南米からさらに東に向かうライダーは、行く手を阻む大海原・大西洋を越えなければなりません。以前はブラジルからイタリアへ行くフェリーやアルゼンチンからの貨物船を利用するのが定番でしたが、私はチリのサンチャゴからスペインのマドリッドまで、貨物飛行機でバイクを輸送しました。
このアイデアは私のちょうど一年前に、同じようにチリからスペインへバイクを空輸したライダー、Yoggyがくれたものです。空輸というとひどく高くつくそうな気がしますが、彼は日通のサンチャゴ支店を使いながらも、十分支払える金額の範囲内で納めました。
ブラジルからのフェリーだって高いし(人だけで2000ドルはかかるという話)、同国では出国の際に税関でモメることが多々あります。通常、国を出るときに税関で問題になることはないのですが、ブラジルでは「輸出品」として関税を要求してくる場合があるというのです。実際、このフェリーを利用する際に問題になり、ワイロを払って解決したライダーの話も聞きましたし、スペインで出会ったライダー、山本さんはサンパウロからマドリッドまでバイクを空輸する予定でしたが、業者に預けてからすでに10日以上たつというのに、まだブラジルの税関でモメていてスペインに向けて飛ぶメドがたっていませんでした。
ブエノスアイレスからの貨物船という手もありますが、何しろ、私はこれに関して何の情報も持っていませんでした。飛行機より船の方が安いのは確かですが、物価の高いアルゼンチンで、自分の足で時間をかけて船を捜さなくてはなりません。また安い貨物船はアフリカ各地を寄港しながらヨーロッパに向かうので、途中でパーツなどがなくなるという噂も聞きました。
時間の節約(時間短縮ということは、その間の生活費の節約にもなります)、そして安全面から言って、南米〜ヨーロッパ間は飛行機の方が得策であると、私は判断したのです。
私も当初、日通を使おうと思っていましたが、エクアドルで出会ったイギリス人ライダー、クリスがスイスカーゴという航空貨物会社のサンチャゴ支店の担当者を教えてくれたのです。日通を使っても、飛行機を持たない同社は他の航空貨物会社に仕事を委託することになります。だったら、直接話を持って行った方が安いはずです。
担当者の名前はSr.Carlos Aravena、英語が話せます。スイスカーゴのオフィスはサンチャゴ国際空港の貨物ターミナル内にあり、旅客ターミナルからでも歩けます。電話番号は02-601-1430。
電話して聞いてみると、実重量300キロまでの固定料金で、欧州の主だった都市だったらどこでも700〜800ドルで送れるとのこと。メチャ安!です。私はスイスカーゴを使ってスペインに送ることにしました。
その後、私はチリの日本人宿・汐見荘でハーレー乗りの武田さんと出会い、彼もヨーロッパに行くというので一緒にバイクを送ることにしました。そして2001年5月7日、スイスカーゴにバイクを預ける日が来ました。
まずはオフィスに出向き、書類を提出します。必要なのはカルネと国際登録証(外国で買ったバイクならその国の登録証)、そしてチリに入国した際のペルミソ(一時持ちこみ許可証)です。担当者はペルミソを手にすると、早速貨物ターミナルのゲートにある税関に行ってキャンセルの手続きをとっていました。
次に、木枠を作るための寸法測りです。
以前はサンチャゴからヨーロッパまで、直接スイスカーゴの飛行機で運んでいたそうです。この時にはバイクを同社のコンテナに入れていたので、木枠すら作らなかったそうです。オフィスに乗りつけて「あとはよろしく」で済んだのです。しかし、現在は飛行機でバイクなどの「危険物」をチリ国外に持ち出せるのは「ラン・チリ」というチリの航空会社だけになってしまいました。だからスイスカーゴにお願いしても、サンチャゴからブエノスアイレスまではラン・チリ機を使う事になり、そこでスイスカーゴ機に載せ換えてヨーロッパまで運ぶことになるのです。途中で載せ換えるので、今はバイクを木枠に入れなければなりません。
通常、航空貨物は立方キロという体積と重量を組み合わせた単位で料金が決まります。体積も重量も、少なければ少ないほど安くなるのです。だから普通はハンドルを外したり前輪を外したりして、いかにコンパクトにまとめるか工夫するわけですが、今回はなんと体積は関係無し、そして実重量で一台300キログラムまで同じ料金なのです。
だから、寸法を測るのも適当です。木枠を作る業者のおじさんがやってきて、1分もしないうちにバイクの寸法をメジャーで測っていきました。武田さんは荷物のほとんどを一緒に送るので、パッキングしたままの状態で測定です。(私もキャンプ用具やヘルメットなどを入れた両サイドケースを一緒に送りました)
後はガソリンを全て(キャブレターの中までも)抜き、バッテリーの端子を外します。ブエノスアイレスまで運ぶラン・チリの担当者が立ち会ったのですが、この人が細かい人で、外したバッテリーの端子にビニールテープまで巻かれました。
そして大きな量りにバイクを一台ずつのせて実重量を測ります。私のDRが252キロ、武田さんのハーレーが270キロで合計522キロ。この時点で木枠には入っていないので、その重さはカウントされません。
最後に料金を支払い、荷受けのための書類をもらって終了です。料金はチリ・ペソか、ドルのキャッシュでなければいけません。バイクはラン・チリの倉庫の隅に置いたまま。木枠に入れるまで立会う必要はありません。
さて、気になる料金は以下の通りです。
1340ドル
