バイクの輸送  


ロシア・ウラジオストク〜日本・富山編(2002年9月16〜18日)

 ここ2、3年で大ブレイクしたロシアン・ルート。特に私が走った2002年は賀曽利さんのツアーもあり、日本人だけで少なくても30人以上のライダーがシベリア地方を横断しました。
 ロシアン・ルートの魅力は、何といっても自分のバイクで日本の自宅まで帰れること、あるいはその逆に自分のバイクで自宅から出発できることです。
 そう、日本〜ロシア間はフェリーが定期運行しており、バイクを梱包する手間や、高額な輸送代を払うことなしに大陸に渡れるのです。ビザの問題さえクリアーすれば、最も安く、そして早く自分のバイクで国外に脱出する方法です。
 私はロシア側から日本に帰ったので、ここではその時の体験を紹介します。

 2002年現在、ロシアと日本を結ぶ定期航路にはウラジオストク〜富山県伏木港と、ワニノ〜サハリン経由〜北海道稚内港の二つがありました。しかし後者の場合、メインの国道を外れてワニノまで道なき道を進むか、列車に載せなければなりません。また、日本側からこのルートで渡る場合、サハリンにおけるバイク通関の手続きが非常に面倒だと聞いています。
 よって、ライダーによく利用されるのはウラジオストク〜伏木航路です。以前はウラジオストク〜新潟という航路もあったそうですが、今は臨時便のみで、定期でのフェリーの行き来はありません。

 フェリー関係者によると、新潟航路がなくなった理由は「新潟に中古車屋が少ないから」。フェリーに乗って日本にやってくるロシア人の多くは、安くて質の高い日本の中古車が目当てです。新潟に比べると富山の方が中古車市場が発達しているそうで、伏木からロシアに向かうフェリーには車が満載されます。カーデッキはもちろん、ちょっとした隙間にも車をクレーンで吊り上げて、「足の踏み場もないほど」積み込むのです。

 2002年の夏、ウラジオストク〜伏木間は「ミハエル・ショロホフ」号というフェリーが週に一往復の割合で運航していました。ロシア側からは毎週月曜日にウラジオストク発、水曜日に伏木着、というスケジュールでした。
 なお、このフェリーは夏季のみ運航とよく言われていますが、フェリー会社によれば年間を通じて便はあるそうです。冬には船を小型のものに換えることもあるそうですが、航路が途絶える事はないそうです。

 私がロシア横断を果たし、ウラジオストクで日本海と対峙したのは2002年9月10日の火曜日。その一ヵ月ほど前に同じルートで帰国した友人からもらった情報を頼りに、さっそく次の日から乗船にむけて動き出しました。
 私がまず向かったのは、シベリア鉄道の東の果て・ウラジオストク駅のすぐ裏にある客船ターミナル。近代的で大きい、白いビルです。その3階に「ビジネス・インツアー・サービス」という旅行代理店があり、ここが「ミハエル・ショロホフ」への乗船手続きを一手に引き受けています。

Business Intour Service
3rd Floor, 1, Okeansky Ave, Vladivostok, 690091, Russia
TEL (7+4232) 497-391, 497-393, 300-146
Fax (7+4232)411-829
E-mail bis@ints.vtc.ru
URL http://www.bisintour.com

 入口の木製のドアはたいてい固く閉ざされていますが、かまわず突進しましょう。すると、お姉さんからおばさんまで、女性スタッフばかりがそろったオフィスが広がっています。その中で私に対応してくれたのは、ダイアナさんという、若くて非常に背の高い女性でした。あまり上手ではありませんが、一応英語が通じます。
 初日はまず、乗船に必要な書類の作成。パスポートや国際登録証、ロシア入国時に税関からもらったバイクの一時輸入許可証などをダイアナさんに渡し、必要事項を記入してもらいます。
 その作業を見守っていると、背後から話しかけられました。「いま、お着きになったんですか?」・・・日本語です!
 ふりかえると、ジーンズ姿のラフな格好をした日本人女性が立っていました。彼女は啓子さんといい、ロシア人のご主人と結婚されてウラジオストクに住んでいる、同じ旅行会社のスタッフでした。普段は窓口に立たないそうですが、このときは手が空いていたらしく、ダイアナさんと一緒に私の乗船手続きを手伝ってくれることになりました。

