備の関係で、シマノフスカヤで列車を乗り降りするドライバーが多いのです。逆に西側ではほとんどの人がチャルフシェスク駅を利用しているようです。
 一つ目の方法とは、この車用のサービスに便乗しようというもの。仮に「正々堂々と載せる方法」と呼ぶことにしましょう。

  この場合、当然東→西の方が混みます。夏のピークシーズンではシマノフスカヤに順番待ちの車がズラリと並び、何日も待つことも。また時間をロスしたくない、ロシア語が話せない、などこっちの弱みにつけこみ、通常よりかなり高めの料金を要求してくる中間業者/自称ガイド/鉄道職員が出没する可能性が高いです。相場はシマノフスカヤ→チャルフシェスクで100〜250ドルです。(人によって、かなり幅があります。高めの人はやっぱりボラれているんでしょうか。西→東では、もっと安くなるはずです)

 さて、この方法で列車に乗る場合、車両は二通りあります。
 一つ目はいわゆる普通の貨物列車タイプで、屋根、壁つきで、簡易ベッドやトイレのある居住スペースがある場合もあります。シベリア鉄道というと、バイクはバイクだけで貨物車両に預け、自分は豪華な客車で・・・と想像しがちですが、今のところ、このパターンは聞いたことがありません。貨物車両の中でバイクの横に寝るか、簡易ベッドにありつけたらラッキー・・・そんなところです。しかし、これでも幸運な方なのです。少なくても雨風はしのげるのですから。
 辛いのはもう一種類の方。それは車をハダカで載せる、屋根ナシの「ただの車輪と土台だけ」の車両。シマノフスカヤ〜チャルフシェスク間でも30数時間は乗ることになるので、トイレもなく、雨風ビュービューのこのタイプではゆっくり眠ることもできません。この場合、車の中でヌクヌクとしているロシア人とお友達になり、中に入れてもらうのが得策です。車両全体を金網が覆っているタイプもありますが、いずれにせよ雨風は防げません。
 僕が出会ったライダーの中では、屋根つきタイプ、屋根なしタイプの確立は五分五分で、料金に違いがあるとも思えず、またロシア語に堪能でなければ自分で選ぶことも難しいでしょう。運を天にまかせるしかありません。

 「正々堂々と載せる方法」とは別に、「モグリで乗せてもらう方法」というのもあります。僕は結果的に、この方法でシルカからハバロフスクまで約2000キロ乗せてもらいました。

 西から東に向かう場合、ロシア人の間ではチャルフシェスクで列車を捕まえるのが一般的なのですが、僕はそのことを知らず、シルカでトライしました。その理由はただ単に、まわりのライダーでシルカから列車に乗った人が多かったからです。(ちなみにチタから乗ることも可能です。その場合は「正々堂々」方式になるでしょう)
 しかしシルカの駅に着いてみると、そこは車やバイクを列車に積むため設備も何もない、ただの田舎駅。プラットホームと車両には1メートル以上の段差があり、「本当にここから乗っているんだろうか?」と首をかしげてしまいました。

 窓口のおばさんに聞いても「この駅からはムリ」とニベもなく、途方に暮れていると、カタコトの英語が話せる非番中の警察官が現れ、彼が「今度来る貨物列車と交渉してあげよう」と言ってくれました。
 モスクワ発ウラジオストク行きの長距離列車は、予定を大幅に遅れてシルカ駅に登場しました。停車時間はわずか11分。その間に警察官は適当な車両に目星をつけ、それに乗っていた乗務員と話をつけてくれました。シマノフスカヤまで1500ルーブル(約50ドル)、一ヵ月前にやはりシルカから列車に乗り、僕にメールで情報をくれた小梅&得政ペアと同じ金額です。その後、僕は車内で「ハバロフスクまで乗らないか」と誘われ、3000ルーブル(約100ドル)でOKしましたが、どうやらこれぐらいが西から東に向かう場合の相場のようです。

 話がついた後はバイクを積み込まなくてはならないのですが、何せプラットホームとの高低差が1メートル以上もあるので、簡単にはいきません。僕の場合は荷物を全て降ろし、数人の警察官に手伝ってもらって何とかバイクを持ち上げることができました。僕の場合は幸いにも善意で手伝ってくれたのですが、場合によってはチップを支払うことも必要でしょう。
 ちなみにハバロフスクの駅でバイクを降ろすときも、ホームにいた迷彩服の軍人さんが手伝ってくれました。

 さて、警察官が交渉してくれたにもかかわらず、この方法がモグリだと気づいたのは、料金は車両の乗務員に直接支払い、領収書もチケットもなく、また途中の駅では「警察に見つかると面倒だから」とホームに降りることを制限されたからです。
 そういえば僕の乗った貨物車両は車やバイクを載せるためのものではなく、書類の詰まったダンボール箱が積み上げられたものでした。支払った3000ルーブルはそっくりそのまま乗務員のポケットに入るのでしょう。
 ちなみに僕の面倒を見てくれた乗務員はとても親切で、45時間にも及ぶ道中、毎食をタダで用意してくれました。また、2段ベッドの上段を僕の寝床として提供してくれました。これはかなりラッキーだったと思います。

  「正々堂々と載せる方法」と「モグリで乗せてもらう方法」と一応分けて説明しましたが、実はこの二つにはそれほど差はなく、語学に堪能でなければ自分で選ぶこともできません。駅の窓口に行って正規に事を進めているつもりでも、キップも領収証も発行されず、結果的に乗務員の裁量で料金が全部ポケットに入れられることもあるし、またモグリで出来るだけ安く交渉してみようと思っても、窓口に行って正規のキップを買えと言われることもあるでしょう。
 その時その時によって、また相談する人によってもルールがコロコロと変わるのです。なにしろロシアですから・・・。

 どんな方法で載せるにしても気をつけなければならないのは、ボラれないようにすることと(これが難しいのですが)、貴重品の管理です。駅で列車を待っている間、また列車に乗っている間に盗難にあった、というライダーが多いので、僕も相当気を使いました。
 僕の車両の乗務員はいい人たちだったので全く問題は無かったのですが、どんな人と一緒になるかによって列車旅の快適度は大きく変わってくるでしょう。中にはとんでもない客と一緒にされ、乗車中にカメラを盗られたり、「お前のバイクが俺の車にキズをつけた」とインネンをつけられて弁償させられた、という人もいます。

 東部シベリアを横断する道路は一応建設中ということになっていますが、ロシアのことですからあと何年かかるかわかりません。それまではまだ列車を利用するしかないでしょう。
 東から西を目指すライダーは、ウラジオストクでのバイク通関に続く、二つ目のヤマです。逆に西から東を目指すライダーにとっては、ユーラシア横断達成/日本帰国の前の最後のヤマとなるでしょう。
 それでは皆さんのご健闘をお祈りします。

 旅の日記の中にも、僕が列車を利用したときの詳しいレポートがあります。ここから