コラム


宿泊の話(2000年5月27日)

 バイクツーリングというとキャンプのイメージがありますが、私たちも一応テントは持っているものの、使用したのはアメリカのヨセミテ国立公園で2回だけです(2000年5月26日現在、エクアドルのキトまでで)。普段はテント、銀マットはかさばる荷物としてザックの中で眠っています。
 私たちがキャンプをしない理由に、まず面倒くさいということがあります。テントを設営するのはいいとしても、次の日、出発前にたたむのが面倒なのです。出発時はなるべく早く、簡単に走り出したいものです。
 また、私たちはモバイル通信をしながら旅をしているので、電源の無いテントでは日記を打ったり、メールを書いたりするのに支障がでます。ここまで細かく日記を書いたり、頻繁にメール送受信をしていると、ほぼ毎日パソコンを開けなければ気が済まなくなります。
 治安の問題もあります。テントは鍵がかからないので、荷物を置いたまま食事に行ったりすることに不安を覚えます。また、中南米のような国々では、安全にキャンプする場所を探すのが難しいです。整備されたキャンプ場は少なく、ブッシュキャンプも人目を避けなければ危険を伴います。そもそも、そういった国々では安くて快適な宿が多いので、わざわざキャンプする必要がありません。
 結果、キャンプが有効なのは治安が良く、キャンプ場の多い、そして宿代の高い欧米諸国ということになります。しかし、私たちが訪れた秋のカナダ、アメリカの国立公園ではすでに朝晩の冷え込みが激しく、持っていた3シーズン用の寝袋では厳しいものがありました。さらに上記複数の理由から、キャンプはほとんどしなかったという訳です。
 今や、テントはほぼ非常用の宿泊手段として考えています。次にキャンプする機会が訪れるのは、おそらくヨーロッパでしょう。


カナダのモーテルの清潔な部屋
 では、普段はどのようなところに泊まっているのでしょうか。
 カナダ、アメリカではモーテルをよく利用しました。ガソリンスタンドに行くと、各地のモーテルの割引券が一冊にまとまった無料の冊子が置いてあり、これを利用すると大体20〜40米ドルほどで泊まれます。ユースホステルのドミトリーでも1人10数ドル取るところが多いので、2人分払うのであれば、モーテルの方が安い場合があるのです。
 モーテルは大抵の場合、非常に快適です。清潔な部屋に大きなベッド、たっぷりと湯の出るシャワーにケーブル放送の入るテレビ。そしてモバイルユーザーに嬉しいのが電話の存在。モーテルの電話は市内通話なら無料で使い放題の所が多いので、市内にアクセスポイントさえあれば、あとはローミング費用だけでいくらでもインターネットができます。電話ジャックの形式、コンセント形状も日本と一緒(電圧も110Vでほぼ同じ)。モーテルではほぼ毎日、ネット接続を行っていました。
 モーテルはその名のとおり、車で旅している人のための宿なので、部屋のすぐ前にバイクを停める事ができます。盗難が心配なのでバイクは部屋に入れた方がよい、という話も聞いた事がありますが、私たちはカナダ、アメリカでは部屋の中にバイクを入れたことはありません。部屋の前に停め、チェーンやU字ロックをかけておけば、まず大丈夫です。ハーレーやBMWで旅しているアメリカ人のライダーでも、そんなに神経質な人はいません。ただ、駐車場が表の通りから見えない、見えにくいモーテルを探すようにはしていました。


メキシコの安ホテル。フロントの前に
バイクを置かせてもらいました。

 メキシコ以南のラテン・アメリカに入ると、ホテルの相場がグッと安くなります。
 スペイン統治時代に建設されたラテン・アメリカの街のつくりは基本的に似ていて、中央広場や教会を中心として旧市街が広がり、その中に含まれることの多いバスターミナルや市場の周辺に安いホテルが集まります。相場は数ドル〜10ドル程度。エクアドルのキトの旧市街では、1ドル以下で宿泊できます。ただし旧市街は一般的に治安が悪く、安いホテルは駐車場があることが少ないです。中庭やフロントにバイクを置かせてもらうよう、ホテルと交渉せねばなりません。間違っても路上駐車で夜は越せません。
 富裕層は猥雑とした旧市街に住むのを嫌がり、郊外に新興の住宅地を作ります。これが新市街となります。オフィスビルや大使館、高級ホテルなども新市街に集まるようになり、新市街と旧市街ではまるで別の国のように雰囲気が違います。エルサルバドルの首都サンサルバドル、パナマのパナマシティ、エクアドルのキトでこの差が顕著でした。新市街のホテルは小奇麗で駐車場付きの場合が多いのですが、旧市街のホテルと比べると相場が数倍〜数十倍高いです。たまにですが、カナダやアメリカのようなモーテル形式のホテルもあります。

 安さの旧市街を選ぶか、安心の新市街を選ぶかは、その街の雰囲気によります。私たちは節約したいので、基本的に旧市街の安ホテルを選びますが、パナマシティやサンサルバドルなど旧市街の治安の悪さが有名なところは、新市街に泊まるようにしました。また、地方の小さな街や村では新市街というものが無いので、街中の安ホテルに泊まるしかありません。
 安ホテルといっても家族で経営しているような小さい民宿から、数十室を誇る大きなものまで様々ですが、設備は完璧とは言い難いので、自分の目で見て選ぶ必要があります。


エクアドルの安ホテル 珍しくTV付きで、1人1.5ドル。
(写真に写っているのはウメ夫妻)

 まず私たちが見るのは、バイクを安全に停められるかどうか。鍵がかかる駐車場があるか、無いなら中庭やフロントのスペースに停めさせてくれるかどうか。バイクが置けなければ、どんなに良いホテルでもあきらめざるを得ません。実はこの条件に当てはまる安ホテルは少なく、探すのに2、3時間も街をさまよったこともありました。
 バイクが置けるホテルを見つけると、まず部屋を見せてもらいます。部屋はシャワー・トイレ付きと無し(共同)の2種類がありますが、温水シャワーとうたっているのであればちゃんとお湯は出るか、トイレは清潔か、などを見ます。部屋にコンセントがあるかどうかも重要です。暑い地方でもエアコンがついていることはまず無いので、窓に網戸があるかどうかも見なければなりません。部屋のドアに自前の鍵が付けられれば、防犯の上で安心です。フロントは信用すべきではないので、貴重品は自室で管理せねばなりませんから。
 しかしながら、バイクが置ける宿は少ないので、少々の不都合は我慢せざるを得ません。料金的に折り合いがつけば、まず1泊分を支払います。もし何泊分か前払いし、その後に不都合があって1晩でチェックアウトしたとしても、返金してもらうのにモメるのは目に見えています。
 安ホテルは高級ホテルやモーテルほど小綺麗ではありません。電話やテレビもまずありません。しかし十分に清潔だし、キャンプすることを考えれば、はるかに楽で快適です。安ホテルでの生活に慣れると、何倍も、何十倍も払って高級ホテルに宿泊するのがバカらしく感じてきます。

 いずれにしても、宿選びは旅の大きなテーマです。成功するか失敗するかで、天と地ほどの差があります。安ホテルの中には宿ぐるみで宿泊客の荷物を狙う「泥棒宿」もあるし、オーナーが女性客を襲うというところもあるそうです。(そういう宿は得てして地元警察と仲が良いので、検挙されないケースが多い)
 宿選びに成功の方程式はありません。こればかりは自分の経験とカンで判断するしかないでしょう。旅が続く限り、宿探しの苦労も続くのです。