 翌日の木曜日、私たちはウラジオストクのはずれにある税関事務所に、バイクの持ち出し許可をもらいに行きました。158ルーブル(約5ドル/600円)の料金を支払い、前日ダイアナさんが作成してくれた書類に「許可」のスタンプをもらうだけなのですが、窓口の場所などが非常に分かりづらく、職員の誰一人として英語が話せないので、ロシア語が堪能でなければ自力では無理という印象を受けました。慣れているはずのダイアナさんもたらい回しにされていましたし・・・。
 フェリーの料金とは別に、この出国/乗船手続きの代行料として50ドルをビジネス・インツアー・サービスに支払うことになりますが、これはケチらない方がいいと思います。

 さて、無事にスタンプの押された書類を受け取り、税関での手続きは終わりました。あとは当日、月曜日の朝に接岸しているはずの船まで直接行け、とのこと。それは客船ターミナルのすぐ裏の船着場になるのですか、と聞くと、「おそらくそうなるだろうが、もしかしたら接岸場所は変わるかもしれない。それはその時にならないと分からない」とダイアナさんは言います。
 接岸場所が変わったら、それはどうやって知らされるのだろう?と一抹の不安を感じましたが、なにしろロシアですから、そんなこともあるでしょう。私はダイアナさんと啓子さんと別れ、宿に帰りました。

 結局、乗船準備は水曜日と木曜日の二日間で終わってしまい、金曜日から日曜日まで三日間の空きができましたが、私はその間に観光をして過ごしました。
 ビジネス・インツアー・サービスはシーズン中、無休でやっているとのことでしたが、日曜日に訪れたら閉まっていたし、税関の事務所も開いてはいないでしょう。フェリーのスケジュールは今後変わることも予想されますが、例えば月曜日の朝に出るフェリーなら、遅くとも前週の木曜日にはウラジオストクに着き、乗船の手続きを始めている必要があります。これを間違えると、思わぬ足止めをウラジオストクで食らう事になるでしょう。

 さて、月曜日の朝一番に客船ターミナルにいってみると、無事、ミハエル・ショロホフ号の勇姿を見る事ができました。船にバイクを積み込む前に税関職員の最後のチェックがあり、ダイアナさんと啓子さんに立ち会ってもらいました。チェック自体は大して時間がかからないのですが、職員が来るまでに一時間以上は待ちました。まあ、ロシアですからそんなもんでしょう。
 この日、巨大なフェリーに積み込まれた車両はバイクがたった一台。ガラガラのカーデッキは帰路、中古車でいっぱいになるのでしょう。

 その後、いったんビジネス・インツアー・サービスのオフィスに行き、そこでダイアナさんにパスポートとバイクの出国手続き代行料50ドルを渡し、それと引き換えに乗船券をもらいました。
 伏木までのフェリー料金は3等船室、国際学生証を効かせて190ドル。それにバイクの運賃90ドルを加えて合計280ドルになりますが、これは出航して二日目に船上で支払います。パスポートはその時にロシア出国のスタンプが押されて戻ってきます。

 この時点でパスポートが手元から無くなってしまうので、街をうろつくことも両替をすることもできません。第一、出航までほとんど間もないので、ルーブルが余っている場合は前日までに再両替をしておきましょう。
 また、二晩の船旅には食事が5回つきますが(初日の夕食・二日目の朝・昼・夕食、三日目の朝食)、初日は昼ごろに乗船するにもかかわらず昼食がつきません。乗船前に何か用意しておくといいでしょう。
 船内には食事の用意されるレストランの他にバーもありますが、ロシア国内の物価を考えると非常に割高です。飲料水や酒類、スナックなどを乗船前に用意しておくと、より優雅な船旅をなるでしょう。

 さて、ダイアナさんと啓子さんに別れを告げて乗船すると、案内されたのはなんと個室でした。3等料金なので、てっきり相部屋だと思っていたのですが、9月も半ばになると客は少なく、そのぶん優遇されたみたいです。
 個室にはシャワーとトイレもついていて、机にはコンセントもありました。食事はスープに始まってデザートに終わる、非常にしっかりとしたものでした。二日目に船が揺れて気分が悪くなったのをのぞけば、快適な船旅でした。