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運賃(300キロまで670ドルの固定料金×2台) |
50ドル
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危険物取り扱い手数料 |
52.2ドル
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燃料代追加料金(522キロ×10セント) |
10ドル
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書類代 |
25ドル
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木枠代 |
1477.2ドル
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合計(2台分) |
このうち、手数料や書類などは一台でも同じ金額です。つまり私たちは2台一緒に送るので、この分がお得になりました。
また同社は名前の通りスイスの会社なので、スイス以外へ送る場合はチューリッヒでも飛行機を換えることになります。しかしチューリッヒからマドリッドまで飛んでいる同社の貨物機は小型で、バイクは載せられないというのです。
私たちはスイスからスペインまで自走する覚悟でいましたが、おそらくサンチャゴのオフィスでも一番の責任者であるマティアスさんという人が、なんとチューリッヒからマドリッドまで陸路(トラック)で運んでくれると約束してくれたのです。その分も上記の固定料金に含んでくれるとのこと。至れり尽せり!です。
サンチャゴを飛び立つのが翌5月8日の予定、陸路輸送があるのでマドリッド着までは6日ほど見て欲しいと言われて、私たちは空港を後にしました。
・・・ちなみにブエノスアイレスまでラン・チリ機を使い、そこで載せかえるのなら、そこまで自走した方が安いのではと思うでしょう?私たちもそう思って、ブエノスアイレスのスイスカーゴのオフィスへ国際電話をかけて聞いてみたのです。
すると固定料金ではなく、立方キロあたり2.5ドルの変動制とのこと。そうなると運賃だけで800ドルはしそうで、サンチャゴから送ったほうがずっと安いのです。
なんでサンチャゴのオフィスがこんなにサービスがいいのか分かりません。特別キャンペーン実施中?とにかく「飛行機は高い」「輸送距離は短い方が安い」という常識を覆す結果となりました。
次に、マドリッドでの受け取りです。
6日かかるというので5月14日には着くはずだったのですが、結局着いたのは17日の夜でした。まあ、許容範囲内の遅延です。ただ保険の事がクリアーになっていなかったのと土日が挟まるので、受け取りの手続きを開始したのは21日の月曜日。もう1日倉庫に預けたので、バイクを手にしたのは22日でした。
マドリッドの貨物ターミナルは旅客ターミナルから歩くと20分ほどかかります。まずスイスカーゴのオフィスで聞いて見ると、他の会社で送っても荷物は全てイベリア航空の保税倉庫に入るというので、そっちに行けと言われました。
倉庫の窓口で書類代と保税倉庫の超過料金(4日間までは無料です)を支払い、通関に必要な書類一式を受け取ります。それを持って近くの税関に行くと、荷物の検査も何もなしに、書類に「通関」のスタンプをくれました。スペインはカルネが必要なく、またペルミソの発行もありません。通関さえすれば、あとはいくらでもスペインでバイクが使えるのです。(保険され入っていれば)
あまりのあっけなさにビックリです。
「通関」スタンプの押された書類を持ってふたたび倉庫に行くと、木枠に入ったバイクがフォークリフトで運ばれてきました。梱包を見るのはこれが初めてだったのですが、笑えるほど木枠はスッカスカ。ビニールを外して前面の板だけを外せば、あとは木枠の中に入って押して出せるほど余裕がありました。
面倒だったのは前後ともタイヤの空気が抜かれていたことです。少しだけハンドポンプで入れ、あとは近くのスタンドで入れ直しました。
以上が受け取りの様子です。簡単でしょ?スペインではむしろ、グリーンカード(ヨーロッパ共通の自動車保険)への加入の方が苦労しました。その様子はまた別の機会に書きます。
さて、スペイン側での費用と総決算です。
1513ペセタ
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書類代 |
6420ペセタ
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保税倉庫超過料(522キロ×5ペセタ+税×2日) |
7933ペセタ
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合計(2台分)=約44ドル |
+1477.2ドル
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チリ側費用 |
1521.2ドル
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総合計(2台分)・・・1台=760.2ドル |
早いし、安全だし、安いし、いうこと無いでしょ?我ながらよくやったと思う今日このごろです。
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