 富山県伏木港に着いたのは9月18日の朝。
 国際路線の船が発着するので、入国管理と税関の入ったターミナルビルくらいあると思っていたのですが、伏木は私の予想をはるかに超えて田舎でした・・・。船が接岸した場所のちょっと向こうはもう県道で、白いヘルメットを被った中学生が自転車をこいでいたり、農機具を載せた軽トラがパタパタ走っていたりします。
 日本の入国手続きはどうするのだろう・・・と思っていると、船の横に車が止まり、中から日本人の職員が出てきて船に乗り込んできました。なるほど、手続きは船内で行うのです。

 面倒な荷物を持っていなければ、パスポートのチェックを受け、税関職員の簡単な質問に答えて下船となります。しかし私の場合はバイクがあるので、そう簡単にはいきません。
 パスポートに帰国のスタンプをもらったあと、バイクを船内に預けたまま、港のちょっと奥にある税関の建物に行きます。そこの2階でカルネを見せ、バイクがちゃんと日本に戻ってきたという証明になる、「所在地証明」のスタンプをカルネの一番最後のページにもらいます。これには簡単な書類記入と、スタンプ代400円を印紙で支払う必要があります。

 その後、船に戻ってバイクを降ろしてもらいます。これで下船/バイク入国手続きは終わり。税関職員はバイクを見る事もしません。
 この時点で日本のナンバープレートを持っていて、車検が有効期間中、もしくは250cc以下で自賠責保険が有効期間中であれば、何の問題もなく港から走り出せます。
 しかし、私の場合はここからが面倒でした。わがDR800Sは車検が切れたままで、日本のナンバープレートもありません。そこでどうするのかというと、仮ナンバー(正式には臨時運行許可証)を最寄の市役所や陸運局で発行してもらうのです。

 伏木港の最寄の市役所は、約10キロ離れた高岡市役所。本当は港にバイクを置いたまま列車に乗って高岡市まで出ようと思っていたのですが、港の人は声をそろえて「バイクを置いたままでは危険だ」といいます。色んな国から船が来ているので、ちょっとしたスキに船に積み込まれてしまえば探しようがないというのです。
 仕方なく、私は国際ナンバーのまま自走していくことにしました。しかし、これははっきり言って違法行為です。良い子の皆さんは真似しないようにしましょう。
 (後日、伏木港には陸運局の支局があり、そこでも仮ナンバーが発行できると聞きました。私はわざわざ違法走行までして高岡まで行く必要はなかったのです。良い子のみなさんはそこで仮ナンバーを発行してもらいましょう)

 市役所まで行く途中でガソリンスタンドに寄り、自賠責保険に加入しました。仮ナンバーをつければ最大で5日間、車検のないままで運行できますが、その期間中も自賠責保険は有効でなければなりません。驚いたことにこの自賠責保険、陸運局が発行するあのペラペラの「国際登録証」でも加入できるのです。ガソリンスタンドのお姉さんは目を丸くし、方々に問い合わせていましたが・・・。
 ここで私は2年分の保険に加入しましたが、すぐに車検を取る予定のない人は、一番短いもので大丈夫のはずです。

 そして警察に停められないものかとヒヤヒヤしながら高岡市役所に到着。「交通対策課」で国際登録証、自賠責保険証を提示し、750円の手数料を払って仮ナンバーを借ります。これは目的地に着いたあと(私の場合は横浜)、郵送で返納しなければなりません。
 仮ナンバーは車/バイク共用なので、ネジの穴がバイクとは合いません。私はツーリングネットにひっかけて走行することにしました。
 仮ナンバーさえもらえば、あとは堂々と公道が走れます。もちろん、免許は有効でなければなりませんが・・・(長いツーリングを終えた人の中には、切れている人もいるかもしれません)。
 これで日本側での手続きもすべて終了です。ロシア→日本でかかった費用は以下の通りです。

158ルーブル(約5ドル)
バイク出国税
50ドル
出国手続き代行料
280ドル
3等船室(学生料金)、バイク運賃
330ドル
ロシア側合計
   
400円
所在地証明スタンプ代
18440円
自賠責保険
750円
仮ナンバー発行手数料
19590円
日本側合計